4.準備そして転移(プロローグ3)
少し長くなりました。
エリアドルさんは両手を地面に付き畳に涙を落とす。そうだよな。いっぱい人が死ぬんだもんな。明日はお金を全部おろしてキャンプ用品店に行こうかな。
「そうか・友紀は行くか。じゃあ俺も帰って準備をしてくる。お前もゲームしてたんならわかるだろうけど中世ヨーロッパって感じの世界なんだろ?ちゃんと便利グッズは買っとけよ。友紀にはその辺連絡しておくからよ。」
「ああ。わかった。その前に優。うちら3人であの喫茶店行かないか?晩飯だよ。」
「ああ。辛いやつか・・・辛いのは苦手だが・・・悪くない。行こう。」
エリアドルさんにも辛さを堪能させよう。巫女様の行きつけの店だ。泣いて喜ぶだろう。
俺たちはローブを被ってもらったエリアドルさんを連れて並木道の先、喫茶店パークウェイに向かった。
空が暗くなって並木道の人通りがまばらになりはじめる。エリアドルさんはキョロキョロと忙しなく首を動かし街並みを眺めている。相変わらずの不審者ぶりである。だが今日が最後だと思うと然程気にもならない。いつもの喫茶店の中に入る。うちの大学の生徒だろう、何人か会話をしていたり参考書を読んでいたりしている。奥の席が空いているようだ。「いらっしゃい。」といつものおじさんがあいさつしてくれる。席に座る前にそのいつものおじさんにいつものナポリタンを3つ注文する。そして間接照明だけが照らすいつもの一番奥の席に座った。何故か懐かしく感じるのが不思議だ。もうここには来れないだろう感覚からの懐かしさではなくこの雰囲気が懐かしさを醸すのだろう。
氷の入った水を3つ置いて奥へと戻っていく。
「エリアドルさん。俺は諦めているんですけどそっちの世界に行ってからこちらの世界に戻ることは可能なのでしょうか?」
エリアドルさんは俺達に眼を合わせ1口水を飲んでから話し出した。
「いや・・・可能と言えば可能なのですが難しいと言わざるを得ません。私は風の塔を管理していると言いましたね。厳密には風の属性の宝玉を管理しています。この宝玉は永い年月、大陸ジータの地面奥深く魔素の本流に晒され丸い形なったとされています。ですが宝玉の欠片といわれる宝石は今でもいくつか発掘されてもおります。そのいずれも魔素を吸収する働きがあるのです。私の杖の先端に付いているのも風の宝石ですが、私の魔力を吸うことで緑の風の属性に変化しています。宝玉も同じなのですが私の父が前回のスタンピートで使い切りそれから約300年魔素を貯め続けて今回の転移魔法1往復分でした。
ただ可能性の話をすればまだ火、土、水。世界4大属性の3つが300年間魔素を吸収し続けております。しかし300年前も巫女様の力を行使しながらでも全ての宝玉魔力を使い切り更には2つの国が滅ぶ程で戦です。今回ゼスト以外の全ての国が団結し方々で研鑽を重ねているとの事。まあ今言えるのは少ないですが可能性はあるということだけです。」
ゼスト以外?・・・そうか。そうだよな。俺はいいんだが皆家族がいるだろうし帰りたいんじゃないだろうか。
「まあいいんじゃねえか?帰れなくても。さとし、俺は楽しみだし皆もいる。せっかくだ。楽しもうぜ。」
ヤバいくらいの男らしさだな。優は。友紀にとっては最高の優良物件なのだが・・・あれじゃあ無理かぁ
会話が進んでいるうちに特製ナポリタンが到着した。エリアドルさんは目をキラキラさせ。優は食べる前からもう額に汗をかいている。
「こ・・これは旨い。美味しいですね。さとし。初めて食べる味です。」
ああ得意なのね。まあ美味しいんだったらいいか。目論見は外れたがまあいいだろう。優は大汗をかきながらハフハフ言いながら食べている。
「ごちそうさま」
