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家族まで  作者: 長谷川ゆう
5/19

切る

「しまった」

山田みゆは、慌てて電話を切った。

使いなれていない新しく契約したスマホで、自宅に電話をしてしまった。



「はい・・・」

少し疲れきった母親の声を聞いたとたん、心臓が早鐘のように打った。



黙ったまま、みゆは電話を切り着信から母親が電話を返してくるのではないかと怯えたが、スマホは何の音も鳴らさずスリープ画面になり、真っ暗になる。



まるで、母親のいつもの暗い瞳のようでみゆは怖かった。



あの電話の感じ、仕事を辞めた事も家から失踪したこともバレている。




いつもは、おっとりしている母親のサユコだが変な所は勘が良いのだ。



「どうした?」

後ろのダブルベッドで眠っていた、みゆと同じくらいの年齢の男が目を覚まし、みゆの背中ごしに心配していた。



「なんか、違う所に電話しちゃった。電話は、また明日にする」

みゆは、とりつくように笑い男を見た。やっと手に入れた幸せを家族に壊されたくない。



私が1人家からいなくなった所で、家庭に興味もない父親も正社員のみゆをずっと妬んでいる姉のまゆも、驚かないだろう。



母親のサユコだって・・・みゆが失踪してから一週間は経過するが、みゆが住むこの1LDKに警察が来ることもない。



つまり失踪届けすら出していないのだ。



母親のサユコは、みゆも姉のまゆも母親として育ててくれたが、たいした愛情を感じる事はなかたった。



まるで感情がない。中学生の時みゆが思った事だ。



勉強で良い点数をとろうが、それなりに良い大学にいこうが何も口を挟まない人で、姉のまゆなんかは、母親に認めてもらうために意地で就職浪人までしたが、結局、非正規として働いた。



姉のまゆとも父親とも母親とも社会人になってからは、会話もなく、お互いが何をしているかもすら分からない家族だった。



今さら、もう崩壊している家族に戻ろうとは思わない。だからと言って、この生活が続くとも思えなかったが、みゆには居心地が良いのだ。



「明日の朝ごはんは、何がいい?」

みゆが笑って言うと男は、顔を曇らせる。



「ごめん、明日はさすがに家族の所に帰らなきゃ怪しまれる。また来週くるから」

だんだん小さくなる男の声と共に、みゆの気持ちは暗くなっていく。



「離婚の話しは・・・進んでいるんだよね?」

みゆが何とか笑顔を作ると、男はゆっくりうなずいた。



お互い壊れた家族から逃げてきた二人で、また新しい家族を作る。



みゆが男と暮らすようになって決意した事だ。男からの少しの月の援助のお金と貯金を切り崩しながらの生活は、不安もあるが、未来への期待が上回っていた。



テーブルの上にある男の家の鍵をみゆは、男に渡して自分もベッドに潜り込んだ。



「早く帰ってきてね」

みゆが笑うと、男も笑った。



その男の鍵には、車のキーホルダーが付いていた。



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