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all breaker  作者: paruseito
第Ⅱ章-Ⅳ バンセンヌ編
196/280

一歩先へ

 コリーダ=セルシスは悩んでいる。

 マーリン戦の時も、先日のストームキャットの一件の時も大して役に立たなかった事を。


 ジェイドに教わった訓練によって魔力の扱い方に改善しつつあるも、シフォンやシルクが同じ魔法を使い続けていて、真先に自分がダウンしたことに焦りを覚えていた。


 「このままだと、差がつくばかりだ・・・」


 普段、前向きな彼女にあっても、最近の不甲斐なさに自己嫌悪するのだった。


 シフォンとシルクがバンセンヌ観光をしている中、彼女は一人ブライアン邸に残り訓練を続けた。


 「やあ、御学友。精が出るねぇ。」

 「オージェンさんか・・・何か用ですか?」

 「訓練の進捗はどうかと思ってね。」


 「言われたメニューはこなせる様にはなりましたわ。」

 「それで、何か変化は?」

 「・・・魔力を効率よく使える様になっているとは思うわ。」


 「でも、それだけ・・・二人には追いつけていない・・・」


 「・・・聞いて言いかな?」

 「何よ?」

 「君の家って魔導師の家系じゃないの?」

 「・・・家は、武家だったのよ。私が魔法の才能があったから魔導師になったのよ。」

 「なるほどね、それで基礎的なことが疎かになっていた訳か・・・」

 「私だって、基礎くらいしてたわよ。」


 「それって、学校で教えて貰たやつだろ?」

 「そうだけど・・・」

 「・・・魔導師の家系の者は、その家独自の訓練法があったりとする。だから、幼い頃から基礎的なことは鍛えられている。」


 「・・・・・・・・・」


 「それを見込んで、学校で教えているじゃないかな・・・」

 「それで、基礎的に後れを取っていると?でも、学校では何も問題なかったわ。」


 「・・・・・・皮肉だな、君に才能が有りすぎたんだ。基礎が出来ていなくても付いていけた。それが君にとって不幸だったのだろうね。」


 「そんな・・・」


 「地道に続けるしかないね。」


 コリーダは、大きなため息を吐いた。


 「はあ・・・二人に追いつけるのかな・・・」


 「あら、弱気じゃないの・・・らしくないね。」

 「そりゃ・・・最近の体たらくぷりときたらね・・・」

 「まあ、気を落とさない。」


 「ねぇオージェンさん、訓練は続けるとして、他に強くなる方法はないの?」

 「そんなこと言われてもね・・・」

 「何でもいいのよ。何かない?」


 ジェイドは、暫く考える。


 「そうだ、御学友は完全詠唱って知ってる?」

 「馬鹿にしてるの?それくらい知ってるわよ。」

 「では、説明よろしく。」

 「なんで私が・・・まあ、いいわ・・・」


 「魔法の呪文には、起の文言。現の文言。転の文言。発の文言。の4つがあります。まずは、起なのですが、魔法の行使者を指します。現は、魔法の核となる部分・・・仮に火とします。転は、魔力を火に転換する事を指します。発は文字通り発動・・・4つの文を組み合わせて魔法を発動させます。現在の魔法は、その文言の簡略化がなされていて・・・我、火、球、放と詠唱すれば、ファイヤボールの魔法を発動できます。ですが、呪文を簡略化すればするほど、発動は速くなりますが威力は弱くなります。そこで、我、コリーダ=セルシスの御名において、煉獄の炎よ塊と成りて放たん。と詠唱を変えれば、詠唱は長くなるが威力が上がります。でも、これも簡略化した詠唱。完全詠唱とは、簡略化しない四小節かなる呪文の詠唱のこと・・・実際にやってみると・・・」


 「はい、もういいよ。無駄に長い解説ありがとう。」

 「あなたが、言わせたんでしょ!」

 「はい、そこ、文句言わない。」


 「御学友、今から君がやることは・・・完全詠唱での魔法発動。」


 「ナンセンスよ。今は、速さが求められているのよ、ダラダラと長い詠唱していたらやられてしまうわよ。」

 「まあ、時代に逆行しているね。」

 「そうでしょ、意味ないじゃない。」


 「君は・・・シフォン嬢ちゃんより一歩先へは行きたくないのかい?」

 「一歩先へ・・・って?」

 「シフォン嬢ちゃんより強くなりたいか聞いているんだけど・・・」


 「そんなのなりたいに決まっているじゃない!」


 「だったら、やろうか完全詠唱。」


 「意味を教えて下さい・・・じゃないと、やりません。」


 「意味?そんなのないよ。」


 「・・・あなたは、ふざけているのですか!」

 シフォンさんがこの人のことを嫌う理由が良くわかります。


 「ふざけてはいないんだがね。意味がないのは本当だけどね。」

 「全く、意味のないことさせてどうしようと言うんですか・・・」

 「今のままではね・・・」

 「それってどう言う意味ですか?」

 「それは、やってみればわかるさ。」


 この人は、どうあっても、やらせたいみたいね。


 「・・・1回だけですからね。」

 「そうこなくちゃ・・・早速、場所変えてやろうか。」

 「はいはい。」


 ブライアン邸の庭先を借りて完全詠唱を行うコリーダ。


 授業では、完全詠唱は、実践向きではないとの事で知識だけ知っていれば問題ないと言うので、実践した事はない。

 大丈夫、やったことはないけど、ちょっとだけ長い詠唱をするだけ。


 まずは、1小節目、起の呪文。


 天と地と我が真名において宣言す。行使するは、我、コリーダ=セルシス。行使するは、魔導の言。


 2小節目、現の呪文。


 祖は、火。祖は、水。祖は、土。祖は、風。行使するは、火。煉獄の炎よ我が声に応えよ。


 3小節目、転の呪文。


 渦巻く混沌より出でたるは、煉獄の炎。その成り立ちを業火に。その成り立ちを陽に。


 4小節目、発の呪文。


 魔導の深淵を糧に、全てを焼き尽くす豪炎と成りて発動させん。


  煉獄の火球ファイヤボール


 コリーダ、渾身のファイアボールのはずだった。

 だが、魔法は発動しなかった。

 コリーダがかざした右手には、プスプスと魔法にならなかった魔力の痕跡が残る。


 「どうして・・・」

 コリーダは、困惑の表情を浮かべた。

 その様子をじっと見ていたジェイドが口を開く・・・


 「だから、意味がないと言ったのさ・・・」

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