今回は優がご馳走してくれた。もうお金を使う事もないのかも知れない。と考えると俺が出してもよかったんだが今回は甘えよう。宝玉かー。電池かバッテリーみたいな物なのかな。よし電池は買って行こう。
「じゃあさとし。俺は一旦家に帰って用意をしてくる。明日の昼過ぎにはこれるだろう。それと今日の話は友紀にも電話しておくよ。」
優は帰っていった。余程友紀と話たいのだろう。こっちは手間が省けて万歳だよ。エリアドルさんはやはりキョロキョロしているので今日はさっさと家に帰ろう。家に帰り着くと電気を点けっぱなしだったことに気付く。まあいいか。明日は不動産屋に行って解約をしないとな。
大学生から家賃の支払いが自腹となった。まあ当たり前なのだが家賃は安くしてあげてほしい。と最後に秘書の人が言ってくれた。凄くいい人だったな。
布団は一つしかないのでエリアドルさんに部屋で寝てもらう。
「エリアドルさんはここで寝てください。狭いですがすみません。」
「いや私は外でも寝れますので大丈夫です。」
「いやいや。エリアドルさんが外で寝てたら明日の朝には異世界に行けないくらい大変なことになってますので・・」
「うっ・・それは困ります。」
ここでおとなしく寝てほしい。異世界は俺も楽しみなのだ。
「じゃあ私はこちらで。おやすみなさい。」
俺は台所の通り玄関に足を向けて寝ることにした。キャンプ用の寝袋があるのだ。
「はい。おやすみなさい。」
・・・・
「ん?もう朝か?・・・・」
エリアドルさんは布団を畳みテーブルを置きもうお茶を啜っている。
「おはようございます。エリアドルさん。」
「はい。おはようございます。こちらの食事を食べてから何故か凄く元気になりました。」
「そうですか。」
まあ精神的にもかなり楽になったのだろう。
エリアドルさんにはここに残ってもらい俺は不動産屋とホームセンター、キャンプ用品店に向かう。
「じゃあ留守をお願いします。」
「はい。お気をつけて。」
外に出てウロウロしないか心配だがまあ大丈夫だろう。本人も解ってるはずだ。
俺はまず不動産屋によって今日の夜に鍵を返す話を済ませ、ホームセンターに向かった。
まずは食料だろう。なにがあるかわからない。かさばらない食料を手当たり次第かごに入れていく。
それと水か?あっちに水がないと詰むよな。まあ、その時は持って行ってもいずれ詰むし一緒か。
必要そうなのを大量に買い込む。大きいリュックサックも買っちゃおう。もうお金は使い切っても平気なのだ。持っていけるのかが心配だがリュックに詰めるだけは買って行こう。
あとはキャンプ用品店でブーツやナイフ、ポケットの沢山付いた防刃ベスト。殺虫剤?要るか?まあ小さいのを何本か買っておこう。
荷物を置きに部屋に戻る。エリアドルさんはテーブルの前に座ってお茶を飲んでいる。動かないのかこの人は・・・
「結構買っちゃったけど大丈夫ですかね?」
リュックに荷物を入れながらエリアドルさんに尋ねる。靴や服は着て行こうと思う。
「あんまり多く持っていくと疲れますよ。ゼストの王城も広いですからね。」
そういう事なら大丈夫だろう。心配してたのはここからあっちの世界に持ち込めるかどうかだったのだから。
「あとエリアドルさんお昼買って来ましたよ。一緒に食べましょう。」
大学の近所にあるお弁当屋さんだ。先日自転車が壊れたという弁当屋さんのバイトの学生の女の子に自転車を進呈したら
店長がお弁当をくれたのだ。5つも6つもくれるので2つでいいと言うと凄く恐縮していた。いい事はするものだ。
「ありがとう。」
エリアドルさんはレンチンした弁当を不思議そうにハフハフしながら食べている。もうお昼過ぎ。今日の夜には異世界なんだな。
カンカンカン。
ガシャガシャガシャガシャガシャ
ドンドンドンドン ガシャガシャガシャ
「今開ける今開けるから。」
