8.さとしの旅立ち
「そうして兄の神はこっちの世界にきたんだ。初めて勇者に出会った時、僕はお腹をすかせていてね。
もう何百年も彷徨っているんだ。って言うと原初の子だね。一緒に旅をしないか?まずは俺が作った店でご飯にしようって。この村も俺が作ったんだ。って最初は嘘が下手だなーって思ってたよ。それはそうだろう?王都に行ったらこの王宮は手が込んでるんだ。とかここには風車を置くつもりだったとか。酒を飲むといつもさっきの物語を話してくれた。もう覚えてしまったよ。
あの時は8人で旅をしてたんだ。町や村を襲ってる魔獣やモンスターを倒しながらね。勇者って称号も町か村の誰かがそう言っただけなんだけどね。あの時が僕は一番楽しかった。
でも勇者はいつも寂しそうにしていたよ。妹は幸せにやってるだろうかとよく空を見ていたんだ・・・・」
アランにとっては昔話なんだろう。俺にとっては俺が産まれる少し前にあったRPGを作るゲームで遊んでいた友人同士2人と妹の物語だ。
昔の勇者もファンタジー風にアラン達に話していたのだろうか?なのであれば少し面白い話だ。
「面白い話をありがとうございます。アラン。よくわかりました。ですが俺は誰の血縁なんでしょう?」
うーん。と髭に手を当ててアランが答える。
「単純に考えて君はその1000年前と300年前に現れた巫女さんの血縁だろうね。で、その巫女さんは勇者の妹さんの血縁になるのか?まあよくわからないけどね。色々思うところはあるだろうけど君はもうこっちにいるんだ。なるようにしかならない。それとね、そのエリアドル君がそっちの世界にきたきっかけで巫女ちゃんを見つけた赤い宝石。これの事だろう?」
前にエリアドルさんが大切そうに箱から出して見せてくれた聖女の涙というやつだ。世界に1つしかないと言っていた気がする。
「なぜアランがもっているんですか?これは1つしかないって・・・」
「これは1つではないし聖女の涙でもない。これは勇者の・・・彼の呪いというべきものなんだ。」
驚いた。勇者は死んだのか?巫女の血ではなかったのか?
「彼は願ったんだよ。自分たち以外の者・・・妹がこちらの世界にこれないようにとね。そして彼は自分の大量の血液と魔力でこちらの世界、2大陸そのものを封印したんだ。だけど1つ誤算があった。彼以外に転移陣を作れる者がいたんだ。別世界にね。
だれかが過去に遡って転移陣だけを置いていく。恐らくだが勇者も気付いた。妹さんが魔法陣を発動していることに。妹さんは破壊していなかったんだ。それで妹さんが転移してくるんじゃないかと思ったんだが転移してくる様子もない。たぶんだけどあちらとこちらを繋いだけど来れなかったんじゃないかなぁ。君はこちらの魔力で往復できたといってたけど・・・
そもそも転移魔法陣なんてものを勇者や僕ら以外知る由もないんだよ。だから転移魔法陣を使える国も巫女の血だと偽っていることも怪しすぎるんだよね。そしたらゼストの名が出るじゃないか。面白いと思わないかい?」
アランはニッと笑った。いいえ。全然笑えません。不安で仕方ない。
「で・・・勇者はなくなったんですか?寿命ですか?」
「いいや。転移者に寿命はないよ。たぶんね。こっちにきて寿命が無くなったんだろうね。何百年も同じ顔してたよ。彼は最後に考えても仕方ないって。北に旅立って行ったよ。
神が北に行ったという記録を頼りにね・・・それと(ここに転移陣を残しておく、誰かが来るかもしれない。他の地に転移されるよりはいいだろう。君たちはここに来た奴を導いてくれ。なあに俺の呪物がここにある。転移しても血の濃い者はそれに引き寄せられる。幸い君たちは原初のNPC。殺されない限り死なないさ。)この言葉を最後にいなくなったよ。」
おおぅ・・・それでずっと待ってたのか・・・・
アランは椅子に寄りかかり眉間に皺が寄っていく。髭を触る手がプルプルと震えだした。
「ほんとにあの勇者は馬鹿なんじゃないかと思うよ?何千年待たせるんだよ?何が原初のNPCだから死なないだよ。もう死にかけじゃないか?限度があるだろう。」
ふぅとアランは息を吐いた。本当に痛み入る。
「なんかすみません。」
とりあえず謝っておいた。ここは刺激せずに待とう。そう思った。
「まあ・・永い・・とても永い年月を待ったよ。君は勇者の何かであるのは間違いないし君は何よりもここに来てくれた。呪いに引き寄せられた濃い血であるのも実証済みだ。まあ僕は嬉しかったんだ。それと君には今から行ってほしい場所がある。当時8人いた、ゼストが生きてれば9人になるのか・・・。原初のNPCのうち僕も含めて知っている限り4人は大陸ラナにいるんだ。会いに行ってくれないか?おそらく君を待っているはずだ。
うん。君は強くなる為にも会うべきだし味方は多いほうがいいだろう?ただ勝手勇者に振り回されたんだ。とばっちりは覚悟しないといけない。」
