馬車の中
審判の門を後にした馬車はクレア家邸宅に向かって走っていた。その車中、対面するシフォンとジェイドの間には微妙な空気が漂っていた。 ジェイドは外をボーっと眺めてやり過ごそうとしていた。
シフォンも目を瞑り黙ってたたずんでいた。
ジェイドは、外の風景を眺めていると、唐突に呟いた。
「これって、ヤバくね。」
「今の雰囲気の事を言ってるのですか・・・この状況を作ったのは誰かは分かっていますよね。」
「んにゃ、この雰囲気の事ではないんだけど・・・・」
「はぁ、全く分かってないのですね・・・・で、雰囲気じゃないなら、何がヤバいんですか?」
ジェイドは口ごもる。 「ん、あ、いや・・・何でもない・・・」 (結構、入り込んでますね。これは近い内に大変な事になるね。)
「そうですか。言いたい事があるなら言った方が良いですよ・・・」
「そう言えば、聞きたい事があるって言いましたね。答えても良いのですが・・・・その代わりこちらの質問にも答えて貰いますよ。」
「わたしがあなたの質問に答えれば良いのですね・・・・」 シフォンは少し考えると。
「良いでしょう。それであなたが真面目に答えてくれるなら。でも、最初に質問するのはわたしからよ!」
「・・・オッケー。どうぞ~」
「・・・・昨日のあの天使は何なの!どうして倒せたの!」
「おや、昨日も軽ーく説明したはずだけど・・・・」
「あの説明でどうやって解るって言うのよ!」
「ふーん、そもそも天使が何なのかが解っていない様ですね・・・・神族イコール天使・・・ある意味あってはいるがそうでは無いとも言える・・・・天使とは、神族の作った魔導兵器さ、天使の中に神族の本体が居るのさ・・・・」
「・・・・天使が兵器・・・それが本当の事かどうかは別にして、何であなたがそんな事を知っているのかしら?」
「そんなの神族の知り合いに聞いたからさ!」
「知り合い? 又、そんな事を言うのですかあなたは・・・真面目に答えてって言いましたよね。」
「うむ、勿論、真面目に答えてるんだけど。」
「はあ・・・じゃあ、その神族とどうやってお知り合いになられたのでしょうか。」
「昔の事だからイマイチ良く覚えてないんだよね。確か・・・どっかの廃墟で殴り合いの喧嘩をした様な・・・」
「・・・・もう良いです・・・で、あの天使は、何で倒せたのか・・・協調魔法も効かなかったのに魔力弾が効いたの?」
「まずは、協調魔法だが、強力な魔法が故に、防がれてしまったんだよ。」
「強力な魔法が故・・・・どう言う事なの?」
「あの天使の魔法防御には穴があったのさ。お嬢ちゃん達には、視えてなかっただろうけど、粗い網目の様に結界的な物が張り巡らしてあったんだよな~。恐らく、より強力な魔法、広範囲の魔法に対応した仕様だったんだろうね。」
「・・・・色々と釈然としないところもあるけど、まあ、良いわ。それよりも、あなたは、わたし達が見えない物が見えていると言う事なの・・・」
「そだよ。だから小さく濃縮された魔力弾を必要とした。それに天使の中身に打撃を与える為に重い一撃が必要だったからね。あれが最適解だったかな・・・・そしてあれは、魔力弾の一つの可能性・・・マジックショット・グラビティ・・・とか言ってたなぁ。」
「にわかに信じ難いけど・・・現実にあの天使を倒したのは本当だし・・・・」
「んじゃぁ、今度は、私の質問にも答えてもらっちゃおうかな。」
「仕方ないわね、変な質問には答えませんからね。」
「・・・・私はねぇ、あの時あの天使は私の助言無しでも、君は倒せたんじゃないかと思っているいるんだけども・・・・」
「あなたは何を・・・・・・・」
「私もね、クレア家が召喚系の魔導士っていう事を知っているんですよ・・・そして君は、それはそれは、強力な守護獣をお持ちだと観ているのだけど・・・あの天使を軽~く倒せる程の・・・・」
シフォンは顔を曇らせると。「・・・わたしがそんな力を持っている訳ありません・・・買い被りと言うヤツですよ・・・」
「否定しますか・・・まあ、良いでしょう。でもね、持っている力は使ってなんぼですよ。・・・大事なモノを失ってからからでは遅いんですよ・・・・」
「あなたにわたしの何が分かるって言うのですか・・・・」
「普通に分かりませんね。あの時、私が現れなかったら・・・君や仲間、その場に居合わせた者たち全てが死んでいたかも・・・・・まあ、それが君の選択なら仕方がないか・・・」
シフォンは、只、黙っているだけだった。
「もっと具体的な答えが聞きたかったのですが・・・残念です。おや、クレアのお屋敷に着くみたいですよ。さてと、にげ・・降りる準備しますか。」
二人の間で微妙な空気が流れる中、馬車は、クレア家の敷地内に入っていくのであった。