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第25話

「......ま......お......て」


 遠くの方で何か声のようなものが聞こえる。

 子供の声だろうか。

 朝早くから元気なのは結構だが、できればもうちょっと声を抑えてほしい。

 こちとらクリスマスから暫く休み無しで働いていたので、できればまだまだ寝ていたい気分なんだが。


「......んま......きてよ」


 馬、来てよ? 近所で馬なんて飼っている家でもあるのか? 世話するの大変そうだな、おい。

 俺はもう一度深い眠りに入るべく、寝返りを横にうつ。


剣真けんま! いいから早く起きなさい! 散歩の時間だよ!!」


 大声に驚いて目を覚ますと、そこには制服姿のロコが俺の身体におおかぶさるようにたたずんでいた。 


「やっと起きた。私、もう我慢できそうにないから、早く着替えて散歩行こう」

「我慢? ......なんの我慢だ?」


 そこまで急ぎの散歩なら一人で行けばいいのに。ていうか、急ぎの散歩ってなんだ。もはやそれは用事じゃないのか。


「うわー、剣真引くわー。女の子にそれ訊いちゃう?」

 

 ロコはジト目で軽蔑けいべつするような視線を送る。

 悪い、マジで引かれる理由が分からないんですけど。

 俺の上から身体をどかすと。


「そんなの......生理現象に決まってんじゃん」


 視線を外して小さくこぼした。

 JKに朝から生理現象という言葉を言わせてしまったことに罪悪感を感じた。


 しかしなんでコイツは家のトイレを使おうとしない。

 男の俺と一緒のトイレは嫌だということか?

 完全に目覚めきっていない頭でいろいろと考えてはみるが、考えるほど自分のせいな気がして凹んでくる。 

 ごめんなさい、トイレの神様。今度から綺麗に使うよう意識します。


「だから早く準備してよ。我慢のし過ぎで病気にでもなったらどうすんの?」

「分かったから。すぐ着替えるからちょっと待ってろ」 


 JKの連れ〇ョン、もとい散歩に付き合うべく、俺はできるだけ急いで私服に着替えた。

 ぼさぼさの髪を軽く手櫛で整え、ロコが待機している玄関前へ。


「お待たせ......っておい。なにをこのタイミングで玩具おもちゃ犬耳尻尾いぬみみしっぽなんか付けてんだ? 散歩行くんだろ?」


 いつぞやロコが商店街で買ってきたという、無駄にハイテクな玩具を装着して俺が来るのを待っていた。


「何言ってんの。私のチャームポイントが玩具なんかなわけないし。今日の剣真、ちょっとおかしいよ?」 


 おかしいのはお前だろうがぁぁぁぁぁぁ!


 そんなもん付けて散歩なんか行ったら即職質&近所で噂されるに決まってるだろうがぁぁぁぁぁぁ!

 

「まぁいいや。これよろしく」


 はいはい、だと思ったよ......ここまで来たら当然首輪もくるんだろうなって思ってましたとも......。


 俺の意思とは関係無く、勝手に手が慣れた手つきでロコに首輪を装着させた。

 

「準備完了☆ 今日もいっぱい朝の陽射ひざしを浴びて身体を目覚めさせよー♪」 


 俺は何か新しい快感に目覚めそうだよ......。


 飼い主の心配? 不安? をよそに、ロコは自ら玄関の扉を明け、元気に飛び出していった。  




「......剣真、ちょっと起きて」

「..........ん? ふあぁぁぁぁぁぁ~」


 ロコと新しい世界へ旅立ったはずの俺は、気がつけば再び布団の中に逆戻りしていた。


「酷いうなされ方してたけど、大丈夫?」


 ロコが横から心配そうな表情を浮かべている。

 その姿はいつもの紫色の上下のスウェットに、家事モードを表すポニーテールの髪型。

 犬耳と尻尾の存在は、あるわけがない。


「あぁ......大丈夫。変な性癖せいへきに目覚める前に目が覚めたから」

「どういうこと?」

「なんでもない。気にすんな」


 頭の上に大きな疑問符ぎもんふが現れているのが分かるくらいのはっきりとした表情に、俺は思わず鼻を鳴らした。


 どうやらあれは夢、しかも初夢というやつだったようだ。


 新年早々とんでもない夢を見せやがって。万が一目覚めてしまったらどう責任取るつもりだ? 新年の神様達よ?


「ならいいけど。朝ご飯できてるから、早く来てね」

「サンキュー」


 俺は布団から身体を起こすと、自分の右頬みぎほおにほんの少しだけ生温なまあたたかい湿しめり気を感じた。

 それが俺には妙に気になった。


「なぁロコ。ひょっとして俺が寝ている時になんか顔にしたか?」


 寝室から出て行く直前のロコを背中から引き留める。


「......ううん。なんで?」

「いや、なんとなくなんだけど」

「なんとなくでお姉ちゃんを疑うなんてショックなんですけど」

「悪い。多分俺の気のせいだと思う。忘れてくれ」


 俺の気にし過ぎというやつかもしれない。

 連日の激務で身体が少しナーバスになっているのだろう。

 仕事が落ち着いたら久しぶりに整体でも行くか。 


「......あ、そうだ剣真」


 何かを思い出したように、きびすを返して俺の横にやってくる。

 正座をし、ほのかに朱色しゅいろの顔を下げ、言った。


喪中もちゅうだからおめでとうは言えないけど、今年もよろしくね☆」

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