コレクションルーム
ブライアンのコレクションルームは、地下に設けられていた。
部屋の前に着くと、ブライアンは、中に入るために儀式の様なことを始めた。
スキャットは、興味津々で見ている。
ブライアンは、パンパンと柏手を打つ。二礼二拍手一礼。
すると、部屋の扉が開く。
「はわわわ・・・これは、誰がやっても良いのですぅ?」
「ははは・・・これは、私がやらないと開かないよお嬢ちゃん。」
「凄いのですぅ。」
ブライアンを先頭に部屋に入る。最後にシフォンが入ると、扉が堅く閉じられた。
コレクションルームは美術品の数々が綺麗に飾られている。
「はわわわ・・・ジャカールの絵画ですぅ・・・あれは、コガンの石像ですぅ・・・こっちには、ボクサイの墨絵ですぅ・・・」
スキャットは、興奮気味で美術品を見廻している。
「スキャットちゃん、詳しいですね。」
「芸術が好きなのですぅ。なので、詳しくなりましたのですぅ。」
「お嬢ちゃんは、目が肥えているのだね。」
「はい、なのですぅ。」
シフォンは、数ある美術品には目もくれず、伝説記が飾られているケースの前にやって来た。
「・・・・・・」
シフォンは、喰い入る様に見つめていた。感無量。
「どうかな?私のコレクションは・・・」
「はい・・・本当のことを言いますと・・・贋作か写本の一つなんじゃないかと思ってました・・・」
「それで、実物を見てどう思いました?」
「これは・・・まごうことなく、本物の伝説記です・・・」
饒舌に語り出すシフォン。
「この特殊な魔法が付与された書物は、伝説記のみの特徴です。そして、この付与された魔法は、現代では再現できていないのです。それに・・・この伝説記の状態は、すこぶる良い。サンカレンで見た伝説記は、欠損もあれば、文字が薄れて読み取れなくなっていた物もありました・・・でも、この伝説記にはそれが、ほぼ無いのです。なんて素晴らしい。」
シフォンはテンションが上がっている。
「お嬢さんは、伝説記に詳しいね・・・じゃあ、この伝説記について・・・」
「待って下さい。」
シフォンは、ブライアンが話すのを制止した。
「第何篇かを教えようとしてくれたのでしょう?」
「ああ、うん・・・」
ブライアンは、説明したそう。
「わたしが読んで判断させて下さい。」
「お嬢さんも、古代文字を読めるのかい?」
「多少ですけども・・・」お嬢さんも?
「血は争えないってことかねぇ・・・」
ブライアンの言葉に思うとこはあったものの、伝説記の前ではどうでもよかった。
シフォンは、読み解こうと、ケースに噛り付くように見ている。
「ちなみに、直接、手に取っても・・・」
「それは、ダメ。」
「ですよね。」
シフォンは、たどたどしく読み上げた。
「え~と・・・辰ノ月3日・・・・・・・・・本日・・・セグン・・・エルとの再びの・・・戦い・・・が・・・起こった・・・かな?」
・・・・・・・・・・・・
シフォンが一通り読み終わると考察する。
「マリアベルの名も出ているし・・・勝利の描写もあった・・・おそらく・・・第56篇、アーネストがマリアベルの配下と戦ったことが記されていますのは・・・」
ブライアンは、感心しきりで言う。
「お嬢さん。よく知っているね・・・正解だよ。いや~若いのに大したもんだ。」
「それほどでもありません。勉強していただけですから。」
「謙遜する必要はないと思うよ。」
「そうなのですぅ。凄いのですぅ。」
スキャットも感心しきりだ。
「ブライアン会長。お願いがるのですが・・・」
「何かな?」
「写しを撮らせて貰ってもいいですか?」
「ジェイちゃんの親戚だし・・・まあ、良いでしょう。でも、わかっていると思うけど・・・原本からの直での写しの価値は計り知れない。売買目的ではないですよね。」
「もちろん、そんなことする訳ないです。」
「写本が多く出回ってしまうと、とある界隈がうるさいのだよ。」
「とある界隈ってなんですぅ?」
「・・・・・・ここだけの話しだよ、いいね。美術品や骨董品のブローカー団体だよ。奴らは金の亡者だからね。」
「写本でも、価値を下げたくないってことですか・・・」
「まあね。」
「一杯あれば、多くの人の目に触れるのになのですぅ。」
「そうですね。手に入れやすくなれば、研究者の裾のも広がるのだけど・・・」
シフォンは、ブライアンの許可が出たので写しの準備をする。
事前に購入していた無地の用紙を取り出し、魔法の詠唱を始める。
「光よ、その輝きをもって、影を浮き上がらせよ。その影を新たな天地へと誘え。」
『追写』
原本に光り輝き、そこから光が用紙に移動する。
まっさらな紙に文字が浮き上がり、瞬く間に写本が完成する。
「はわわわ・・・初めて見ましたのですぅ・・・これが複製なのですぅ?」
「複製とはちょっとだけ違いますね。」
「どう、違うのですぅ?」
「複製は素材そのもの全てを同じにするもので、今のは文字だけを写しただけのトレースです。」
「勉強になるのですぅ。」
「トレースの魔法まで使えるとは・・・本当に大したものだ。」
「ありがとうございます。」
「会長、そろそろ、お時間です。」
今まで一言も喋らなかったボディガードが告げた。
「おお・・・もう、そんな時間か?」
「はい。」
「どうしたのですぅ?」
「この結界内に入れるのは、1日1回、そして、時間制限もあるのだよ。」
それで、全員が入れなかった訳ですね・・・言ってくれれば・・・
「はわぁ・・・時間制限を越えるとどうなるのですぅ?」
「わたしも興味あります。」
「それはねぇ・・・実に簡単、出れなくなります。」
「それだけなのですぅ?」
「制限時間を越えるとここから出れなくなると同時に、空気が抜かれるのです。」
「中に居ると窒息すると言うことですね。」
「はわわわ・・・怖いのですぅ。」
「私が一緒に居れば、何時でも出れるから安心だよ、お嬢ちゃん。」
「なるほど、賊に入られた時の対策にもなっているのですね。」
「会長、お急ぎを・・・」
「そうだった、そうだった。」
ブライアンは、二礼二拍手一礼する。
結界が解かれ扉が開くと、コレクションルームから退出した。
「ブライアン会長、ありがとうございました。」
「貴重な経験ができたのですぅ。ありがとなのですぅ。」
シフォンとスキャットはお辞儀をした。
「ははははは・・・こちらこそ、コレクション自慢に付き合ってくれて。」
シフォンとスキャットは、興奮冷めやらぬ様子で目を輝かせていたのだった。