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転移巫女と勇者の二大陸物語(仮)  作者: 煌清
プロローグ
2/82

2.3人の共通点

さとし


俺は親がいない。県外で働いてるとか海外赴任とかそういう事ではなく本当にいないのだ。

近所の人の噂なのだが俺はキリシタン系の幼稚園の前に手紙と一緒に捨てられていたという話だ。

その園長に拾われてその園長の性をもらい息子として住まわせてもらっていた。

小さいときの記憶はほとんどなく園長が父だった。

小さな幼稚園ではあったのだが園児たちにもお兄ちゃんと慕われていたし凄く充実した楽しい生活を送らせてもらっていた。


中学生の頃だったか突然土地開発の業者がやってきた。

この幼稚園や教会は、ちょうど新しく出来る駅のそばに建っていて大きなマンションを建てる際に最適な立地だということだった。

父は土地の売却を勧められていたのだが母子家庭の園児や貧しい子供も預かっているのですぐには

応じられないと断っていた。

県からの指示ということもあってか毎日毎日、開発業者がやってきた。

だが業者は少しずつ嫌がらせをはじめるようになっていった。

幼稚園や教会だけならつゆ知らず園児の親や近隣の住民達にまで被害は及んだ。

園児も少しずつ減っていき俺が高校に入学する頃には父は食事も喉を通らない程に憔悴しきっていた。


父が亡くなったのはそれからすぐ後の事だった。


長い間親切にしてくれていた近所の方や父の友人達でささやかな葬儀を済ませた。


「次は俺も邪魔になるのかな。どこにいけばいいんだろう。」


と考えるまもなく次の日に地元のカメラマンやキャスターを連れだって知事という職業の人がやってきた。

彼はカメラの前に立ち俺の肩に左手を置き右手を大きく広げる。


「この子は私が預かって育てましょう。」


と告げた。その瞬間ピカピカとフラッシュが焚かれ、そして直ぐにカメラマン達と共に帰っていった。

その次の日。秘書だと名乗る20歳前後の若い男の人が現れて住む場所を見つけたと言ってきた。

俺は正直これで生きられると思った。嬉しかった。いやホッとしたが正しいかもしれない。

その住む場所が今住んでいるコーポなのだがその秘書と名乗る若い男の人は色々と良くしてくれていた。


「必要な物は全ては揃えられないが困ったことがあったら何でも言って欲しい。出来る限りはしていこう。」


ただ私立の高校は公立に転校しないといけないらしく秘書の人も申し訳なさそうに頭をさげてきた。

俺は全然構わなかったし、この秘書の人にはとても感謝しているのだ。恨むなんてとんでもない。

俺は生きてるんだ。生活費だって振り込んで貰っている。足りない分はバイトでもすればいいのだ。

高校2年にはちゃんとアルバイトも始めた。秘書の方にあまり迷惑も掛けたくないのだ。

アルバイト先は自転車で15分程の距離にあるファミリーレストランだ。

学校からは少し離れるが教会や幼稚園があった道路を通る。そう何年も経っていないのだが

何故か懐かしくて自転車を降りて歩きながらその周辺を歩く。ここに住んでたんだよなー。と

もう幼稚園や教会の跡形もない大きなマンションを眺めた。確かに新しい駅から近い立地で交通の便

もよさそうだ。1階には高級そうな黒い車が2台止まっている。

下迫政策事務所 と大きい看板と前に会ったおじさんの写真のポスターがいっぱい貼られていた。

近くの新しい駅の時計台からポーンポーンと17時の時報が鳴り響く。


「あぁ。ヤバい。初バイトで遅刻は洒落にならん。」


俺は自転車にまたがり立ちこぎでバイト先のファミリーレストランに急ぐ





俺は弱い奴が嫌いだ。


弱い奴をいじめるクソはもっと嫌いだ。


俺は中学、高校と格闘技をしていた。強い人間に。強い精神を得る為だ。

うちの家は恐らく裕福な家だろう。友人の家と比べても大きい屋敷だろう。

友人たちがいつも言っていた。


「羨ましい」と。「こんな家に住んでみたい」と。


言っていることは分かるし望んだものも与えられて育った。

それはうちの親父がああいう人間で無ければ幸せだったのだろう。

俺には年の離れた兄がいる。お袋は兄さんに休みなく英才教育を施し、親父は義妹を溺愛している。


そこはどうでもいいんだ。


勉強漬けの兄さんを羨ましいと思ったこともないし、親父の金の無心に特化した血の繋がりの無い義妹が慕ってきても興味すら持てない。

むしろ義妹の金に対する執着と凄まじいほどの頭の回転や感の鋭さには恐怖すら覚えてしまう。

なんとなくわかってしまう。


この社会にカッチリ歯車としてはまるのは秀才の兄でなく義妹なのだろう。


親父は政治家という人種らしい。世間ではまあ凄い人なのだろう。

でも違うんじゃないか?

金を持ってたら堂々と愛人を囲っていい訳がない。

金を持ってたら赤の他人を平気で陥れていい訳がない。

なぜお袋が兄さんに傾倒し執着してるか考えればわかるはずだ?

なぜ義妹が金に聡くなって異常に執着しているのか考えればわかるはずなのだ?


