おねぇの店に犬が来た
「もう女の子、泣かしちゃ駄目よ?」
「う~ぃ、お響姐さん、又~」
カラン…
本日、最後のお客を見送り、ドアを閉める。
草木も眠る丑三つ時。
眠らない街、歌舞伎町。
妾は、バー「深い霧」の主人、上野狭。
源氏名は「お響」で、姐さんって呼ばれてる。
性別?
そんなの、性別「妾」でいいのよ!
そろそろ片付けようかしら…
そう思ってテーブルを拭き始めた時、
カラン…とドアチャイムが鳴った。
「いらっしゃ…ファッ!?」
犬。
てゆうか。
着包み。
チャック付いてるし。
ベロ出てるし。
ネットで3万円で買えそうな、茶色い犬の着包み的なのが、店に入って来た。
どうしよう。
想定外だわ。
何なのかしら。
ストレスが溜まって、こんな奇行に走ったのか、
はたまた、何かの罰ゲームなのか、
それとも、即時通報案件なのか。
お巡りさんこの犬です。
「今晩は!」
「こ、今晩は」
仕方無い、この儘、付き合おう。
「中のひ…い、いえ、座って」
犬はカウンターに座り、妾と向き合った。
他にお客さん居なくて良かったわ。
「何か呑む?」
「白湯スープを」
「無ぇよ」
「じゃ、ナポリタン」
「それも無い。葱間はどう?」
「頂きます」
「あぁ、犬だから、葱は抜くわね」
鶏胸を串に刺して、平静を装い、ジュージュー焼く。
「どうぞ」
「モグ、ングッ」
犬は着包みの儘、首の隙間から、焼き鳥を捩じ込んでいる。
すっごい食べ辛そう。
頭、脱げば良いのに。
「…何か、お悩み?」
こんな格好で、深夜にバー来る位だし。
「飼い主とは上手く行ってる?」
「御主人様は、可愛がってくれますよ!」
「どんな人?」
「色白で、頬っぺた丸くて、しっかり者です!
後、良い声です」
「良いじゃない。仲良しなの?」
「お手したら、手を引っ込められました」
「めっちゃ弄られてんじゃねーか」
「まぁ、頬っぺた丸いですからね」
「丸顔なのは解ったわよ」
深夜の店に、犬と二人、微妙な時間が流れる。
「そろそろ、お愛想で」
「お粗末様」
串だけになった小皿を下げる。
犬は、背中から財布を取り出し、すっごい出し辛そうに、千円札を払った。
「じゃ…」
見送ろうとした時、犬は徐に頭を取った。
「ファッ!?」
「暑かった~」
「脱ぐなら最初から、なさいよ!
凄い気ぃ遣ったじゃない」
「焼き鳥、ご馳走様でした」
カラン…
彼は、キラキラした笑顔で、八重歯をちらつかせ、犬の頭を抱えて、店を出て行った。
……。
まぁ、長い事やってると、こんな日もあるわよ。
アンタも来てみる?
歌舞伎町の何処かで、待ってるわよ。
~ 後書き的な何か ~
作者の「ももちよろづ」です。
ここ迄、お読み下さり、有り難うございます。
…何だろう、コレは(笑)
幕末のシリアスを二作、書いた反動で、
こんな阿呆な代物が出来上がってしまいました…w
その儘、不条理モノとして、
読んで下さっても構いませんし、
ネタが分かる方は、ニヤニヤして下さい(笑)
「なろラジ」の中の人、万歳。
注釈ですが、今作は、会話劇であり、
話言葉、ノリ、テンポを優先した為、
所々、日本語として、可笑しい部分がございます。
・てゆうか→と言うか
・すっごい食べ辛い→凄く食べ辛い
ブクマ、評価、感想、レビュー等、
お待ちしております。
他に、幕末モノ等も書いておりますので、
そちらもお読み頂ければ、幸いです。
(↓下記にリンクを貼ってます)