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知らない一面

恒例のお茶会。


今回は珍しく、私が彼の屋敷を訪れている。

立場が変わると緊張する。

今日もマリーにお任せして身だしなみを整えてきたので、見た目は問題ない筈だ。


でも中身は私だ。


ドキドキしながら、彼の屋敷の侍女の後をマリーと歩く。そう、今日はマリーと一緒に来ている。

屋敷内で会うことになるので、婚約者といえども男女が二人きりというのは慣習的によくないから。

いつもはうちの庭か外だから、二人きりでもいいのだけれど。


一つの部屋の前で侍女が立ち止まり、どうぞと頭を下げて踵を返した。

なんだか妙に緊張する。

深呼吸をする私を、マリーが待ってくれている。

頷いてみせて、マリーが拳を握ってドアを叩こうとした時、中から小さな声がした。

怒ったような女の子の声。


反射的にマリーの手を掴んで止めた。

怒鳴り声と、疲れたような彼の声。

気づけば、引き寄せられるように、そっとドアに顔を近づけていた。


「どうして!?私と結婚してくれるんじゃなかったの!?」


そして聞こえてきた内容に硬直する。

まだ若い女の子の声。


「まだそんなことを…君と結婚なんてできる訳ないだろう」


うんざりと返す彼。


「っ…!結婚しようって約束した癖に!指輪だって…」


涙混じりに取り乱す女の子。


「………あんなガラクタ」


彼の、吐き捨てるような低く冷たい声。

初めて聞くその声の調子に、身体が震えた。


「とにかく君とは結婚しない。そのつもりも全くない。出て行ってくれ」


「酷いっ…!あの女との婚約がダメになったから、今度こそ私と結婚してくれると思ったのにっ…!」


ガタンっと大きな音がした。


「アテナ!?」


彼の驚いたような声。

そして、ため息と窓を閉める音。

静かになった室内。


…まさか窓から出て行ったの!?


呆然として、マリーと顔を見合わせる。

…こういう場合、どうしたらいいのだろう。

ドアの前で立ち尽くす。


迷った末、十分くらいしてから素知らぬ顔で部屋に入った。






結局、今日のお茶会はずっと上の空だった。

いつも楽しみにしていた彼の服装も覚えていない。

何を喋ったのかも。

彼がどんな表情をしていたのかも。

マリーに聞くと、一応ちゃんと受け答えしていたらしいのだけれど。


覚えているのは、部屋に入る前の、彼と知らない女の子の会話だけ。


結婚の約束をしていた。

指輪もあげた。

なのにあんなに冷たく切り捨てた…。


私が知っている彼は、優しくて暖かくて真っ直ぐな人。

なのにあの時の彼は……まるきり別人だった。


私も…いつかあんな風に切り捨てられてしまうのだろうか…。


今は結婚の約束をしているけれど。

もし彼に、もっといい縁談が持ち上がったら。

遥かに条件のいい家から、強引に割り込みをかけられて結婚したいと言われたら。

あんな風に、冷たい声で言われてしまうのだろうか。


「君とは結婚しない」と…。


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