顔合わせ
昼食はあまり喉を通らず、新・婚約者の訪問予定の時刻になった。
新しい婚約者は、時間きっかりに現れた。
馬車から降りた、遠目にもわかる丁寧に手入れされた清潔感のある装いに、ひとまず安堵する。
よかった。生理的に無理とかじゃない。
近づいて来るにつれて、その顔立ちも見えるようになった。その人は、地味目のハンサム、という感じで私の好みだった。
私は正直、キラキラした人は苦手だ。自分と比べて気後れしてしまうから。
でも彼はちょうどよい。
格好いいけど目立つ感じじゃなくて、程よいハンサムだ。
安心して見ていられる。
私と真っ直ぐに目を合わせた実直そうな瞳に、鼓動が一つ、ドクンと大きく脈打った。
ちょっと、いいかもしれない…
予想外にときめいてしまって動揺する。
どうしよう。こんなに素敵な人だなんて聞いてない。というか人となりについて、ほぼ何も聞いていなかった。
正直、あまり期待していなかったから。
だって婚約者に振られた人が、こんなに格好いいだなんて思わないじゃない。
「このたびは、婚約の申し出を受けてくださりありがとうございます。どうぞよろしくお願いいたします」
低く心地よい声。
お父様に頭を下げる綺麗な所作に、見惚れてしまった。
その後のことは、あまりよく覚えていない。
お父様が
「娘をよろしくお願いします」
と挨拶を返して、庭のテーブルに案内され二人きりになった。
テーブルについてすぐ
「とてもお綺麗ですね」
と言ってくれたことだけは、はっきりと覚えている。
その一言で舞い上がったことも。
こんなの社交辞令の初歩の初歩。
自分にそう言い聞かせてみても、鼓動は治らず顔の熱も引かなくて俯いた。
小一時間ほどお茶をして彼が帰ってからも、その言葉を思い出すたびに嬉しくなってしまった。
褒めてくれた時の、言い慣れていないのか少し染まった頬。きまり悪げに逸らされた視線。そんな姿を思い出してはにやけてしまう。
マリーは、
「お嬢様、にやけすぎです」
と苦笑しながらも、ひとまず顔合わせがつつがなく終わったことを喜んでくれた。