7.異世界の昔話
俺はアランにエリアドルさんが現れたところからこちらに転移するまでの経緯を順を追って説明した。
アランは説明中終始髭を触りながら目を閉じ静かに聞いてくれていた。説明が終わってアランも目を開き天井を見つめている。
「魔法王国ゼスト・・・・・ゼスト。あのおっさんが生きているのか?まさかね・・・」
とアランは天井を見たまま呟き上を向いていた顔をこちらに向けた。
「君たちをこちらに連れてきたエリアドル君だっけ?彼は信用できる男なのかい?まあ会って短いだろうから分からないとは僕も思ってはいるんだけどね。ゼスト・・・大陸ジータにそんな地名や国は一つもなかった。まあ古い話だし時代も変わったと言われるとそれまでなんだけど。僕は一人だけゼストという男を知ってるんだ。杞憂だといいんだけどね。で、エリアドル君っていうのはどうなんだい?」
で。と言われてもな。会って2日しか居なかった訳だし。まあ、だけど凄くいい人ではあったよな。友紀もめぐみさんも守るって言ってくれたし。
「はい。大丈夫・・・・だと思います。少なくとも俺には人を騙したりする人には見えませんでした。」
アランはジッと俺の目を見て、うん。と頷き少し微笑んだ。
「ならそのエリアドル君に関しては大丈夫としよう。もしそのゼストが王をしているとしたら・・・まあそこは後で考えよう。奴は僕たちと同じ自我や感情を持った何千年も生きてきた最古の人間。
奴は産れ落ちた瞬間にセリフを1つ与えられただけの名もない盗賊だったんだ。奴は勇者に取り入って100年以上も僕らは旅をしたんだ。悪い奴ではなかったよ。頭は良くなかったけど・・
でも奴は旅をしレベルを上げていくうちに闇の属性を覚醒させた。それからすぐ後だ。奴はみんなの寝込みを襲い、寝ている僕らを斬りつけ色々盗んで逃げってたよ。奴は勇者に背中を切られたけど・・。
僕らは勇者に助けられたけど少し安心し過ぎてたんだろうね。奴のゼストって名はジータ大陸とラナ大陸の間にあった火山島の名からだよ。死火山ゼスト島。昔に噴火して繋がっちゃったけどね。」
ゼストか・・最古の人間っていうのはいったい何年生きるんだ?それよりも友紀や優、めぐみさんはその魔法王国ゼストにちゃんと付いたんだろうか?
その心の質疑に指輪が応答し壁の方に向かって赤い光の線を出す。そうか来てるんだな。少しホッとする。
だが到着してても不穏な想像を掻き立てられ俺の心が嫌な予感でいっぱいになっていく。俺は慌ててリュックの中を漁り始める。急がないと・・
「さとし君さぁ、こう言うのも何だけど急いで行っても無駄だよ。あっちはエリアドル君に任せるしかない。今はね。それにどうやってジータ大陸まで行く気なんだい?北のジータ大陸とラナ大陸の間は瘴気の地獄なんだ。まあ君に今出来るのは強くなること。エリアドル君に託すこと。それと僕の話を聞くことだ。」
それはわかってるさ。俺が行っても役に立つのはおろか辿り着けもしないだろう事ぐらい。それが烏滸がましいくらい弱い事だってわかってるさ・・・・グッと拳を握り歯を食いしばる。
「それはわかります・・・・ですが俺は・・」
「君の気持ちは分かるし、僕は今の君には何も出来ないといっただけで、僕が何も出来ないとは言ってないだろう?」
アランはゆっくり立ち上がり笑った。パラパラと粉や埃、砂が落ちる。映画で石像が動き出す感覚に似ている。ペットボトルの水を一気に飲み干す。
「ぷはぁー本当にあっちの世界の食べ物って不思議だよね。かなり魔力も回復してきてるみたいだね・・・」
アランは立ち上がって右手をまっすぐ垂平に伸ばし手のひらを下に向け目を閉じ「シャドウ」と魔法を唱えた。手のひらの真下に直径1m程の魔法陣が現れそこから真っ黒な鎧戦士が現れた。
「どうぞご命令を。アラン様。」
俺は驚きのあまり口を開けたまま固まっていた。アランは首を傾げた。
