13.初めての戦闘
エリアドルさんは笑顔で頷き「スラッシュ」と魔法を発動させた。シュっと鋭い音と共に物凄い速さで三日月状の風が飛んでいく。
スパンっと音がして先頭の兵士の胸から上を鎧ごと吹き飛ばし、肩と頭の無い兵士が血を吹き出しながら倒れビタンビタンと釣られた魚のように動きすぐに果てる。
「私は遠距離も得意なのですよ。」
とエリアドルさん・・そのすぐあとゼブラからファイアボールが天に放たれた。信号弾代わりのようだ。
馬車の後方がゆっくりと黒に染まっていく。リンドバル侯爵が馬車の中、前に走り急いで馬の手綱を掴み鞭を入れた。
「カレン、リカルド、馬車に急ぎなさい。挟まれると厄介だ。東に抜ける。」
西には川が流れて通れない。南には兵士。北には闇・・・「闇?魔法・・」
「そうです。ゼスト王の闇魔法、闇の獣を召喚しています。時間がありません。」
馬車は東に方向を転換させカレンさんとリカルドさんが飛び乗る。だが東から馬に乗った騎兵が現れた。サムソンだ。いつもの4人の騎士を連れている。
「お待ちしておりました。今日の夜は空いていると言ったのを言伝してくれてたのか?わざわざ巫女様を連れてきてくれるとは気がきくな。」
そんなことを言っていた気がする。それよりも城側の北がヤバい。地面からどんどん溢れ出す闇の獣。20いや30か・・・
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シャドゥファング レベル5
ランク G
HP 15/15
MP 0/ 0
攻撃力 12
防御力 6
敏捷性 10
魔法力 0
魔法防御 2
闇属性 レベル1
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こいつらなら俺達もいけるか?
「ウィンドバリア。」
俺と友紀そしてめぐみさんも緑色の薄い膜が張られた。
「私はこの城下町の側で大魔法を発動させる訳にはいきません。今はあくまでゼスト王個人の策謀。大きな戦闘を行うと兵士の大軍が押し寄せる。
向こうの思うツボです。活路は南です。」
エリアドルさんは俺達の乗った馬車の馬に鞭を入れ南に向かわせた。そこでリンドバル侯爵と入れ替わりエリアドルさんは馬車から飛び降りた。
馬車は南の兵士達とゼブラに向かい走る。
南に向かう馬車を追いかけるべく走り出そうとするシャドゥファングの頭を、真っ直ぐ駆けてきたエリアドルさんに右手で掴まれ一瞬の内に潰される。
更に左手でスラッシュを放ち2体同時に首を飛ばされ消え失せる。また一歩踏み出したエリアドルさんは両手でシャドゥファングの2体の頭を掴み同時に潰す。
その間、南に向かう馬車の御者を任されたリンドバル侯爵は兵士にぶつかる直前に手綱を引きブレーキを掛け馬の前足で兵士1人を押し倒す。だが馬の攻撃より高い防御力を持つ兵士は直ぐに起き上がろうとしたがリンドバル侯爵の風魔法スラッシュが首に飛び一撃で頸動脈を切られ血しぶきを上げる。それを合図にカレンさんとリカルドさんが馬の背に足で着地し更にもう一飛び、リカルドさんとカレンさんは馬上から飛び降り剣とダガーを振りかぶりながら兵士に一撃。
リカルドさんに剣で叩っ斬られた兵士は兜ごと頭を割られ目玉が真横に飛んでいく。更にその剣を横に振りぬき上段で構えていた兵士の胴を切り裂いた。
カレンさんは横薙ぎにダガーを振り兵士の首の半分を斬り、その横にいた兵士に血飛沫の目つぶしを食らわせ兵士が目を閉じた刹那にその兵士の首が落ちる。
だが流石のカレンさん達も多勢に無勢。とうとう兵士達の剣戟でリカルドさんが肩や腹に傷を負っていってしまう。
リカルドさんの近くにいる兵士に向かって馬車の中から友紀がボウガンで矢を放つ。その兵士の兜に直撃。だが、攻撃力が足りず兜だけを吹き飛ばす。効かないとニヤリと笑った兵士の顔面にめぐみさんの振りかぶった木刀がめり込み目玉とピンクの脳漿を後ろにまき散らした。更に腰に装着しているチタン合金製の大型ナイフの1本を左手で抜き、左後ろにいる兵士の口の中に裏拳の要領で差し込み喉の後ろまで切り裂いた。
