アーリントン成金
バンセンヌ港に着いたシフォンたちは、船長や船員にお礼をし船を降りた。
「早速ですが、ブライアン商会本部に向かいましょう。」
シフォンは逸っていた。
何せ、ブライアン商会の会長が伝説記を所有しているのを知ったからだ。
シフォンは、船長の紹介状を大事そうに抱えていた。
ブライアン商会本部は、港のすぐ近くにあった。
シフォンは足早で本部へと向かった。一人の男を除いて・・・
ジェイドは、どこかへ消えていた。
ブライアン商会本部は、1階は倉庫になっており、2階3階は事務所や応接室等、4階に会長室がある造りになっていた。
シフォンたちが本部に着く直前のことだった。
シフォンは急ぐあまり、一人の少女とぶつかってしまう。
キャンと尻もちをつく少女。
「イタタタ・・・」
「ご、ごめんなさい。怪我してない?」
少女は笑顔で。
「あ、はい。大丈夫なのです。」
パンパンとはたきながら立ち上がる。
「転ぶのは慣れてるのです。」
「本当にごめんなさい。お詫びをしますので・・・」
「お詫びなんていらないのです。」
これが、スキャットと言う少女との出会いだった。
スキャットは、髪は短く綺麗な水色。丸眼鏡がキュートな小柄な少女だった。
「お姉さんたちもブライアン商会に行くなのですか?」
「はい。」
「じゃあ、妖精郷の入国許可書を買いにきたのです?」
「そうですよ。」別の目的もありますが・・・
「あたしもなのです。」
シフォンは、何気なく聞く。
「スキャットちゃんは、お父さんかお母さんのお遣いですか?」
スキャットは照れ笑いしながら答えた。
「あたし、こう見えても18なのです。」
年上だった。
「ごめんなさい。てっきり年下だと思っていました。」
「大丈夫なのです。慣れてるのです。」
今日は謝ってばかりですね・・・気持ちがばかりが前に出ています反省しなきゃね。
「一緒に買いに行くなのですよ。」
スキャットともにブライアン商会本部に入っていった。
本部の1階は荷馬車の出入りでごった返しだった。
そこにいた商人に聞くと2階に換金所と入国許可書の販売所があることを教えてくれた。
シフォンたちは販売所へと足を運ぶ。
「子ど・・・大人一枚下さいなのです。」
スキャットは、おそらく普段は子供と称して、料金を安くしていたのだろう。今回は、シフォンたちに年齢を話してしまったため、大人料金で支払った。
「大人7枚で。」
「1枚多いなのです。」
「はは、もう一人、ほっつき歩いている人がいるんだよ~。」
「そうなのですか。」
「あの人の分だけ買わないと、後でうるさそうですしね。」
「違いありませんわね。」
入国許可書を買い終わると、シフォンにとっての本題が始まる。
「私は、事務所の方に行ってきます。」
「何しに行くなのですか?」
「会長に会えないか聞きに行くのです。」
スキャットは、興味を示し。
「あたしも一緒に行ってもいいなのですか?」
「構いませんけど。面白いものではありませんよ。」
「邪魔はしないのです。」
「わかりました。一緒に行きましょう。」
「ありがとうなのです。」
スキャットの眩しいくらいの笑顔をみせた。
大人数で押しかけても迷惑になるので、シフォンは、シルクに一緒に来て貰うことにしてスキャットと3人で事務所に向かった。
事務所に入ると、スキャットは、キョロキョロと周囲を見廻していた。
「お邪魔します。どなたか居ませんか?」
すると、男が対応に出てきた。
「何か用ですか?」
「あの・・・ブライアン会長に面会したいのですが・・・」
「ん?なんかの商談かい?そんな話しは聞いてないな・・・」
「個人的にお話しがしたいのですが・・・」
「個人的!?だったら帰んな。会長は暇じゃねえ。」
「ここに紹介状があります。」
シフォンは、男に紹介状を見せた。
男は黙って紹介状を確認した。
「本物みたいだな・・・ちょっと待て。上に相談してみる。」
暫く待つと、凛とした女性がやって来た。
「私は、会長の第一秘書のヤシマと言います。御用件を伺いましょう。」
「わたしは、シフォン=クレアと申します。よろしくお願いします。」
シフォンは、ブライアン会長に会って話しをしたい旨とそれに至った経緯を説明した。
ヤシマは、渋い表情をしている。
「申し訳ございませんが、会長はその様な用件では人とお会いになりません。」
「怪しいものではありません。」
「それは、所作でどこぞの貴族と見受けられますのでわかります。
だからと言って、会長があなた様と会う理由にはなりません。」
「紹介状もあります。」
「紹介状と言っても一会員のもの。意味がありませんね。」
「ソンナコトイワズ、オネガイシマース。」
「そんな事、言われてもですね・・・」
「あたしからもお願いするのです。」
スキャットは、愛くるしく言う。
か、可愛い・・・でも、仕事は仕事です。
「お引き取りを。」
「どうしても駄目ですか?少しだけでもいいので・・・」
「あなたが、会長のお知り合いならお伺いくらいしますが、そうでは、ないのでしょう?」
「はい・・・」
シフォンたちは、ヤシマに促されて事務所を後にした。
思わずため息が漏れる。
「はあ・・・折角、伝説記をまじかで見れるチャンスだったのに・・・」
「伝説記なのですか?」
「はい。会長さんが所持されていると聞きました。」
「凄いなのです。あたしも見たいのです。」
「わたしも見たいです・・・」
「アキラメルノハ、マダ、ハヤイデース。」
「シルクさん?」
「コマッタトキハ、アノヒトニ、タノムノデース。」
「あの人って・・・」
「ジェイチャンサンデース。」
「なんでそうなるのですか?」
「フネデ、キキマシタ。ジェイチャンサント、カイチョウサンガ、シリアイノ、カノーセイガアリマース。」
「ええ!?」
「アーリントンガエリト、イッテマシタ。」
「アーリントン成金なのですか!?」
スキャットが感嘆の声をあげた。
「ハーイ。アーリントンミリオンデース。」
アーリントン成金とは、幻の大陸からの帰還者が持ち帰った、金銀財宝、知的財産を売り捌いて大金持ちになった者たちの総称である。