3.決断。(プロローグ2)
俺が個人的にエリアドルさんにこの話を聞こうと思ったのは友紀の心配も少しはあるが
このありえないファンタジーに興味を持ったからだった。
確かに友紀を連れにきたのだろう。もちろん友紀次第という話だ。友紀が嫌がれば俺もそこに
乗っかろうと思っている。
まあなるようになるだろう。
「お茶テーブルに置いていくよー。」
エリアドルさんがお盆を持って俺が湯呑を配っていく。
優は右側の壁に背中を預けて片膝を立てて座って目を閉じている。
友紀はこちらに背を向けて座ってテーブルに顎を乗せてプププププーと何かやっている。
意味が分からん。
俺は台所からみて奥の方に座りエリアドルさんは左側に腰を落ち着けた。
「頂きます。」
とエリアドルさんが先にお茶を啜った。
「これは美味しいお茶ですね。」
「そうですか?どうぞお茶だけは一杯あるので飲んで下さい。」
向こうもお茶があるんだろうか?いや俺たちに翻訳されてる時点で全部お茶なのかも知れないし
考えるのはよそう。
「あのさー。賢者さんだっけ?」
「はい。」
友紀が少し不機嫌に話し出す。エリアドルさんもお茶を置き話を聞く態勢で友紀に体を向ける。
少し空気が変わる。優も言葉が違うが雰囲気で目を開く。
「優、後で伝える。」
俺は優にそれだけ話すとまた向き直る。
「ああ。頼んだ。」
優はふぅと息を吐き壁に体を預けまた目を閉じる。言葉が分からないってキツイんだろうな。
「巫女って何?それが私なの?何で?意味わかんないじゃん。ドッキリとかじゃないんだったら
ちゃんと解るように説明して欲しいかなーって思うんだよ。光とか言われてもさー。」
まあそうだよな、でも少しビックリした。友紀がちゃんとまともな事を言ったのだ。失礼だが友紀は
そういうキャラなのだ。仕方ない。
「はい。了解いたしました。友紀様。」
エリアドルさんが立ち上がり黒い重そうなフードとローブの紐を解きローブを脱いだ。
「・・耳・・」
俺も友紀も耳に目がいく。優も大きく目を開いてエリアドルさんを眺めている。
まあ想像はついてたさ。でも本当に目の当たりにすると言葉を失うものだ。
エルフなのか?ファンタジーなんだな。と異世界が今漸く胸にストンと落ちてくる。
あるんだな。違う世界が・・・
フードを外したエリアドルさんは40歳前の美形の北欧の顔立ちと言えばいいのか。色は暗めで浅黒い
ほっそりとした体系ですらりと伸びている。
少し話をさせてください。とテーブルの前にゆっくりと腰をおろした。
「私の名はエリアドルといいます。種はダークエルフ。今は魔法王国ゼストという国の中にある風の塔を
管理しています。属性を司る賢者の一人です。私のいる世界は大陸ジータ。魔法王国ゼストはその中の1つの国で今は5つの大国で構成されております。そのゼストから遥か南に霧の砂漠と呼ばれる場所があるのです。砂漠と呼ばれてはいますが半島になっていまして、そして霧は魔素と呼ばれる瘴気でございます。その霧は瘴気なのですがジータ全域に魔素は存在しています。要は魔法を産み出すエネルギーとなるわけです。私達は身体にも魔素を持っておりその大きさによって魔法の力が変動いたします。そして巫女様の魔力はデリートという原初の魔力。瘴気を消す魔力と伝わっています。」
すみません。とエリアドルさんはお茶を飲む。休憩は必要だ。友紀は眠そうにしている。
いやお前は話を聞けよ。俺は友紀の肩をトンと押す。
「あのさー。なんかゲームのプロローグみたいだよね。」
ほんとそれな。まあうちらからするとそれなんだよな。
「はい。私の父は前の巫女様にお仕えしていたのですが、その巫女様もこれはゲームなのよ。とおっしゃっていたそうです。私が産まれる前の話ですので詳しくは存じませんが私の父が詳しいはずです。では話を戻しまして魔素や瘴気は同じ気体で零体とも呼ばれモンスターや魔獣を産み出す元ともなっています。
濃い魔素の土地には強い魔物が産まれ逆に魔素が弱い地域は魔物も弱い。ですので人間やエルフなどの種族は魔素の弱い地域で暮らしているのがほとんどです。ですが先日、霧の砂漠の最奥。霧の魔素を突き抜ける程の火山があるのですがその山から赤い光が観測されたのです。300年程前、先代巫女様が降臨なされた時も赤い光が観測されそれから約5年後赤い光からどす黒い闇を噴き出したそうなのです。1000年程前にもあの山から火と闇が噴き出て巫女様が降臨なされたと記述が残っております。その闇は瘴気。高濃度の瘴気の塊で大量のモンスターや魔獣を産み出し北に北上してきます。
300年前大陸ジータには7つの大国がありました。霧の砂漠からの瘴気と1万を超えるモンスターの大群に2つの国は滅ぼされました。
私たちはこのモンスターの大群襲来をスタンピートと呼んでおります。
ですが私達も300年間指を咥えていた訳ではありません。武力、魔力、更にはモンスターに対抗すべく軍事力も備えてまいりました。巫女様は・・いや友紀様は瘴気を後方より抑え込み頂き私どもが前衛にてモンスターや魔獣を討伐致します。どうぞお力添えのほどを。その為に私エリアドルは参上いたしました。友紀様には指一本誰にも触れさせぬと約束いたします。」
友紀は眼を閉じてこめかみに指を置きうーんうーんと唸っている。トイレを我慢しているのだろうか。いや友紀なりに考えているのだろう。