いや・・・そこもいいんだ。


家の事だ。


金を欲すれば人も腐っていくのだろう。

俺は秀才の兄さんとよく話をする。

仲はいい兄弟だと俺は思っている。

兄さんはよく親父の手伝いをさせられているそうだ。まあ秘書というやつだ。 


「優、お前は強くて優しい人間になるんだ。そして出来るだけ早くこの家から

出ていくんだ。」


そうだな。兄さんのいう通りだ。腐る前にここを出ていこう。

俺は親父の思い通りにはならない。


親友のさとしの家や居場所を奪った親父を許す事もない。

俺はさとしの親友としてこれからも見守っていくことにしよう。


兄さんに言われた通り俺は早めに出ていくよ。あとはよろしくな。




友紀


高校1年の夏休み前に同じクラスに転入生がやってきた。名門の私立高校から公立の私たちの高校に

移ってくることはとても珍しいという事で少し話題になった。どこかで会った気がしないでもない。

でも女子の私から「会ったことあるよね?」って聞くのはどーなのだろうと思ったので黙っていた。

私の家庭は母一人私一人の母子家庭で決して裕福な家ではない。

父がいた頃に市営住宅に当選したのだけど父が居たという実感はほとんどない。

家にも帰らず働きもせずギャンブルに依存して少ないお金を更に溶かしていた。

私が中学生の頃だった。私は下校途中で市営住宅の前の道路で自転車から降りるところだった。

父が知らない派手目な女の人と住宅の入口から現れた。

私は道路隅に自転車を置き隠れてこっそり覗いていたのだが、父の手に握られた封筒を私はしっかり覚えていた。

母は毎日2つの仕事をこなしていたんだ。朝早くに仕事に出掛け、夕方に一度帰宅し私のご飯を作って夕方に荷分けの仕事に出掛ける。

この荷分けの仕事は現金支給でこれがうちの食費の全てとなっていた。


「このお金は駄目だ!」


私は咄嗟に置いていた通学用自転車に駆けポンと自転車に跨った。・・本当に咄嗟だったんだ。


「あああああああぁぁぁぁ」


と掛け声と同時にペダルを思い切り漕いだ。


女の人が運転席に座り父が助手席のドアを開ける瞬間の父と車に私はフル加速の自転車で突貫した。


すぐさま立ち上がり自転車を蹴り倒し父の腕と服にしがみついた。


「返せ!それはお母さんのお金だ!」


父は自転車に突っ込まれ足を引き摺っていたが私の髪を掴んで引き倒そうとする。

私は髪を千切られながらも頭を振りほどき父の太腿に思い切り噛みついた。

錆びた鉄のような味がする。父も拳を振り上げ私のこめかみに拳骨を叩きつけた。

頭がくらくらするし眩暈もするが落ちた封筒は見落とさなかった。

地面に落ちた封筒をクシャっと拾い上げ左手に握りしめる。太腿から私の口が離れズルズルと地面に落ちていく。


私は父の足元まで落ち両手を地面に付けた。父の蹴りが私の頬に突き刺さるが今度はくるぶしを掴みふくらはぎに思い切り歯を立てた。


「ぎゃぁぁ」


地面に私の口から赤い液体が落ちる。


つぎの瞬間だった。私のお腹の上にザンっと衝撃があった。


「あれ・・・力がはいらないよ?」


私は黒い地面に倒れ伏した。


「あんた・・何したのよ!?」


助手席の開いている扉の奥から女の声がした。


「うるせぇぞ。黙れ!早く車を出せ。」


