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家族まで  作者: 長谷川ゆう
9/19

明らめる

赤木悟が、妻と結婚して父親の自動車工場を継いだのは工業高校を卒業した19歳の夏だ。



母親の実奈は、外交的で毎日でも化粧をして来るお客や取引先との仕事をしている。


父親は、無口でいつもブルーカラーの作業着を着て寡黙に自動車を直していた。



一人っ子である悟は、子供の頃から祖父の代から続く古ぼけた自動車工場を継ぐことに反発して、1度は普通の高校に入学したが、寡黙な父親は、入学を辞めろとも言わずに引き留めなかった。



母親は、最初は大反対したが熱も冷めると思ったのか普通の高校に入学する事を反対したものの、渋々、承諾する。



1年もすると、工場の油の匂いや工具の重さや自動車工場独特の雰囲気が懐かしくなり、父親と同じ道を歩む事を決め、工業高校に転校した。



卒業後は、寡黙な父親の仕事をたんたんと見て覚える毎日で、辛い時もあったが、苦にはならなかった。



25歳の時に、取引先のご令嬢との縁談を母親がもってきたが、悟は、正直乗り気ではなかった。



最初に会った時は、工場の古さに驚きつんけんしていた妻は、鼻持ちならないお嬢様だと悟は思った。



しかし妻は、世界の違う自動車工場に興味を持ち、悟の気持ちを無視して、結婚話はトントン拍子に決まる。



断るつもりだったが、母親から、赤木工場が父親の代で傾いている事を知らされ、取引先のご令嬢の父親は、結婚すれば、多額の支援をしてくれると言われた。



借金は、300万を越えていた。



祖父の時代は、近所や祖父の人柄でお客は絶えなかったが、寡黙な父親は修理ばかりで、人脈は薄い。



悟が、ご令嬢と26歳で結婚し、2人の年子の娘をもうけたが、工場にも飽きて、悟にも飽きた、29歳の時には、頻繁に実家に帰るようになった。



「結婚すれば、いろいろあるわよ。お父さんともそうだった。礼子さんも、そのうち馴れるわよ」

母親の実奈は、悟を諭したが、母親に苦悩の色が一瞬よぎるのを悟は見逃さなかった。



そんな時、お客に修理が終わった自動車を返しに行く途中、ぼんやり昼間の道を、どこ行くでもなく歩く女性がいた。



いつもは、通行人など気にならなかったたが真夏で日傘もささず歩いていたので心配になり、ある程度、距離を置いて、車をゆっくり止め、窓を開け、不審に思われないように声をかけた。



「大丈夫ですか?熱中症とかなら救急車呼びますけど・・・」

振り返った女性は、どこか虚ろな目をしていたが、妻の礼子とは違い、キラキラとしている。



「大丈夫です。今日、会社を辞めたら、何だか気が抜けちゃって」

力なく笑う姿に、悟は、あ!と思った。

近所に住む、確か双子の姉妹の一人だ。


相手も気がついたのか、あっと言う顔をする。



「赤木自動車工場の?」

少し笑った顔が人懐こい。



これが、赤木悟と田中まゆの最初の出逢いだった。







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