鍵を開け扉を開けると友紀が仁王立ちで凄い笑顔で立っていた。
何なんだこいつは。どこが聖女だ。何が巫女だ。どんだけわんぱくなんだよ。
絶対頭おかしいだろ。
「おい友紀少しは近所の事を考えろよ。」
「はいはい。わかったよ。わ・か・り・ま・し・たっ!」
こいつ全く反省する気もないし。
「友紀様 どうされたんですか?まだお昼ですよ。」
エリアドルさんもどうしたのかと玄関まで出てくる。こういうやつです。
「やあやあ。お疲れお疲れ。お母さん夕方までに用事終わるって。私は何持っていけばいいのかな?って思ってね。」
そうだ。友紀に任せるとリュックはポテチばかりになるのは目に見えている。まだ時間があるな。
「エリアドルさん、またお留守をお願いしてもいいですか?それと優が業者さんを連れてうちの家具を取りに来てくれるのでフードを被ってて貰ってもいいですか?」
「はい。了解しました。さとし、友紀様お気をつけて。」
幸いホームセンターはうちの近くだ。友紀もあっちにはなさそうなグッズを買わせるべきだろう。
「ねえねえ。何買うの?」
「まあ色々買おうかな。何があるかわからないからな。」
ふーんと友紀は頭の後ろで手を組み歩く。
「でさー。さとしはなんか楽しそうじゃん?私はさー、少し怖いかな。」
そうだよな。少し怖い気持ちは俺にもある。だが楽しみが勝っているのは否めない。
「そっかー。その時は俺も優も友紀達を守れるように強くなるさ。」
ふふふーと友紀が笑う。少し気持ち悪い。
「ありがとね。さとし。」
「ああ。もう着くぞ。」
ホームセンターで籠を取り俺と同じように詰め込んでいく。それと友紀に必要なのは防犯グッズだ。
防刃ベスト。LED警棒?色々売ってるものなんだな。この防刃ベストは俺の分はもう買ってある。
お金はあっちには持っていけないし使い切って問題ない。準備はしっかりしていこう。
もしここが日本じゃなかったらもっとチートグッズを揃えられるのではないか、とか思ったが仕方ない。
「友紀、そろそろ帰って準備をしよう。もういい時間じゃないか?」
「うん。そうだね。そうしようかー。お母さんもくる時間だし。昨日、優から連絡あったんだけどさー
、私んちそんな血筋ないと思うんだけどな。」
友紀は不安そうにこちらを見上げる。友紀は期待されてる分プレッシャーもあるのだろうな。
「大丈夫じゃないか?俺達も付いてるし、俺も何であっちの言葉が理解出来るのか解らない訳だし。」
友紀はまたオレンジに染まりつつある空を眺めた。
「そうだよね。私一人じゃないんだからなんとかなるよね。」
「そうそう。なんとかなるよ。俺や優も役に立つか解らないけどその為に付いていく訳なんだからさ。」
友紀はまたこちらを向いてフフッと笑った。いい笑顔だ。俺は優じゃないからその笑顔にドキッとする事はないのだが。
友紀と2人で家の近くまで歩いていると1人の女性が立っていた。
「お母さん。」
友紀の母のようだ。友紀がタッタッと走り出す。俺もつられて早歩きになる。友紀の母は少し長めの黒い髪を後ろに結んで友紀より少し背が高くほっそりしている。友紀が手を握りブンブンと手を動かしているが終始笑顔で友紀の顔を眺めている。
笑顔が綺麗なお母さんだ。ちょっと羨ましい。1つ気になるのは日本風柄の袋に包まれた棒くらいか。
俺が速足で辿り着くとこちらを向き笑顔で軽く会釈をしてくれた。
「はじめまして。友紀の母です。この度は私まで誘って下さりありがとうございます。」
「いえいえ。俺が誘ったわけでは・・・」
友紀の母が顔を上げこちらを向いた瞬間少しビックリした表情を俺に向けた。
「あの・・・・すみません。5年ほど前くらいですか・・・教会に住んでいた子じゃないですか?」