下の歯と舌しか見えない顎だけの兵士はカタカタと震えながら失禁しながら絶命する。俺は肩と腹を刺されて膝を付いたリカルドさんを急ぎ抱え馬車の友紀の横に寝かせ、こちらに追いついてきた騎兵が馬車に乗り込もうと頭を入れた瞬間に顔面をガントレットで殴った。こちらを睨みつけようとした騎士の顔面をもう一度思い切り殴る。騎士は首の根から折れ絶命した。
もう一人の騎士が馬車に飛び乗る。騎士の出した剣が俺の左肩を貫くが友紀が走り至近距離でボウガンの矢を顔面に放ち顔に直撃させる。だが基礎防御力が勝る為、友紀のボウガンが顔面に刺さっても兜が外れ深い傷を頬に付けるだけに留まった。
あいにくと俺の右手は空いている。兜が外れたこめかみにガントレットを付けた一撃を叩きこむ。騎士の頭の頭蓋が割れひしゃげて馬車から落ちていく。
少し北で戦っていたエリアドルさんはもう目の前で戦闘を行っていた。
何せシャドゥファングの量が多い。もう既に7割以上撃破しているが全てのシャドゥファングの眼は友紀に向いているのだ。1体も逃がさぬ為にじわりじわり下がってきたのだろう。
そこにサムソンが残り1人の騎士と共に馬車まで辿り着いた。
「巫女様。今日はゆっくり私がお相手致しましょう。」
と馬車に乗りこもうと足を掛けたところに俺は走りサムソンの胸倉に突っ込んだ。一緒に馬車から落ちる。バスタードソードは握らせない。馬乗りになりサムソンを殴り起き上がり辺りを見回す。
南側、ゼブラと兵士2人。丁度めぐみさんが1人の兵士の胸を木刀で潰したところでゼブラの魔法が飛んできた。ヤバいと眼を閉じためぐみさんにファイアボールは当たらなかった。
カレンさんがめぐみさんの前に飛び出しダメージを負ったのだ。
めぐみさんは一度カレンさんを見たがすぐ横の兵士が振りかぶるのを見逃さなかった。めぐみさんは大型ナイフを投擲した。ナイフは兵士のこめかみに刺さり絶命する。
年齢を感じさせない特殊部隊の様な動きだ。一切の躊躇がない。だが確かに俺もいつも以上に身体が動くのだ。だがそれでもめぐみさんの様な剣士の動きはできないし、カレンさんや友紀のように早く適確に動くこともできない。確かにレベルとスキル・・・ステータスに偏った世界だ。
カレンさんは既に負傷しHPを削られた状態への魔法ダメージだった。カレンさんは動く事ができない。めぐみさんとゼブラが対峙したがゼブラは既に杖を構えていてファイアボールを放つ。
めぐみさんはすぐさま腰の大型ナイフを抜き取り目の前に十字に構えた。だがファイアボールの直撃を受けめぐみさんが吹き飛ぶ。
馬車の上で友紀を庇いながらめぐみさんに目を向けていた俺の目がブレた。馬車に飛び乗ってきたサムソンにこめかみを殴られたのだ。俺は幌を突き破り馬車から転がり落ちた。意識はある。
だが手を付いた土の色さえわからないでいた。
「友紀・・・。」
サムソンは友紀に近づき強引に手を掴み持ち上げる。
「巫女様。また会いましたね。サムソンです。ではまずは私の部屋へ参りましょう。」
友紀はその言葉が聞こえないでいた。
「優・・お母さん・・」
と同時に馬車に誰かが飛び乗った。
サムソンは友紀の手を持ち上げている手。そう。その自分の手が千切られ馬車の板の上へと落ちていることに気付いた。
「あぎゃぁぁぁぁぁ・・。」
サムソンが叫ぶがその叫びも直ぐに止む。エリアドルさんが兜ごと後ろから頭を掴んだのだ。
「だから言ったではありませんか?巫女様に無礼は許さないと・・・流石に2度目はありません。」
サムソンは目だけをエリアドルさんに向けたが顔を見ることも叶わずゆっくりと兜ごと頭をトマトのようにひしゃげ絶命し血を噴出した頭のない鎧が馬車の上をガシャガシャとのたうった。
時を同じくして。ゼブラが倒れているめぐみさんに近付き杖の先に火を灯しめぐみさんに向けゼブラが炎を放とうとした、が、突然ゼブラの動きが止まる。
ゼブラの後ろから人型の闇の鎧剣士に背中から剣で腹まで貫かれたのだ。
めぐみさんは思わず絶句し異様な光景に目を見開く。
そのまま上方にゼブラは持ち上げられ口からブクブクと黒い血液が零れ出す。剣は微動だにしないが重力でゼブラは貫かれたまま切り裂かれながらゆっくり下に落ちていく。
ゼブラもまた縦に2つに裂かれ絶命した。