「兵士君ごめんね。今の僕のMPじゃ召喚出来たのは君一人だけみたいだ・・(兵士の力も弱いな。魔法力もかなり減ってる。少しの間、瞑想が必要か・・・)」
アランはふぅと息を吐き髭をさわり黒い鎧の兵士に話しかける。
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闇の兵士 ランクE レベル15
剣士
闇属性
HP 60/60
MP 20/20
攻撃力 25 +21
防御力 25 +20
敏捷性 25
魔力 20
魔法防御 5
装備
黒の剣 攻撃力に+15 剣術+6
黒の鎧 防御力に+10
黒の具足 防御力に+5
黒の兜 防御力に+5
スキル
剣術 レベル3 剣装備時補正 +6
闇魔法 レベル3
魔法
ダークジャベリン
召喚魔法 G
――――――――――――――――
「北のジータ大陸更に北の魔法王国ゼスト。恐らく城に匿われているだろう巫女と呼ばれる異世界の少女、友紀の守護そして優、友紀の母の守護を任せるよ。
周りに気付かれるなよ。そこで友紀という少女に従うんだ。危険があれば召喚魔法を使用しこちらに知らせること。それと異世界の食べ物や飲み物はHPやMPの回復薬だ。死にかけても助かる。大事に使うようにと伝えること。以上だよ。では行きなさい。」
「御意に。」
黒い兵士はスゥと地面に溶けていった。
「説明すると彼は魔法そのものなんだ。魔素の中に溶けて凄い速度で進む、そして瘴気の地獄も通ることができる。でも多くMPを消費するから大人数は出せないんだ。
今の僕では彼一人が精一杯だね。彼らにはランクがある。SからGまで。勿論Sが最上位だね。このレベルは全盛期の僕も無理だ。神獣の領域だね。彼らは残り全てのMPを使用し自分のランク2つ下までの召喚が出来る。だからさっきの彼はGしか召喚できない。F以下だと召喚すらできないんだ。
僕は元々闇魔法が専門なんだ。だから魔力云々は別にして光の魔法はあまり得意ではないんだよ。光と闇だけは対局する。だけど前の勇者は僕に血を与えた。
光の属性が宿ったんだ。だから闇が嫉妬した。僕は両方使えるけど中途半端なのさ。転移者は光か闇のどちらかの適性がある。勇者の血縁だから君は光だ。逆を言えば光の魔法は勇者の血族だけで闇は転移者とモンスターや魔獣、それと最古の僕らだけなんだ。。ゼストが闇に目覚めたのもそういう事さ。
ラナ大陸には魔族という種族がいるけど彼らは魔法に特化しやすい人種なだけで基本的には人間種と変わらない。結局はステータスの上昇率だけなんだ。人間は平均的に少ない伸びでエルフは敏捷と魔法力、魔族は魔法力や魔法防御。といった具合にね。
闘うと恐らく人間が一番弱い。だけど一番賢いとも言われている。だから滅びない。勇者から言わすと人間である僕らも危機感が乏しいらしいけれどね。」
アランはここで一呼吸と背伸びをして袋に入った干し肉をモグモグと食べ始めた。美味しかったらしい。だが本当に助かる。黒の兵士1人でこれだけの安心感。
「ところでさ。巫女ちゃんは君の妹か姉なのかい?」
アランはボロボロの布から手を出して口を拭った。びっくりしたのはもう枯れ枝のような手ではなかったことだ。
「あ・・・ああ。友紀はただの友人ですよ。血の繋がりもないし、恋人同士とかそういうのも全くありません。・・・・ただ5年程前友紀が大けがをして俺が助けた事がありました。あまり覚えてないのですが、輸血・・いや血が足りなくなってあげたんです。」
アランは残った干し肉をモグモグと食べながら天井の方を眺めている。
「それじゃあ巫女ちゃんは僕と同じなんだね。そのときに光の属性に覚醒したのか・・・そのモンスターが押し寄せるイベントは5年後くらいだったっけ?」
イベントってお祭りみたいに言うなぁ。
「そう聞いてます。だいたい5年後だそうです。」
アランは珍しく真剣な強い眼差しで俺を目を見た。