「え?確かに俺は教会というか・・・教会のある幼稚園の中にある家に住んでましたけど。」
友紀の母は目を大きく開き俺の手を両手で握って大きく頭を下げた。
「その節はありがとうございました。友紀が大怪我をした時に友紀を助けてくれたのはさとし君だったのですね。」
ああ。あの時の少女は友紀だったのか・・・俺は顔を全然覚えていなかった。顔を見る余裕は無かった気がするのだ。
だがあの時助かって俺の横にいる。俺はそれが凄く嬉しかった。良かった。助かったんだな。
「そうかー。あの時の男の子がさとしだったんだねー。世の中狭いものよのー。不思議不思議・・」
友紀の母は頬を膨らましバシッと友紀の頭を叩いた。
「アイッター!」
友紀は頭を押さえてブーブー言っている。
「ほんとすみません。命の恩人に・・」
友紀の頭からいい音がした。俺もこれには苦笑いだ。
「いえいえ。いいんですよ。友紀も元気だし、それに過去で偶然だったとはいえ友達を救えたのは俺も嬉しいです。」
友紀は頭を押さえながら顔を上げにっこり笑った。
「いい事言うじゃないか。相棒。」
誰が相棒だ。
「それとお母さん、俺に対して敬語はちょっと・・」
友紀の母は友紀を睨んでいたがこちらに顔を向け微笑んだ。
「そうね。そうするわ。これからも友紀をよろしくね。私は岩下めぐみ。私も息子が出来たみたいで嬉しいわ。」
「やったね。お母さん。さとしは私の弟分だよ。」
誰が弟分だ。
「じゃあめぐみさんでいいですか?お母さんはちょっとアレなんで・・それとその棒みたいなのはなんですか?」
「はい。じゃあさとし君よろしくね。この棒は・・」
シュルシュルと棒に巻かれた袋をとる。袋から立派な木刀が現れた。
「だってファンタジーなんでしょ?昔のロープレみたいな所って友紀が言ってたし。私これでも剣道3段だったのよ。」
ロープレはきょうび聞かないが、友紀の母を今一番心強く感じるのは言うまでもなかった。
「じゃあ家に入って準備しましょう。もう夜には出発しないといけない。」
友紀とめぐみさんを連れ部屋の中に入る。もう部屋には家具も何もなかった。優たちが持って行ってくれたみたいだ。
「エリアドルさん。ただいま戻りました。友紀と友紀のお母さんでめぐみさんも連れてきました。」
エリアドルさんは畳の床に座ってペットボトルのお茶を飲んでいた。家具が全部無くなるのでおそらく優が差し入れたんだろう。どこまでも気が利く男だ。
「ああ。おかえりなさい。さとし。友紀様。それと初めまして友紀様のお母様。私はエリアドルと申します。この度は私たちの勝手な都合に皆様を巻き込んでしまい大変心苦しく思っております。」
エリアドルは立ち上がりめぐみさんに近づき鎖を手に渡し話し始めた。そしてめぐみさんに深く頭を下げた。
「これは?・・・」
めぐみさんは首を傾げたがすぐに会話を続ける。
「いいえ。エリアドルさん。私は意外と楽しみなんですよ。何せスーファミ世代なんですから。それに友紀をしっかり守って下さるのでしょう?それに友紀がいるのなら別にこちらに未練はありません。」
めぐみさんもエルフのエリアドルさんを見て半信半疑だった気持ちが納得に変わったのだろう。でもスーファミ世代でゲーム好きなら楽しみなのもわかる気がする。
「そう言って頂けると私も心のつかえが取れる気持ちです。友紀様やお母様は必ず私がお守り致します。」
エリアドルさんは顔を上げ笑顔でめぐみさんに頷いてみせた。めぐみさんも笑顔で頷く。
カンカンカンカン。コンコン。
「ちょっと待って。今開けるよ。」
ガチャリと玄関のドアが開く。汗を掻いてボディスーツのようなものを着た優が息を切らして立っていた。
「遅くなった・・。」
「別に遅くないよ。それに荷物の片付けありがとう。助かったよ。それとその恰好は?」
