元婚約者と…(ミシュ視点)
ジェイ視点とは別の日の夜会にて
◇ ◇ ◇
ある日の夜会で、嫌なものを見てしまった。
……ものというか、人なのだけれど。
元婚約者の姿。
彼は、ほっそりした女性と一緒にいた。
初めて見るけれど、おそらくあれが彼の新しい婚約者なのだろう。
つまりはジェイの、元婚約者。
綺麗な人だった。
「妖精のような」という表現がぴったりくる。細くて今にも壊れてしまいそうな人。
多分、男の人はああいう人を守ってあげたいと思うのだろう…。
あの儚げな感じは、私にはないものだ。おそらく一生かかっても身につけるのは無理。
だって私は、あのお父様の子だもの…。
軽く打ちのめされる。
ジェイもやっぱり、本当はああいう人の方がいいのかもしれない…
ジェイは…実のところ、どう思っているのだろう。
彼に、元婚約者について聞いたことはない。聞ける訳がない。
自分を振った相手について聞かれたくないのは、私も同じだから。
でもだから、婚約者が彼女から私になったことについて、ジェイがどう思っているのか私は知らない。
あんなに可憐な人が婚約者だったのだ。きっと私では不満な点も多いだろう。なのに彼は、いつも私に優しくしてくれる。
でも、やっぱり今でも彼女の方がいいのだろうか。
何年も婚約していた相手なのだ。彼女のよいところもいっぱい知っているだろうし、振られたからといって、すぐに切り替えられるものでもないだろう。
頭ではそうわかっているけれど…ジェイが彼女をまだ想っていたら嫌だ。彼が彼女を切なげに見る姿なんて見たくない。
そう思いつつも気になって彼を見上げると、優しく見つめ返された。
「どうした?」
「いえ…」
思わず焦って下を向く。
彼はとても気配に敏感なようで、私が彼を見るとほぼ確実に私に視線を向けている。
だから、こっそり表情を伺うことがなかなかできない。
出会ってすぐの頃は結構そんな隙もあったのに、最近は私の気配に慣れたのか、私が顔を向けきる頃には既にこちらを向いている。
そこまで気を張らなくてもいいのに…
ちょっと不満だけれど、「リラックスして欲しい」と頼むのも何か違う気がする。
私が頑張って、彼が肩の力を抜ける空気を作るしかない。
そんなことを考えていたら、いつの間にか元婚約者たちの姿は見えなくなっていた。
ほっとして、こっそりため息を吐く。
彼らと対面するのは、もう少しだけ…できればあと一年か二年か五年か十年先にして欲しい。
できれば一生言葉を交わさなくても一向に構わない。
…流石にそれは無理だろうけれど、本当に当分の間は遠慮したい。
ジェイがもし…ほんの少しだけでも彼女と言葉を交わしたいと思っていたら、申し訳ないのだけれど…
そう思って視線を上げると、やっぱり今回も既にこちらを見ていた彼の、優しい瞳が私を包んだ。




