第十一話
訓練を開始してから半年経ったからかさすがのマチルダも体力が付き、ダニエルほどではないが長距離を走れるようになってきた。
その努力をダニエルが認めたのか以前よりマチルダとダニエルは話をするようになった。とは言っても元々一方的にダニエルが敵視していただけではあるのだが。
気付くとマチルダのいるところにダニエルとハンスが居るようになっていた。
それに伴い、他の訓練生とも話をするようになり、入学した時のようなギスギスした雰囲気がクラスにはなくなっていった。
『ダニエルとハンスはマチルダの金魚の糞だな』
呆れたようにつぶやくリラにマチルダはクスッと笑う。
「仲良くしてもらえて嬉しいですが……以前のように親の仇のように言われるのはさすがに言われ慣れていてもつらいので……」
マチルダは楽しく毎日訓練に来れて嬉しそう。純粋に嬉しそうなマチルダにリラはフッと息を吐く。
『マチルダが嬉しいのならなによりだわ』
マチルダは入学当初より走れるようになったこともあり長距離を以前と比べ物にならないスピードで走るが、他の訓練生と比べるとまだまだスピードが遅いからか以前より早く走れるようになっても毎日放課後自主練習を欠かさなかった。
その日は走るのではなく、力では他の訓練生に負ける事もあり、剣の自主練をするため模擬刀で一人黙々と素振りをしていた。するとハンスがやってきた。
「マチルダ、練習頑張るね。僕も一緒に参加させてもらっていいかな?」
「ハンス、ふたりでしたほうが本番に近いから一緒にしてもらえると助かるわ」
こうして二人は模擬刀を構えて相対した。リラとブリュンはそれぞれの主人の肩に止まる。
しばらく打ち合っているとダニエルとフランクもやってきた。(もちろん竜のイグニースとブラウも一緒)
「おい、二人、俺達も練習に入れてくれ!!」
マチルダとハンスを二人っきりにさせてなるものかと言わんばかりのダニエルの呼びかけにマチルダとハンスは練習を止めて、二人と二匹を迎え入れた。
四人がそれぞれ模擬刀で素振りを始めた。
連れている竜達は邪魔にならないところに集まって雑談を繰り広げている。
リラがイグニースに腕をツンツンしてきた。
『お主の主、マチルダとハンスを二人っきりにさせまいと必死じゃな』
『そうなんですよ、リラ様。初対面の印象が悪すぎて、挽回は難しいと思うんですがね』
フランクの竜のブラウも力強くうなずく。
『初対面であんなに喧嘩を吹っかけといて、今更って感じですよね』
ハンスの竜ブリュンもうなずきながら、話しだした。
『いきなり竜騎士の資格を疑うようなことを言ってましたからね。試験に受かってるにも関わらず』
『ダニエルも頑張ってるんで、温かい目とは言いませんので、冷たい目で見ないでやってくださいよ』
ペコペコ頭を下げるイグニースに三匹はしょうがないなあと言う雰囲気。リラはというと、
『わしはマチルダののぞみを叶えてやりたいから、誰の味方もせん。見守るだけじゃ』
そういってニヤリとしながら、リラは三匹にいらんことするなよと言わんばかりに鋭い目を向けた。
『『『はい!!』』』
三匹は下手なことするとリラに殺されそうだなと思うのだった。
四人がしばらく練習をしていると誰かのかけてくる足音が聞こえてきた。
「みんな、ずるい!!」
エルマーがプッとほほを膨らませながら水色の竜シュトルムとやってきたのだった。
「僕より力があるのに練習するなんてずるい!! 誘ってよ!!」
年下の特権かグイグイと入ってきて模擬刀を手に取り素振りする。
四人はエルマーを見てほほえましく笑ってしまう。
五人で練習を続けていると誰も寮に帰らないのに気付いたのかユリアンも茶色い竜チョコとやってきた。
「皆さん、私も自主練に参加させてください」
五人は頷きながら答える。
「「「「「いいよ」」」」」
こうして六人は模擬刀を使った自主練を続けるのだった。
二人ずつの模擬戦をしていると偶然組み合わせがダニエルとハンスになった。
「ハンス、手加減無用だ!!」
「ダニエル、望むところだ!!」
そう言って二人は模擬刀を振る。
最初は軽く当てあっていたのが、お互い本気になり始めたようだった。
他の四人は二人の熱の入った模擬戦に手を止めて、見入る。
ダニエルが打ち込むとハンスがいなし、ハンスが打ち込むと打ち返すと言う状態。
しかも、二人の力が互角なのか決着が付きそうにない。
四人と六匹はどうしたものかた見ていたが、模擬戦をやりすぎて、明日な訓練に支障をきたすわけにはいかないので、そろそろ止めなくてはいけないが二人の様子にどう止めて良いか悩む。
『そろそろ止めねば明日に影響が出そうだな』
リラがそう言うとマチルダはうなずいた。
「そうね。でも、止めても聞こえそうにないし、変に止めに入って怪我をしてもいけないし……どうしたらいいかしら……」
ダニエルの竜イグニースとハンスの竜ブリュンにリラが威圧をかける。
『お主たちの主人、止めれんか?』
『『ハイッ!!』』
二匹は首を縦に何度も振り、二人の方へ飛んでいった。
そして、二人が打ち合い、離れた瞬間、お腹のあたりに入り込み、前に進まないように止めた。すかさず、リラが声をかけた。
『練習に力が入るのはわかるが、その辺りで止めておけ。疲れを残しては明日の練習に差し障ろう』
リラの眼力なのか、二匹の竜の必死の様子なのか二人は我に返る。
「熱くなってしまったようだな」
ダニエルが照れたように言うと、ハンスは軽く一礼をしてダニエルに向かう。
「ダニエルの胸を借りるつもりでやっていたら、力が入ったようです。申し訳ありません」
「いや、本気で相手をしてくれてありがたい。俺の練習になった。本気で相対してくれる相手は得難いからな」
ダニエルはハンスに手を差し出し握手を求めて来た。ハンスは答えるように手を差し出し、二人は固く握手をした。
様子を見ていた訓練生四人は誰からともなく拍手をした。
それを見たリラはつぶやいた。
『青春じゃな』




