弐の幕
私は、基本的にクラスではひとりぼっちだった。
クラスで浮いている人は私だけではない。でも、彼は特別だから私とはちがう。
ミステリアスだからとか近寄りがたい雰囲気だからという理由で浮いている美少年とは違って、私が浮いている理由は…軽いイジメというほどでもなく、なんとなくみんなから距離を置かれているという感じが近いと思う。
今までならこの赤っぽい髪の毛の色が原因で浮いたり、いじめられたりしたんだけど、校則がゆるいこの学校ではそんなことでは浮かないみたい。だからこの学校を受験したんだけど…。
私が、この教室で浮いている理由は、よくあるものだった。
仲良くしている友達に悪いうわさがある。ただそれだけの理由。
教室の人なんてどうでもいい。私にとって、あの子は特別で、あの子かクラスメイトかを選べと言うなら私はあの子を選ぶだけの話だもん。だから、私は浮いていることも特に気に病むことなんてしないで学校に通っていた。
「朱音、おはよ」
家を出てすぐ私に話しかけてきたすらっとした長身の少女は夕乃阿隅。私にとって特別な友達。 幼稚園の男の子に髪の毛の色が変だといじめられて泣いていた私に「夕日の色みたいで綺麗だね」って言ってくれたのがきっかけでそこからずっと仲良しでいる。
真っ白な肌に映える結構の良い真っ赤な唇はまるで口紅を塗っているみたいだけど彼女はメイクなんてしていないんだからうらやましい。
肩の辺りで切りそろえられた艶のある真っ黒な髪は、私の赤っぽい癖っ毛と真逆で小さな頃からずっと憧れていた。
「阿隅」
私が駆け寄ると、阿隅はキリッとした切れ長の目をすっと細めて色っぽく微笑んだ。この笑い方をされると幼馴染で同性だというのにちょっとドキドキしてしまうのだから、年頃の男の子だけじゃなくて、年上の男の人もすぐに骨抜きにされてしまうだろうなーって納得をする。
「昨日のドラマ見た?」
「あの不良の人がたくさんでるやつ?」
私達は家の前から教室の扉の前までなんてことない会話をしながら並んで歩く。そして、お互いの教室へと入っていく。
彼女には、悪い噂がある。阿隅が援助交際をしているとか、男を誑かしていて陰では援助交際で稼いだお金で贅沢をしているなんて嫉妬したなにも知らない人が適当にばらまいた嘘の噂。
阿隅が否定しないから、私も大きな声で否定できなくて、噂はずっと広まったままだ。
「人は信じたいものしか信じないから、いくら本当のことを言ったとしても無駄なんだよ」
去年のクリスマス前後くらいに、阿隅が少し悲しそうに笑いながらそう言ってくれたのをい覚えてる。
それから、阿隅は病気をしてしばらく学校を休んでいたんだけど、春になってからまた学校に来はじめて、こうして毎日一緒に登校している。
春からは別々のクラスになっちゃったけどお昼休みには毎日私の教室に来て、私の席で一緒にお弁当を食べて過ごしているので寂しくない。
もうすぐ冬休みだし、三学期なんてすぐに終わる。そしたら次はまた阿隅と同じクラスになれるかもって前向きになれるしね。