「あのさー。話は解ったよ。でもねその巫女が私って言ってるのよね?何でよ?何でわかんのよ?さとしかもしれないじゃない?」
「いや・・俺は巫女ではねーよ。」
「そんなのはどーでもいいよ。」
「いいのかよ。」
「で、私が巫女っていう証拠はあるの?まあはっきり言うとだよ・・私がそこに行かないといけないって理屈はないよね?義理とかもない訳じゃない。」
その通りだ。友紀の言ってる事は概ね正しい。帰る保証も生き残る保証も何もないのだ。
「その通りです。友紀様。おっしゃる通りだと思います。もう少しだけ話を聞いてください。まずは証拠なのですが。」
エリアドルは懐から1つの小さな箱を取り出した。綺麗な細工が施されてはいるが頑丈な作りになっている。
その箱を大事そうに持ちゆっくりと蓋を開けた。箱の中には真っ赤でいてそして波のような光を放つ不思議な雫の形と言えばいいのか。女性の拳くらいの光を放つルビー。というのが正しいか。
「これは世界に一つしか存在しないと言われている聖女の涙という宝石です。この宝石の中には先代巫女様の血液を魔力で封じ込めているといわれています。この宝石はいつもは今みたいに光り輝いてる訳ではありません。5年程前でしょうか。この宝石が薄く光りを放ちだしたとの報告がありました。ですがその頃はまだ霧の砂漠の火山も落ち着いており凄まじい魔力を使用する転移魔法を使うには至りませんでした。巫女様は元来こちらの世界の住人です。この宝石と転移魔法を使用すれば巫女様のお近くに転移できるのは解っておりましたが杞憂であるのを願っておりました。先日の火山の噴火までは・・巫女様というのは幻の古代魔法、光の魔法を使える女性。この聖女の涙は光の属性に濃い適性のある女性に反応します。そして巫女様の血脈と言われております。先代巫女様が負傷され消毒の為に血を舐めた女性が光の治癒魔法を使えるようになったとの文献もあるくらい凄まじい程の血の力だそうです。」
「それが私だと?」
「はい。」
ぐぬぬぬぬぬ。友紀が唸っている。
「いっぱい人が死ぬんだよねー?」
「・・はい。」
「私が頑張ればそのいっぱい死ぬ人達は助かるの。」
「はい。かなりの数の死人は減らせると思います。」
「・・だったらその転移なんちゃらは何人くらい乗れるの?」
「5人、6人は送ることが可能です。」
「私の大事なお母さんと相談してみるけど・・お母さんも連れていけるよね?」
「もちろんです!私が命を懸けてお守りすると誓います。巫女様。」
「ああぁ・友紀だから!あんた達はここで待ってなさい。」
友紀はダンっと勢いよく立ち上がる。優はビックリして友紀を眺めている。
友紀は勢いよく表に飛び出した。ここでおれは優に今までのいきさつを説明する。
エリアドルさんはお茶を飲んでいる。こっちのお茶が気にいったみたいだ。心なしか嬉しそうだ。
「えっとエリアドルさん・・俺も連れて行ってもらえないでしょうか?友紀が行くのが確実になってからでいいんですけど。」
「はい。勿論お誘いするつもりでいました。それにあなたには不思議な感覚があります。それとそちらの優様にこれをお渡しください。」
「これは?」
「身に着けてみればわかります。」
鎖のようなネックレスなのか。優に渡し首に掛けてもらう。優も首に掛けた鎖が気になるようだ。
「優様。私はエリアドル。言葉はわかりますか?」
「・・・・は?わかる。言葉が通じる。」
「はい。意地悪で渡さなかったわけではありません。このチェーンも古代から伝わる貴重なものなのです。すみません。」
「いや。いいんだ。ありがとう。あと優様をやめてほしい。かな?」
「では優よろしくおねがいします。」
「敬語もやめてもらえると嬉しいんだが・・俺は苦手で・」
優はいい奴なのだが敬語が苦手だ。先生達にもため口だった。先生達も気にしていない感じだったのが不思議なのだが。
こいつは社会でどう生きていくんだと思うと不安になる。
「いえ。私は誰にでも敬語なんですよ。お気になさらず。」
優は照れくさそうに「ああ。」とだけ言い頭を掻いた。
「ところでさとしはあっちに行くんだろ?」
「そうだね。友紀次第ではあるけど俺は行くよ。」
「そうか。エリアドルさん俺も連れて行ってくれないか?俺は友紀やさとしを守る程度の戦力にはなるはずだ。」
「はい。もとよりそのつもりです。よろしくお願いしますよ。優。」
「ああ。ありがとう。なんでもする。」
優も嬉しそうに笑っている。よかった。このメンバーでいけるんだったら楽しいのだろう。
プルルルルと突然俺の電話が鳴る。友紀からだ。なんか緊張する。
「もしもし。友紀か?」
「はいはーい。魔法少女友紀ちゃんでーす。」
プツッ・・ツー。
ふぅと俺は息を吐く。どうやら間違い電話だったようだ。優は真剣な顔でこちらを見ている。俺も真剣な顔で首を横に振る。
プルルルル・・・・電話だ。
「・・・はい。」
「何で切るのよ?」
「・・・少しイラっとした・・」
「そう・・・。私もお母さんもいくから。今日はもう遅いから明日行く。お母さんは明日役場に行って市営住宅退去の何かと保険の何かとか色々あるみたい。仕事も辞めないといけないからって言ってた。じゃあ明日の夕方にアンタの家ね。」
「あ・・」
プツン・・ツーツーツー。
「エリアドルさん。友紀行くってことです。明日の夕方にこっちにくるそうです。」
「そうですか。・・・・よかった・・」