第27話
二人で神社の境内へ入ると、真っ先にお参りを済ませた。
昨日で三が日も終わり、地元民しか来ないような近所の神社ということもあって、参拝客はまばらだった。
有名な神社になると、三が日が終わっても時間帯によりお参りするのに10~30分待つ神社もあるという。そこまでしてお参りすることの意味を俺は理解できない。
用が済み、さっさと帰ろうとしたが『お参りに来たら当然おみくじもやらなきゃ!』というロコの強い希望により、境内の脇にあるおみくじ売り場へ。
「小吉......また微妙な。ロコは?」
「へへーん、私はほら! 大吉でした!」
パッとしない結果の俺をあざ笑うかのように、ロコは両手でおみくじを顔の前に突き出した。
その紙の持ち方されると、雰囲気的に大吉が『勝訴』に見えてくるな。
「どうよ、私の開・運・力!」
「でもこれ、大吉のわりには文言がアレだな」
大吉というと何やっても上手くいきます的な文言が書いてあるイメージだが、ロコが引いた大吉の文言は違った。半分以上がマイナスな文言という、印刷ミスを疑う内容。
特に商売の文言......大吉であまり利益はないでしょうって、これが凶だったらなんて書かれているのか凄い興味がある。
「内容なんてどうでもいいの! 大吉を引き当てたことに意義があるんだから」
「そんなもんなのか?」
「そういうものなの☆」
頷き、自信満々にニヤリと表情を浮かべる。
所詮はおみくじだ。本人が幸せな気分になれたのなら、それでいいのかもな。
「剣真ってさ、昔初詣でなんかあったの?」
おみくじを横にあるおみくじ掛けに結びながら、ロコが言った。
「なんだよ急に?」
「いつもなら私の誘いにすぐに乗るのに、初詣行こうって言ったら露骨に嫌な顔したから」
俺、そんなに顔に表れてたのか。上手く隠してるつもりだったけど。
「......実は俺さ、物心ついてから初詣行ったのって、去年が初めてだったんだ。たまたま気が向いて、当時住んでいた家の近くの神社でお参りした。その半年後に母さんがガンで倒れて.........そうなった明確な原因を求めたい俺は、自分勝手にこう思っちまったんだ。"全ては神様にお参り、初詣に行ったのが原因"だって」
昔を思い出して、自然とおみくじを結ぶ手に力が入る。
「本当は母さんの異変に気付けなかった俺の責任なのに、何かのせいにしてさ。20歳を過ぎた大人のくせに、ガキの頃から変わってなくて情けないよな」
ロコが保健所に連れていかれた時も、自分の無力さを呪いながらそれ以上に無慈悲な神を恨んだ。
人間に創られた存在をいくら恨んでも意味が無いというのに。
「......そうだったんだ。ごめんね、無理に連れてきて」
「別にロコが謝ることじゃねぇだろ。それに、さっきお前と一緒にお参りして思ったんだ」
拝殿の方に視線を向けると、子犬を抱きかかえた男女のカップルがお参りをしていた。
「去年初詣に行ったおかげで、俺はロコにまた再び会うことができたのかもなって。行ってなかったら、お前とも再会できず、まだ一人孤独を抱えたまま日々を過ごしていると思う」
俺がここまでポジティブな思考に戻れたのも、全部ロコのおかげだ。
「だからこれは神様へのお礼だ。俺とロコを再会させてくれたことへのな」
「......剣真」
優しい微笑みを浮かべ、ロコは俺を見つめる。
神社の中という吊り橋効果も働いて、恥ずかしさで直視することができない。
「正月から恥ずかしいこと言わせんなよ」
「剣真が一人で自爆してんじゃん。人のせいにしないの」
「あ、そうだな」
お互い鼻を鳴らしてくすくす笑う。
こんな風に今年もロコと過ごせたら、どんなに幸せだろうか。
おみくじも結び終わり、このあとの予定を話しながら神社の境内を出ようとした。
その時だった。
「――大志葉さん? え、うっそ! 大志葉さんじゃん!?」
「......兵藤さん!?」
鳥居をくぐると、たった今、横をすれ違った女の子に背中越しから声をかけられた。
ゴスロリ調の服を着た、肌の白さが目立つ背の小さいツインテ女子。
反応から察するにロコ、大志葉加那の知り合い。
初詣にその服装で来る限り、個性的な女子であることは確定だろう。
「もう! グループのメッセージに全然既読がつかないから心配してたんだよ!?」
「......ごめん。最近全然チェックできてなくて」
「......こっちこそごめんね。大志葉さん、ホント大変だったのに......もう大丈夫なの?」
「う、うん......まぁね」
「元3年2組の皆も心配してるけど、特に玄徳の奴がさ~。だから近いうちにまた昔みたいに集まろうよ」
「そうだね......」
「じゃあ私、彼氏待たせてるから行くね。皆には私の方からフォロー入れておくから、今日にでもグループにメッセージ送ってよ!」
そう言って彼女は、足早に境内の奥へと消えて行った。
ほんの僅かな時間だったが、なんか台風みたいな印象の女の子だったな。
「知り合いか?」
「......中学の時の同級生。今でもたまにクラスのグループのメッセージを通じて連
絡が来るんだ」
個人ではなくグループを通じてというところに、彼女との関係性が見えてしまった。
女子は男子と比べていろいろ人間関係が面倒だよな。
「そうか......あの子が大変だったって言ってたけど、何かあったのか?」
「別に。何もないよ」
ロコは薄い笑顔で頭を横に振った。動揺している。
「俺達家族なんだから、何か困ったことがあったら絶対言えよ? いくらでも協力してやる」
「だーかーら、何も困ったことなんてないし。心配してくれるのは嬉しいよ。でもされ過ぎるのはちょっとウザイかも」
その言葉に軽くショックを受ける。そうだよな、ロコが何でもないというのなら何でもないのだろう。行き過ぎた心配は逆に相手に対して失礼だ。
俺にできることはロコを信用してやることだけだ。
「......ならいいけど」
「お参りしたらお腹空いたねー。たまには外でご飯食べようよ? もちろん剣真のおごりで
☆」
これ以上触れるなということは大体分かった。
だったら無理にこの話を掘り下げる必要はないな。
「牛丼屋だったらいいぞ」
「いいね~! 私牛丼屋入ったことないんだ~。剣真となら初体験も怖くないよ~」
「公衆の面前で初体験言うな」
表面上はいつものロコに戻ったように見える。
だがなんとなく無理にテンションを上げている。そんな風に感じて栓が無い。




