17.カルナック領の周辺情勢
「友紀様もいらっしゃるので友紀様に少しご説明しておきましょう。この魔法王国ゼストは大陸ジータの大陸的な意味での中心地で全6国に囲まれています。南の2国は滅んでしまいましたが・・」
私は目を擦り、うん。と頷く。エリアドルさんも優しく微笑んで頷く。
「ここ魔法王国ゼストから遥か南に霧の砂漠と言われる瘴気の台地があり、その中心の火山がスタンピードの発生源と言われる場所です。
その霧の砂漠のすぐ北に300年前まで大国と言われていた西の旧サウスリッド王国。今はアンデットが猛威を振るう地域で、その旧サウスリッド王国の東に神聖国アークダイン。今は魔都アークダインと呼ばれ知性を持った魔物、魔人が治めているという噂の地域です。
その隣り合った旧2大国の国境の北に位置するのがこの魔法王国ゼストになります。南の旧2大国の半分ずつに被さる形ではあるのですが。
そしてこの魔法王国ゼストの東に位置する大国が軍事大国ヴァレンシア帝国、ドワーフの街も存在し安定した武具の供給もある軍事国です。魔都アークダインの北に位置しています。
友紀様がおっしゃっていた米を育て、森や大きな河川もあり、経済大国となった南アルバート共和国がここゼストの西で旧サウスリッド王国の北に位置する訳です。
その北にアルバート王国。ここは200年程前に内乱が起き南アルバート共和国と分裂しました。今は南北で同盟を結び資源や食料などを輸入輸出を行っています。」
この南アルバート共和国に米があるのね。
「じゃあ私はその南アルバート共和国に行けばお米が食べれるのね?さっき死の森を通らずに行けるって言ってたよね?まずは西のなんちゃら公爵を倒せばいいんじゃない?もう敵対しちゃったんでしょ?」
エリアドルさんは頷いたが、サランはケラケラと笑っている・・・何故だ?
「友紀様はさー、光の巫女様なんだよ?この世界では賢者様は王達と並んでて巫女様はその上なんだよ。神の末裔ってヴァレンシアの誰かも言ってたし。」
サランは自分の涙を拭きながら答えてくれる。
「そうなの?じゃあ誰かに頼めば行ってくれるの?」
元気になったカルナック兄ちゃんが口を挟む。
「巫女様。そんな簡単な話ではないんですよこれが・・・。ここはゼスト。閉鎖された国なのです。古くから土地を持った貴族はウチと南のリンドバル侯爵のみ。うちも東西と北、ゼストの親族4大公爵に頭を押さえられております。
最南リンドバル侯爵領の北東は4大公爵の1人で3属性のピシューゲル。この領の東に当たります。
賢者様にも匹敵するとの噂です。兵も魔法使い800と兵士が300。この領の魔法使いの数だけで隣の帝国の魔法使いの数を圧倒します。
そして今回の問題のリンドバル侯爵領から北西が4大公爵の1人、蹂躙公ハウゼンです。
この領の西になりますね。兵士数3000とも言われています。4大公爵唯一の武人でほぼ兵士と騎士、弓兵で構成されてます。
そしてリンドバル侯爵領の南はモンスターの2大国。確かに死の森を通るのは自殺行為。ハウゼンを倒すのも容易ではありません。
ですが・・・確かに今、エリアドル様やリンドバル侯爵が反旗を翻した事で誤算が生まれたのも事実です。わが領とリンドバル侯爵領とでハウゼンを抑える武力が整ったと言えるでしょう。
いや・・・しかしこれは好機なのかもしれません。
エリアドル様も巫女様を狙う輩共を放ってはおけないはずですよね?」
否定か肯定かどうするべきか顎に手を当て考えるカルナック兄ちゃん。そこにエリアドルさんが口を出す。
「ですがカルナック伯爵。おそらくその為の4公爵なのだと思いますよ。1つ攻めれば3つが襲い掛かる。私も先程まで友紀様を守る為にハウゼン公爵を落とし西の南アルバート共和国、水の塔ユリーカ殿に助力を伺いに赴く事も考えました。