「俺はその3人に殺されたりはしないですよね?」
これは伝えないと。みんなアランみたいな性格とは限らないだろう。まだ死にたくはない。
「それは大丈夫さ・・・たぶんね。」
「アランは一緒に来てくれたりはしないんですか?」
「僕はステータスを昔の状態に戻す為に瞑想に入る。それに魔法王国ゼストからここに召喚魔法が送られてきた時の対処もある。大丈夫。殺されない限り死なないさ。」
アランは微笑んだが、それが一番心配なのだ。
「僕も鬼じゃない。君に2つもプレゼントをあげよう。」
恩着せがましいがそこは言うまい。楽しみでもある。
アランは座っている足元に置いてある箱を持ち上げようとしたが地面にピッタリと張り付いて剥がれなかった。なのでそのまま箱を開け中身を取り出してパタパタと埃を払う。
腰につける袋?ポーチみたいな。麻で出来ているような巾着の袋だ。
「これは勇者が使ってた魔法の袋。って言っていたね。うーん・・・いっぱい入るらしいけど実は僕も知らないんだ。沢山入れても思った物が取り出せるから便利だと言っていたけど・・・入れたものを忘れたら2度と取り出せないんじゃないのかい?って聞いたら無言になっていたからこの袋には重いものだけ。とか分けるのがおすすめだ。それともう一つ、新しい勇者君、握手をしよう。」
俺は、「はい・・・・」と答えアランの右手を握った。ポワーっと白い光が握手をした手を包んだ。すぐさま光は俺の中に入っていった。
「これはキュアという光の回復魔法でさっきの君みたいな単純な傷なんかはそこそこに治るはずだ。これは消費MPを極限にまで抑えた初歩の光魔法なんだ。だけど君は光属性の覚醒をまだ果たしていない。だから怪我をしたら一時はその干し肉と水頼みだから大事に使うんだよ。」
早めに光属性の覚醒を果たさないといけないって事だ。俺はリュックの中の道具一度全部出した。
パチンパチン。
「何だいこれは?凄まじい明かるさじゃないか?」
アランはLEDライトとLEDランタンに夢中だ。
「それはライトとランタンです。それだけ明るければ重宝すると思いまして。」
そうだろう。そうだろう。と今度は他のキャンプ道具に目移りしているようだ。
俺は水のペットボトルなどを魔法の道具袋に入れる。袋の口に近づけるとフッと消える。もう一度水と思い描けば水が現れた。
何とご都合主義な道具袋だろう。これぞファンタジーといったところか。思わず感動していたが重い物は忘れないように入れていく。
ライト等に使う電池はリュックと道具袋に分ける。サバイバル用のナイフは腰に装着した。銃刀法違反はないだろう。
干し肉もリュックと道具袋に分けた。取り出した裸の干し肉を道具袋に入れておくとすぐさま食べれる。
ポケット付きの防刃ベストのポケットにもキャンプ用品店に売っていた小型の殺虫スプレーとジッポライター。リュックがかなり軽くなった。道具袋の重さは全く感じない。ベルトにきつく結んで完了だ。
「アラン。色々とありがとうございました。」
俺はアランに深々と頭を下げる。
「僕も少し外に出てみるよ。見送ろう。それと原初のNPCのいる場所は恐らく表に出れば解るはずだ。じゃあ行こう。」
俺は外に出る為、扉を引いた。アランも後ろに続く。流石に真っ暗だが微かに息遣いが聞こえる。LEDライトと道具袋に念じ
そのライトを手に持ち光を照射した。指輪が先に目の前の相手を映し出す。
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ダークウルフ レベル13
属性闇
HP 3/46
MP 16/16
攻撃力 28
防御力 8
敏捷性 22
魔力 12
魔法防御 0
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先程のダークウルフが焦げて横たわり肩で息をしていた。
「君はこれと闘ったんだね。よく勝てたじゃないかー。凄い凄い。さあこいつはまだ生きてる。とどめを刺さないと。」
俺はサバイバルナイフを抜き取ったが、そこから躊躇した。手が震えるのだ。
俺はここで、これはゲームだがゲームではないことに気付いた。HPが残り僅かになると動けなくなるんだ。普通はそうなんだが・・・。とにかく殺さなければならない。俺はナイフを握りしめ後ろに付いてきてるアランを見た。
「何をしてるんだい?情でも出たのかい?こいつを殺さないと経験が入らない。レベルも上がらないんだ。それでは巫女ちゃん達も救えない。腹を括るんだ。君はここに何しに来たんだい?こっちの世界を観光でもしにきたのかい?」
アランの口調は今までのアランより冷たかった。強くなってみんなを守らないといけないんだ。
俺は死にかけのダークウルフの横に立ちナイフを構えた。ダークウルフは動けないが潰れていない片方の目で睨みつけてくる。
