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家族まで  作者: 長谷川ゆう
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今さら家族を取り戻そうなどとは、思わない。



ただ、世間体から見た形だけでも家族をとサユコは夫と双子の娘が失踪してから焦った。



双子の娘の妹が働いていた会社の社長の田所から渡された、みゆの荷物には家から徒歩、数分の家族経営の自動工場で作られている車のキーホルダーのついた鍵があった。



サユコの近所では、挨拶程度の近所付き合いしかない。車のキーホルダーを持ち、近所の店で買った菓子折りを持って家を出る。



夫と娘達が、消えてから3週間後の事だ。


自動車工場は、1階部分が工場で2階部分が住居になっている。サユコは真と結婚してから29年以上同じ場所に住んでいるにも関わらずよく見ていなかった。



工場部分の看板には、赤木工場と古ぼけた看板があり、住居に通じているインターホンの表札には「赤木」とある。



自治会もない近所で、人間関係が苦手なサユコにとってありがたかったが家族が消えた今は、近所に誰が住んでいるのか分からない事は、不安でしかなくなった。



姿勢を正し、インターホンを押す。自動車工場は休みなのかシャッターが全部おりている。



「はーい」

サユコと同じくらいの年齢の女性の声がした。娘の所持品とは言わずに、サユコは車のキーホルダーのついた鍵が、家の敷地内に投げ込まれていたので持ってきたと言った。



女性は、赤木実奈と名乗った。



2階から下りてきたのは、小太りの人の良さそうなサユコと同年代の女だ。きっちり化粧をしており、サユコとは真逆の性格なのがうかがえた。



「あら、あら、本当に!うちで作ってるキーホルダーだわ。鍵もうちのみたい。悪いわねぇ、えーと・・・」

相手も近所だというのにサユコの名前を知らないのか困った顔をした。



山田です。とサユコが名乗ると、ああ!ご近所の!とすぐに分かったようだ。



「やだわ、息子の悟の鍵だわ。嫁と子供達は今は実家に帰省してるから、だらしなくって、ご迷惑おかけして!」



さっぱりした、いかにも職業柄明るい性格なのか、サユコを話しながらも好奇心でいっぱいで見る。



「そういえば、田中さんちのお姉さんの方?まゆちゃんとばったり半年前に会ったわ!」

意外な話しにサユコは、愛想笑いをしながらも心臓は早鐘のように脈を打っていた。


「お仕事辞めて、結婚するために同棲するから実家には当分いないので、母を宜しくお願いします、なんて言われちゃて、しっかりした良い子ね!」

サユコの口から、思わず「えっ」と声がもれた。



赤木さんが、一瞬、不信な顔をする。




「ええ、まあ、続くかは分からないんですが、ほっとしてます」

何とか話を合せると、赤木さんが満足そうに何度もうなずいた。



「うちの息子の悟なんて、今なら笑い話だけど出来ちゃった婚のうえに嫁と子供達まで同居する事になって、最初は大変だったわよ!」

確か、娘達と同年代の息子が同じ中学に通っていたのをサユコは思い出した。


いつも制服を着崩して、だらしなさそうな感じがサユコに嫌な印象を与えていた。



確か、まゆの1つ年上だっただろうか?家に帰れば卒業アルバムがあるはずだ。なぜこの家の鍵をみゆが持っているのか、何か分かるかもしれない。




あとは、近所のたわいもない話をして自動車工場を後にした。




いかにも噂好きで、おしゃべりそうな女性でサユコは苦手な人間だ。



何となく、自分の母親を思い出し、サユコはザラリとした嫌な心の感覚を忘れようと、足早に家に帰った。



夫と双子の娘達が消えてから、3週間目の夕日が沈みかけている。






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