マーリン撃退
船は高速で航行中。それを追うように天使が付いてくる。
そして、船上では一つの問題が起こっていた。
「シルクが、どこにも居ないのよ。」
顔面蒼白でコリーダが報告した。
「そ、そんな・・・」
「まさか、海に落ちたのかい・・・」
「落ちたのを見たと言う人は居なかったから・・・まだ・・・」
「みんなで、船内を捜そう。」
シフォンたちがシルクの捜索をしようとした時、再び、魔獣マーリンが姿を現す。
「魔獣が出たぞぉぉぉぉ。」
見張り台の船員が叫び、右側を指差した。
「こんな時に・・・」
それに天使も反応した。一目散に魔獣マーリンへと飛んで行く。
それを船員たちはそれを大手を振って見送った。
天使は猛スピードでマーリンの元へ。
今度、タイミングを合わせるようにマーリンの飛び跳ねる瞬間を狙っていた。
大きく飛び跳ねたところを狙いすまして、ナイフで目を突いた。
片目を失ったマーリンは、何度も何度も、飛び跳ね、もがくように船から離れて行った。
魔獣マーリンは、水平線の彼方へと去って行った。
「魔獣が逃げて行ったぞ!!」
戦いを見守っていた見張り員が知らせる。
同時に船員たちから歓声があがる。
「俺たちの勝ちだぁ!」
いやいや、君たち大したことしてないでしょ。とジェイドは苦笑いした。
そして、いつの間にか天使は消えていた。
落ち着いたのを見計り、シフォンたちはシルクの捜索をしようとした時、ひょっこり、シルクが現れた。
「シルク!あんた無事だったのね。」
「ハイ?ナニカアッタノデスカ?」
「何かあったじゃないわよ!海に落ちたかと心配のよ!」
コリーダは、少々、怒っているようだ。
「オゥ・・・スイマセーン・・・」
シルクは、申し訳なさそうに答えた。
すると、ジェイドが口を挟む。
「うん、うん、わかるよ。白い娘・・・もよおしたんだね・・・しかも、大きい方。生理現象には勝てないよねぇ。」
バッシっと誰かが誰かを殴った。
「いててて・・・」
「デリカシーのない人ですね・・・ねぇ、シルクさん。」
シフォンは、蔑む様な目を向けていた。
「ハーイ、ジェイチャンサン、ヒドイデース。」
「君は、もう少し空気を読もうよ~。」
他の者たちも、あきれ顔でジェイドを見ていた。
それを他所にシルクは、ジェイドに目配せを送った。
魔獣マーリンは、撃退した。
既に陽は落ちようとしていたのだった。
その日の夜。
ジェイドは甲板で寝転がり夜空を仰いでいた。
そこに近づく人影が・・・
「ジェイチャンサン。」
「白い娘か・・・」
シルクは、そっと寝転がるジェイドの横に座った。
「アリガトデース。」
「なにが?」
「アノママダト、ツイキューサレテイマシタ・・・」
「そんなことか・・・でも、君だったら、自分でなんとかしただろ?」
「ソンナコトアリマセーン。クルシイ、イイワケナラ、デキマシタケド・・・
アノ、フザケタ、ハツゲンガアッタカラコソ、ウヤムヤニナリマシタ。」
シルクは、笑顔で言った。
「ふ~ん・・・で、さあ・・・君が動くとは思わなかったよ。」
「・・・・・・」
シルクは、渋い顔をする。
「まったく・・・シフォン嬢ちゃんか堅物くんの成長を促す予定だったのにね・・・台無しだよ。」
「マジュウヲ、ケシカケタノハ、ジェイチャンサン、ダッタノデスネ。」
「まあ、その代わり面白いものが見れたからいいけどね・・・」
「オモシロイモノ?」
「君の天使の姿と決断を・・・」
「オモシロイモノデショウカ?ワタシハ、ニンムノイッカンデ、タスケタダケデース。」
「任務の一環・・・そうかな・・・君は友人として彼らを助けた・・・・
少なくとも、私はそう見ているけど・・・」
「・・・・・・」
「・・・これで君は、立場を悪くしたんじゃないかな?」
「ソンナコトハ・・・ナイハズ・・・」
「だといいな・・・さてと、少年たちの様子を見てくるかな。」
ジェイドは飛び起きると、シルクをジッと見てから船内に入って行った。
シルクは、ただ、それを見送る。そして、思う。
私は間違ったのだろうか・・・
間違っていない・・・この旅が終われば、神殺しとの接点が無くなる。
それだけは、避けなければならない。
そうだ、そうなんだ。これは任務のためなんだ。
これは、彼らを利用するためだから・・・ただ、それだけ・・・
シルクは、自分自身に言い聞かせるように念じた。
だが、別の想いがシルクの心に広がっていた。
違う・・・違う・・・違う・・・
私は・・・私は・・・
私は彼女、彼らを助けたかっただけだ・・・
私は、好きなんだ。シフォンさんたちのことを・・・
もっと、一緒に居たいんだ。
シルクは、はっきりと自覚した。
神族としての使命より、シルク=アンブロワーズと言う人であることを選んだことを。
だが、神族を裏切るわけではない。
神族の使命とシルク=アンブロワーズを両立しようと考えた。
自分にはそれが可能だと信じた。
それは、実に甘い、甘い考えだった。
彼女は益々、板挟み状態になることになった。