「こいつのHPは3。身体のどこに刺しても絶命するよ。」
俺はナイフを腰に構え自分の身体ごと突貫し深々とダークウルフの腹にナイフを差し込んだ。ボフゥと音がしてダークウルフか煙のように消えていった。
あれ?俺は唖然とする。消えた・・・。ダークウルフは黒い煙を出して消えていったのだ。
「その黒い煙。それが瘴気だ。モンスターは瘴気から生まれるんだ。瘴気は霧散して消えて空気になる。瘴気が増えればモンスターも増える。瘴気が増えて濃くなれば何倍も強い個体も現れる。だけど瘴気も無限じゃない。だから人々は瘴気が薄くモンスターが弱い内からモンスターを狩るんだ。
世界に瘴気が溢れていくからね。だが魔獣は少し趣が違う。瘴気は霧散するが死体は残る。元々獣だったんだ。瘴気を吸って魔獣になった。
普通の獣の皮より魔獣の皮は強靭になる。まあ防具を作るのに獣の皮より魔獣の皮の方が防御力が高いって言い方の方が君に解りやすいんじゃないかな。」
アランは普通の口調に戻り歩きながら解説してくれた。
「あちゃー。僕の祠が壊れてるじゃないか。」
ダークウルフがいた部屋でアランが頭を押さえる。アランの祠だったのか、そりゃあ2000年以上経てばそうなるだろう。
「まあいいか。この崩れた部屋の奥に扉が見えるだろう?壊れてるけど。ここから外に出よう。実は僕の居た部屋以外は自由に行き来出来るんだ。何もないけど・・」
アランが前に出てが瓦礫をどかしていく。そしてアランは外に出る為の扉に手を掛けたがビクともしない。斜めにひしゃげている。
「ほんと僕の祠も修理しないといけない。ちょっと下がってて。」
アランは一歩下がり扉を蹴り上げた。ドガシャーンと派手な音と共に扉が吹き飛びその扉も粉々になった。俺は言葉を失った・・
「じゃあ出ようか。」
アランが先に外に出て背伸びをしている。朝日はまだ出ていない。天空は凄い星の量だ。時折流れ星が空を切り裂く。俺はまた言葉を失った・・今度はいい意味でだ。
「ちょっとさとし君来てごらん。あっちの空をみてみなよ。赤い光が空まで伸びているだろう。この光が僕の封印を解いた証で、そして君がここに来た証なんだ。
まずあそこが最初の祠。焦炎の女神ホムラ。怖い人だから気をつけるんだ。」
焦炎の女神・・・怖い人なのか・・・俺はリュックから方位磁針を取り出した。これは必須だ。磁場があるならの話だが・・
方位磁針を手のひらの上に置く。方位磁針はちゃんと針を指す。赤い光の位置は真っすぐ西かな。北にジータ大陸があるんだろうが何も見えない。
遠すぎるんだろう。
「それも凄いね。方位を見るんだね?こっちにもあったんだよ。昔ね勇者が何か月も掛かって作ったんだよ。この世界にも方位があるって喜んでたっけ。そうそう。君のステータスを見てごらん。」
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川岡さとし レベル4
見習い剣士
棒使い
HP 23/23
MP 22/22
攻撃力 11 + 8
防御力 10 +12
敏捷性 14
魔法力 9
魔法防御 6
装備
大型ナイフ 攻撃力に+4 転移者補正+2 剣技 +2
防刃服 防御力に+8 転移者補正+4
スキル
棒術 レベル1
剣技 レベル1 剣技+1 神の血統 ×2
神の血統 全ステータス1.5倍
レベルアップ時上昇したステータスに1.5倍補正
神の血統 全スキル 2.0倍
スキルレベルアップ時 上昇したスキルに2倍補正
転移者補正 武器防具 1.5倍
身に着けた武器防具に1.5倍補正
魔法
キュア 使用不可
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「凄いじゃないか。レベル3も上がってるね。それに全てのステータスが均等に上がってるじゃないか。ナイフも剣なの?これは知らなかったよ。補足だけどね、武器のスキルはレベル3を超えると補正値が2倍になるんだ。だからレベルが3だと+6になる。
君は神の血統でその倍の+12になる訳だ。レベルが5、7、10と1倍づつ上がっていく。レベル10が最大となる。
だから特に君の場合はスキルも馬鹿にはできないんだ。杖も袋に入れておいて回復の時にでも使うと魔法力補正が得られる。ほんの豆知識だよ。それじゃあ。三つ祠を廻ったらこっちに一度帰っておいで。」
「はい。本当にありがとうございました。祠を全部廻って必ずここに帰ってきます・・・じゃあまた。」
アランは手をふって見送ってくれた。
太陽が顔をだす。太陽って名前なのも怪しいが太陽でいいだろう。真っすぐ西に向かって歩き出す。まずはホムラの祠。地平線まで続く広大な荒野。立ち上る光はその遥か先だ。
不安は一杯だが楽しくもあった。
じゃあ出発しよう。今から俺のロールプレイングゲームを始めよう。
さとし編 1部 終わりです。