優は自分の着ているボディスーツのような着衣を触り・・
「これな。自衛隊の防弾や防刃スーツだ。大型ナイフも2本収納可能だ。友紀のお母さんは初めまして。」
俺の部屋の玄関にランボーがいると思えば解りやすいだろう。友紀とめぐみさんが同時に手を振っている。親子だ。
「優君だよね。いつも友紀をありがとう。」
優は中に入りながら笑顔を作って頷いた。
「ああ。これからもよろしく。」
うちの狭い部屋が片付き少し広くなったが定員が1人増えたので然程変わらない。友紀ががめぐみさんの首に翻訳のチェーンを掛けている。
俺と友紀も防刃のベストを服の上から着る。見栄えはダウンベストだ。そこそこ暖かい。ポケットもかなり多い。備えは大事だ。
「では皆さん備えはできたでしょうか?」
皆が頷くのを確認してエリアドルさんは話を続けた。
「広い場所に転移陣を発動させます。その前に皆さんにお渡ししたい物があります。」
エリアドルさんは腰のポーチから4つの指輪を出し俺たちに1つづつ手渡した。俺たちは各々好きな指に装着する。ボゥと光り指にピタリとはまっていく。
「これは自分や相手、モンスターの強さや耐久力を表示してくれるアイテムです。これは1000年以上前のアイテムでアーティファクトと呼ばれています。
かなり数が少ない上にもう二度と手に入りませんのでお気を付けください。念じる事で作動いたします。」
早速友紀が念じているが全く作動しない。
「友紀様ここには魔素が全くありません。指輪が光って装着されたのは指輪単体の内部魔力です。
このアイテムは友紀様の保有魔力を使用する訳でもありませんのでここでは無理でしょう。それともう一つ。その皆さんが装着した4つの指輪の宝石の部分を合わせてみてください。」
俺と優、友紀、めぐみさんは指に嵌めた指輪をカチと合わせた。その合わせた4つの宝石が淡く赤い光を帯びていく。そしてゆっくり指輪を離すと4つの指輪から赤い線状の光が放たれた。
俺の指輪からは優と友紀とめぐみさんに向かって蜘蛛の糸のように線が伸びている。少し離れると線は出ているが間の光は消えてしまった。指輪から20cm程線は残っている。
これは便利だ。みんなのいる方角だけでもこれでわかる。
「向こうに到着すれば1本1本魔力で色を変えることも可能です。これから慌ただしくなりますがいろいろと説明できる時間もありましょう。では皆さん下に参りましょう。」
ぞろぞろと皆部屋から出ていく。俺は最後に残って玄関から部屋に深く一礼した。外で玄関の外で優が待っていた。
「鍵は閉めてからポストに入れておけ。明日不動産屋が鍵を取りに来るはずだ。じゃあいくぞ。」
優はポンポンと俺の肩を叩いた。不動産屋にまで連絡してくれてたのか。やはり出来る男は違う。
「ああ。ありがとう。」
俺は鍵を閉めて鍵をポストの中にカランといれる。カンカンカンカンと錆びた階段を降りていく。この世界も最後か。俺は歩きながら暗くなった空を見上げ、もう一度今日まで住んでた家を確認する。そしてクルンと踵を返し歩き出す。今日の夜は暖かいな。
近くに少し広くて人通りもない広場がある。目の前なんだが。そこでエリアドルさんが緑の宝石を付けた杖を地面に突き刺し何か呟き出した。
緑の風が周囲を覆いだし地面の中から青色の魔法陣が浮かび上がってきた。エリアドルさんが来た時ほどの風はない。
「さあ。どうぞ。魔法陣の中にお進みください。」
まずエリアドルさんの後に優がスタスタと入って行く。その後に友紀とめぐみさんが手を繋ぎ中に入っていった。「じゃあ行きますか。」と俺も中に入った。
エリアドルさんが後ろを向き全員が入ったことを確認する。
「では。行きますよ。座標はジータ大陸、魔法王国ゼスト王宮。転移の間です。」
次回から異世界編です。