どんと、ドアが締りキュキュとアスファルトを捉えられなかった車が後ろのタイヤをスピンさせて

走り去る。


私はお腹を少し押さえ自分の手に持った、夕日で真っ赤に染まった封筒を見つけた。


「ざまぁみろー。私は凄いんだあ。」


地面がヒンヤリして気持ちがいい。力が入らないよ。

これは夕方のアニメは間に合わないなぁ・・・


自転車に乗った男の子が自分の自転車を蹴り飛ばして走り寄ってきた。


「おい!マジかよ・・すぐ救急車呼ぶからな!くそっ血が・・」


その男の子は大声で叫び自分の服を破り私の胸の下を必死に押さえている。


「死ぬなよ。死ぬなよ。すぐに助かるからな。大丈夫だからな。」


何を言って・・るんだろう・・全然聞こえないよ?


私が動けないのをいいことにエッチな事をする奴は後でお仕置きが必要だ。  




「ん・・・・うーーん・・・真っ白な・・は?ここどこ?」


「友紀!!よかった。よかった。大丈夫?もう大丈夫なのね?すぐ先生呼んでくるから。」


あーそうかー大喧嘩しちゃったなーお父さん思い切り噛んでしまったもんなぁこれは怒られるかなぁ。いや私は悪くないはずだ。セーフなはずだ。


タッタッタと白衣のおじさんがやってきた。


「岩下さん気分はどうですか?」


そのおじさんは私の両目にライトを当て左手で首の下を押さえて時計をみた。

・・眩しい。目を何度も閉じて開く。目の中に丸いモアモアがたくさん浮かび上がる。


「まだ傷が塞がってないので起き上がらないようにね。」


「傷?イタタタタタタタ・・・マジ痛い。何これ?超痛い。」


これは死ねる痛みだ。本当に痛すぎる。あぁ熱が上がってきた。鼻血が出そうだ。


「当り前じゃない!何やってるのよ!・・・・アンタ馬鹿よ。大事に封筒握りしめて

本当に馬鹿よ。私も・・・馬鹿よ。あんな奴もっと早く縁を切ってればよかったのに・・」


強い母が泣いていた。いつも強く優しい母が泣いているのだ。


胸が締め付けられるみたいに痛い。胸の下はもっと痛い。鼻血がでそうで耳もきーんってする。

うん。もう無理だ。もう少し寝よう。うん。そうしよう・・・




「そうそう。あなたの命の恩人の男の子。血液型も同じで、どっかの教会に住んでるんだって。

あなたに血を分けてからお使いの途中だったとかで急いで帰っちゃったのよ。

お礼もしなきゃいけないのに・・・私・名前も聞いてない・・・・」


「お母さん。娘さん寝てしまってますよ。ゆっくり寝かせてあげてください。」


「ありがとうございます。先生。せっかく今リンゴをむいたのに・・1つどうですか?」


「じゃあ1つだけ。何かあったら呼んでくださいね。」


私は3日間も眠っていた。そうそう。お父さんは警察に指名手配されて逃亡中に事故で死んでしまったそうだ。警察から追いかけられ早々に諦めた女の人が車を停めたんだけど、女の人を置いて車を降りた父はすぐにトラックに轢かれたんだそうだ。


私はこれで怒られずにすんだのだ。


あの男の子は私を助けてくれたらしい。彼がいなかったら私は死んでいたそうなんだ。

教会に住んでいる男の子で私を助けてくれて血まで分けてくれた男の子。


これはもうお仕置きはなしにしてあげようかな。


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