ですが私は風の塔の宝玉に魔力を貯めねばくるスタンピードに耐えれません。こうなると本末転倒。この様子だとゼスト王はスタンピードを起こしたいと考えている。友紀様を狙っているわけですから。この塔の破壊すら考慮するでしょう。」
カルナック兄ちゃんは頭を抱えてしまう。私も瞼が閉じてしまう・・・。
「もうお開きだよ。円もたけなわだよ。もう私は寝る。」
エリアドルさんとカルナック兄ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げる。
「すみません。友紀様、この話はまた明日ゆっくり話しましょう。」
「巫女様すみません。ではまた明日。」
私は頷きフラフラと部屋に戻った。
私は横になり光の魔法ライトをフワフワ浮かべくるくる回す。暗い部屋に光が灯り部屋全体を明るく照らす。兵士数ねぇ、本当に数なのかなぁ。なにか出来ることはないかなぁ。私はライトを消し瞼を閉じた。
コンコンコン。
「友紀ー・・朝よー。起きなさい。」
瞼を擦り起き上がり返事をする。
「はーい。起きてる。起きてるよー。」
固いベッドから起きて背伸びをして吹き抜け穴から外を眺めた。私の眠たい目は大きく開かれた。凄い景色。辺り一面見渡す限りの輝く緑の草原に青い空に流れる白い雲。遠くに町が見えその右側に大きな森が見える。
ベッドに戻りシーツを引っぺがし扉を開け隅にある洗濯籠にシーツを押し込んだ。交代制で洗うらしい。お母さんとサランが台所で料理をしている。どうやら勝手が分からないお母さんにサランが教えているようだ。
「エリアドルさん、カルナック兄ちゃん、ミラン、おはよう。」
テーブルの椅子にもう腰かけている3人に挨拶をする。
「「おはようございます。友紀様。」」
「巫女様。」
3人がハモるがカルナック兄ちゃんだけ席を立ち膝を折ろうとした。が、ミランが止める。
「カルナックさん友紀様はそういうのを望んでないよ。」
私もうんうんと頷く。
「友紀でいいよ。それと様じゃなくて、ちゃん。とかあるじゃない?」
エリアドルさんが首を振る。
「いいえ友紀様、他国や民の目があります。」
まあいいけどさ。私は椅子に座る。丁度サランがパンとスープを持って現れた。お母さんが手拭いで手を拭きながらいつものエプロンを外す。エプロン・・・持ってきたのだろうか・・。
「ありがとうございます。サラン、めぐみ様。」
「あのねー。スープはめぐみ様のオリジナルなんだってー。」
サランが嬉しそうだ。
「じゃあ頂きます。」
皆で手を合わせる。これは異世界も同じだ。
「美味しい。初めて食べるよ。」
サランが大きな目を更に大きく開いた。エリアドルさんたちもみんな驚いている。
「本当に美味しいですね。私もこんな美味しいスープは初めてです。」
お母さんがフフッと笑いパンを齧る。お母さんは料理上手なのだ。
「ところでさー。さっき外を見たら凄い景色だったんだけど遠くに町と森があって・・」
「はい。この領は景色も最高です。そこは私の住む屋敷と愛する民達の町です、友紀様。それと森はカルナックの森です。暗く瘴気が出ますので弱いですがモンスターも発生致します。」
カルナック兄ちゃんが前のめりで話だす。サランが目をキラキラさせてこちらを見た。
「じゃあ友紀様、町に行ってみる?馬車で数刻で到着するから行こうよ?」
「そうですね。サラン。洗濯した後に友紀様やめぐみ様を町にお連れするといいでしょう。森はまだダメですよ。」
そうと決まればとシーツを取り上げる。
「友紀様。いいよいいよ。私がするから。」
サランが慌てて追ってくる。
「じゃあさー。一緒にしよう?洗濯。」
サランと私はエリアドルさんに確認を取りエリアドルさんも小さく頷く。
