魔獣マーリン
海面を飛び跳ね、船に迫りくるマーリン。
「船長!一旦、ベレーニに戻りましょう!」
「馬鹿野郎!あんなのを港に入れたら、とんでもない被害を出すぞ!」
船員は、慌ただしく動いている。
「手の空いている奴は、銛を持て!」
「休んでいる魔導師を全員、魔導機関室に行かせろ!全速力でここから離脱する。」
船長は支持をだす。
シフォンたちは、船室には戻らなかった。
「わたしたちにも、なにか出来ることがあるかも知れません。様子をみましょう。」
「そう、こなくちゃ。」
船の速度が上がりはじめる。
「こっち、くんじゃ、ね~ぞ・・・」
マーリンとの距離を離そうとするのだが、そうは簡単にはいかない。
「なんで、追ってくる・・・俺らは、なんもしてないだろ。」
「船長!追いつかれる!」
「くっ・・・駄目か・・・野郎ども応戦準備!」
「わたしたちも行きましょう。」
シフォンたちも加勢しようと飛び出そうした。
「待って下さい。皆さん・・・ここは、私に任せてくださいませ。」
サリエスが申し出る。
「大丈夫なのですか?」
「なんか・・・予想がつくんだけど・・・」
「勿論、サンカルロが何とかしてくれますわ。」
「知ってた。」
サリエスは、召喚を試みる。
「あれれ・・・おかしいな・・・」
サンカルロは、現れない。
「どうしたんだい?調子が悪いのかい?」
「そんな事はないのですが・・・呼び出せません。」
シフォンが考察する。
「もしかして・・・サンカルロさんは、地霊の類いなのでは・・・。」
「ちれー?よくわかりません・・・」
「・・・霊は、土地に縛られている場合が多いのです。海上では、召喚できない可能性があります。」
「そー言うものなのでしょうか・・・」
サリエスは、考えを巡らせる。そして、何かしらの答えをだした。
「合点がいきました。そう言うものなのでしょうね。」
本当に理解しているかは、さておき、魔獣マーリンは、船を捕えようとしていた。
船は、速度を上げるも、それ以上の速度で魔獣マーリンは迫っていた。
船員たちが右往左往しているなか、シフォンたちが前に躍り出る。
「客人は、船内にって言ったろう。」
「わたしたちも、手伝います。」
シフォンたちが魔法の詠唱を始める。
「仕方がない、無茶をするなよ。」
「裁きの雷。」
稲妻が魔獣に向けて放たれる。
魔獣マーリンの速さと海の中に深く潜ることで回避される。
「コリーダさん、シルクさん。次に海面に現れたら、右側を狙って下さい。」
「誘導するのね。わかったわ。」
「はい。ある程度、軌道が絞れれば、魔法を命中させることもできるはず。」
魔獣が海面に姿を現すのを待つ・・・2、3分後、飛び跳ねる魔獣マーリンの姿を発見すると、予定通り、魔獣の右側に向けてコリーダとシルクの雷の魔法が放たれる。
左に旋回したら、そこを狙い撃つ。それ以外は、やり過ごす。シフォンは、そう考える。
魔獣マーリンは、左旋回で魔法攻撃を避ける。
予測での想定位置へとシフォンは、雷の魔法を放つ。
魔獣マーリンに落雷の如く稲妻が命中する。
轟音が響く・・・
魔獣マーリンから煙が上がるも、その動きは、鈍ることはなかった。
「やはり、奴には魔法は効かないか・・・」
船長がポツリと漏らす。
「直撃したのに・・・」
「シフォンさん、次はどうします?」
「悪いがお嬢さんら、防御に徹してくれんか?」
船長は、シフォンたちに要望を出す。
「奴は、銛で突いてダメージを蓄積させて、戦意を失わせる。」
「それでは、倒せないのでは?」
「倒す必要はない。奴があきらめて、どっかに行ってくれるのを待つしかねぇ。」
「時間がかかりそうね。」
「すまねえな、この船には奴に有効な装備がない・・・こんな手しか思いつかねえ。」
「わかりました。やってみます。」
船長の支持通り、船の防御に当たることになったシフォンたちを、見守る男がいた。
船長は、冷静だね。
しかし、持久戦が正解かどうかは、難しいところだね。
ジリ貧になる前に、魔獣があきらめてくれるかが鍵だけど・・・
それは、私が望む結果ではないんだよね。
シフォン嬢ちゃんは、又、自身の力と向き合わないつもりなのかね・・・
このまま、海の藻屑ってことも・・・そうなる前に何とかして欲しいのだが・・・
君の為に、舞台を用意したんだ・・・
向き合って貰いたいものだが・・・
まあ、後で煽り・・・促しに行こう。
しかし、この状況を何とか出来るのはシフォン嬢ちゃんだけではない・・・
堅物くん・・・
君の持っている魔剣は、そもそも、魔獣討伐のために造られた代物。
しかも、その形状が槍ときている。
槍は・・・投擲武器でもあるだよ。
魔剣を犠牲にする覚悟があるのなら、アレは倒せるんだけどね。
当の本人は、全く気付いてないときている・・・
リチャードとデービットは、オロオロしている。
さて、どうしたものかね。
ジェイドは、マストの見張り台から甲板を見下ろしていた。
「兄さん・・・なに、ブツブツ言ってんだ?」
見張りに立っている船員に突っ込みを入れられる。
「気にしない、気にしない。一休み、一休み。」
「降りろ・・・」
「やだ。」
「降りろよ!狭いんだよ!」
マストでの攻防戦が行われてたのは、又、別の話し・・・