「そうか・・君は5年後には相当強くなって光魔法をマスターしてそこにいないといけない。巫女ちゃんじゃあそれを止められない。押し返す事が出来ない。」
俺は目を見開きグッと拳を握った。5年か・・大丈夫か俺。やるしかない・・んだろうな。アランはにっこり笑ってこっちを見た。
「君に僕らしか知らないとっておきの昔話をしてあげよう。勇者の原点だ。」
突然の昔話に驚いた。アランは口に一本指を立てて少し笑って頷いた。
「3000年程前1人の神が2人の兄妹の神を誘って3人で世界を作らないか?と提案した。兄妹の神もそれは楽しそうだと賛同し、ここに3人の神の世界作りが始まった。
まず1人目の神が季節をそして朝と夜を作る。そして2つの大きな大陸を作り海と2つの大陸の間に島を作った。その神はその2つの大陸に山を作り川を走らせ国土を作っていく。
兄の神は大陸に魔法の源となる魔素を巡らせ木々や川にも魔素を行き渡らせ精霊を作った。水の精霊は川を使い綺麗な水を土に送る、土の精霊はその水を使い木々や草に送る。
そして木々や草を芽吹かせた花を風の精霊が風に乗せて遠くに運ぶ。そして火の精霊は風の精霊の助けを借り自然災害を起こし木々を燃やし水の精霊に養分として返した。
兄の神はその循環を作りそれから1人目の神が作った国土に町や集落を作って人が住める環境を作っていく。妹の神はその国の街や村、集落に人種毎に分けた人を配置していった。
だが妹の神が作った人々は魂を宿すことはなかった。その国や街で暮らす住人達はフラフラと所定を徘徊するだけで混沌としていた。妹の神はこの世界の時を止めて彼らに芝居で使うセリフのような言葉を刷り込んでいくことにした。長いセリフを話す者。町の案内をするもの。村の名を伝えるもの。王や商人、農民や兵士など様々な人を生んで言葉を刷り込んでいったんだ。
ある日、一人の青年にあっては成らない事が起きた。只々同じ場所を徘徊していたその青年はその村を飛び出して行ったのだ。規則を破った青年に妹の神は慌てた。その青年は自我を持ち感情を持っていたんだ。
彼は好き放題動き回る。この世界の時を止めているにもかかわらずだ・・そして突然に彼に変化が起きた、1人目の神の姿の容姿となって。 同時に兄妹の神の前から煙のように一人の神が消えた。
そこから変化は顕著に現れ始める。自我を持たぬ者達が神達が望む以外の違う言葉や習慣を持ち始めたのだ。兄の神は必死に最初の神を探し始め、妹の神は時を止めて自ら生んでいった人々を消し始める。
だが二人の神にも出来ないことがあった。最初の神を探すのと人々を消す事を同時に進行できなかったのだ。兄の神は最初の神を探したい。妹の神は自我を持つ前に人々を消したい。
兄妹の神の意見は異なったが時を分け分担して何か月も神を探す作業と人を消す作業を行っていった。だが自我はまだ持たないが男女のペアリングが勝手にうまれ数分後には子供が産まれだす。
妹の神は男女のペアも容赦なく消していく。その子供達は勝手に年を取り数日で死んでいく。今度は古株の年を取らない人々をターゲットに存在を消していく。
神の世界とここの世界と時間の流れるスピードが圧倒的に違うのだ。
最初の神がいなくなってから劇的に世界が予想外に変化していく。時間を止めても勝手に進んでいく世界。妹の神は最後に時間を遡れないかと・・この世界の過去に行けないのかと考えたその時、妹の神が一番恐れていたことが起こった。
自分の兄に似た者が現れたのだ。みるみる兄の手や足が薄くなっていく。
妹は兄を掴み、顔を真っ赤にして泣きながら兄の神にしがみつく。だがどんどん兄は薄くなっていく。妹の神はしがみつきワンワン泣きながら顔をブンブンと振るが最早どうにもならない。
兄の神は最後に自分の妹に告げたんだ。(俺が行った後にそのゲームを壊せ。)と。」
アランはふぅと懐かしい目をして息を吐いた。