「ようし。じゃあ友紀様、上に行くよー。」
「おーう。屋上だね?行こう行こう。」
塔の屋上からの眺めは最高だ。全方位の景色が見える。北東に町が見え、その右側に森が見える。カルナック兄ちゃんの治めている町だ。西の方角にも小さいが村みたいな集落が見える。
「小さな村もいっぱいあるんだよ。森から出たモンスターを放置したり南から撃ち漏らしたアンデットが北上したりすると滅んだりするんだ。ここの領やリンドバル侯爵領以外は村も残ってるのか分かったものじゃないよ・・。」
「いいえ。わりと村々も残ってますよ。公爵達も税を取り立てたりしないと行けませんから見回りの騎士や兵士もいるんです。それに自衛の手段も持っていますよ。その村々でね。」
エリアドルさんも屋上に登ってきて話しながら宝玉の部屋に入っていく。
「エリアドルさん。魔力を送るんだっけ?」
エリアドルさんはこちらに振り向き頷いた。
「そうです。私の魔力だけでなくこの大陸を循環している魔力を毎日少しずつ宝玉に送ってあげるんですよ。」
スタンピードってどんだけヤバいんだろう・・・本当に私で止められるんだろうか・・・とりあえずMPを使い切るまで魔法を使い続ければ魔法のレベルは上がるんだよね・・
「友紀様?どうしたの?もうシーツ干し終わっちゃったよ。そろそろ準備して行こうかー?」
サランが洗濯が終わりフゥーと息を吐き話しかけてきた。
「ごめん。サラン。私何もしなかったね・・。」
「いいよいいよ。友紀様はこれから大変だよ?サポートは任せて。」
凄く嬉しい、けど・・・みんな巻き込まれちゃうのかな・・
「じゃあ行こうか。お母さん呼んで下に降りよう?」
「それじゃあ私は先に降りて馬車の準備をしてくるよ。」
「よろしくー。」
サランはシュバッと駆けていく。
「友紀様、1人兵士を馬車守用にお連れ下さい。」
エリアドルさんが祠から少しだけ顔を出し一言告げる。
「りょうかーい。」
と私もテコテコと階段を降りてお母さんに声を掛けそのまま下に降りていく。中層に着き兵士達が訓練をしているのを眺めていると1人の若い兵士が寄ってきて膝を付いた。
するとこちらを見た兵士たちが一様に膝を付き始める。
「待って待って。立ち上がってよ。そんなしなくていいから。」
私が慌てると兵士の皆さんがキョロキョロと周りを見回してバラバラにゆっくり立ち上がる。1人の年配の兵士が寄ってきて頭を下げた。
「巫女様、ご見学でしょうか?御用がお有りでしたら私、風の塔 守備隊 副隊長ゲオルグが僭越ながらお伺い致しますが?」
「ええと・・・ありがとう。ゲオルグさん。あのね、エリアドルさんが町に行くなら兵士の人を1人連れて行くようにって。それでお願いしに来たんだけど・・。」
「そうでしたか。それで巫女様が・・・・。了解致しました。先程、隊長が降りて行きましたが隊長と行かれるんですか?」
「隊長?サランの事?サランって隊長なの?訓練も一緒にしてないのに?」
ゲオルグさんは笑顔で答えた。
「サラン隊長は私達と強さも才能も大違いです。ミラン様とでさえ私達は10対1でも勝てないでしょう。なので、訓練しているのですよ。」
「凄いね。私も強くならないとね。」
こんなところで訓練してて強くなれるんだろうか・・・。
「では1人連れて参りましょう。ポール。ちょっといいか?」
ゲオルグさんは前に私に手を振ってくれた若い剣士を1人連れてきた。
「ポール。巫女様御一行は町に出られるそうなので御者と馬守を頼む。」
「了解です。ゲオルグさん。僕はポールといいます。巫女様よろしくお願いします。」
ゲオルグさんが180cmくらいの黒髪で短髪、彫が深くアラビアンな感じ。40歳前でお母さんくらいの歳だろうか。ポールさんは私と同い年くらい。170cmくらいで金髪のさわやか君だ。