来客
翌日の昼下がり、クレア家の執事が慌ただしく馬車を出す準備をしていた。そこにシフォンもやって来た。
「爺や、お父さまが何処か出かけるのですか?」
白髪の初老の執事が答える。
「シフォンお嬢様、御主人様がお出かけする訳ではございません。審判の門に当家由来の御仁がおみえになられてるとの事で。御主人様の指示で確認し、当人だったらお連れする様にとお申し付けなされましたので今から参る所存でございます。」
「それだったら、爺やがわざわざ行かなくとも、他の使用人でよいのでは?」
「それがそう言う訳には行かなくて。その御仁を知る使用人は私しか居りませんでして。その方が来るのは、何せ10年振りなものでして。」
「そうでしたか・・・・・爺や、審判の門に行くなら、わたしも一緒に行っても宜しいですか?」
「お嬢様が・・・・私は構いませんが、御予定があるのではありませんか?」
「今日は、学院も休みになりましたし、審判の門に行けば、昨日の続報を詳しく聞けるかと思うので・・・」(商人達に聞けばあの剣士の事も何か解るかも・・・)
「分かりました。準備が出来ましたらまいりましょう、お嬢様。」
馬車は審判の門に着き。シフォンと執事は門の中へと入っていった。
「お嬢様、私は身元確認に行って参ります。」
「お願いしますね爺や。わたしは警備兵にでも昨日の事を聞いてきます。」
シフォンは、何人かの警備兵に昨日の続報がないか聞いて回ったがこれといった情報は得られなかった。
商人達の収容された病院は聞けたから、後日、病院に聞きに行きましょう。しかしあの剣士を見た者が誰もいないって・・・ここに来ていない?そう考えるのが自然か・・・
シフォンは考えても答えが出ないので、とりあえず執事と合流する事にした。
待合所で執事と一人の男が話しをしていた。
「いやークレメントさん、助かりましたよ。あいつらクレア家の関係者って言ってるのに全然信じてくれないし・・・」
「それはあなた様がその様なみすぼらしい恰好しているからではありませんか。それと私の事は、爺やで構いませんので。」
「そなの・・・この格好そんなにダメかなぁ?楽で良いのに・・・」
「少なくとも家名持ちのする格好では有りませんね。 しかし、10年振りだと言うのにまるで変わりませんね貴殿は・・・・」
「クレメントさんも変わりなく元気そうで何より。」
「私の事は爺やでと、先程、申したはずですが・・・宜しくお願いします!!」
「お・おう・・・」
そんな会話をする中、シフォンがそこにやって来た。そしてそこに居た男の姿を見て思わず声をあげる。
「あ、あなたは!!・・・何でここに・・・・」
「んん!? おや、君は昨日の学生のお嬢ちゃんじゃあーりませんか。」
「お嬢様。もうお知り合いでしたか。」
「この人よ!昨日の剣士は・・・あなた、いったい何者なの!?」
「お嬢様。この方は・・・・」 執事が紹介しようとするのをみすぼらしい剣士が手を挙げ制止した。
「そっか、自己紹介がまだだったねお嬢ちゃん。・・・私の名前は、ジェイド=オージェン。享年24歳。・・・残念ながら既婚だ!!でも嫁はまだいない。」(私に惚れんなよ。にっこり)
「・・・・・・・・・・・・」 (何、言ってんのこの人。)
「・・・・・・・・・・・・」 (やれやれですね。)
「・・・これは・・・・ツッコミ待ちと言うヤツですか・・・・」
「いえ、お嬢様。スルーしてあげるのが優しさかと。」
「・・・・・・・」
「・・・・いやその・・・何か反応してくれても良いんじゃよ。」
微妙な空気を察した執事が言葉をはさむ。
「お嬢様。面倒くさい事になりそうなので反応して下さいませ。」
シフォンは、困惑しながらも反応してあげる事にした。
「はあ・・・・じゃ、享年と言うなら、あなたは死んでいると言う事で良いでしょうか。」
「そーなんですよ。私は・・・既に死んでいる・・・・」
「あ、はい、じゃ・・・既婚なのに嫁が居ないとは、これ如何に。」
「お嬢様。恐らくそれは、エア嫁とか心の嫁と言うヤツかと。」
「いやいや、今は、本当に居ないだけだから・・・」
「あ、はい・・・これで宜しいでしょうか。」
「・・・・・もっと何かあるでしょう!ほら、何時、何処で、どうやってとか色々あるでしょ!」
「いや、別に良いです・・・・」 真顔で答えるシフォン。
「そっかぁ・・・別にいいか・・・哀しいね・・・・・」
「あなたの与太話はいいですから、わたしは、昨日の事を聞きたいんです!!」
「そっかぁ・・・昨日の事か・・・もう忘れたな・・・・」
「何なんですかあなたは!!」
見るに見かねた執事は二人の間に割って入り。
「お嬢様。お嬢様も自己紹介さられてはいかかがでしょうか。」
「そうね。そう言えば、名乗っていませんでしたね。わたしは・・・」 シフォンが名乗ろうとした時、ジェイドがそれを制止した。
「ちょと待った!!今、思い出すから・・・・君は確か・・・・そう、スフレちゃんだ!!!」
「・・・・・わたしの名前は、シフォン=クレアと申します。・・・・スフレはわたしの姉です・・・」
「おぉ!なんてことだ・・・女性の名前を間違えるなんて。私としたことがが・・」
シフォンは、ウンザリとした表情を浮かべると。
「はあ・・・気分が優れませんので、先に馬車で休んでますので、手続きを済ましてきて下さい。」
シフォンはその場を離れた。
「少しおふざけが過ぎませんかオージェン卿。お嬢様が呆れて帰られてしまいました。」
「至って真面目なんだけど私的に。」
「・・・しかし、あの娘・・・母親に似てきたね・・・・・」
「やはり、気づかれたので、昨日お嬢様を助けられたのですね。お嬢様から容姿を聞いてオージェン卿、貴殿ではと思っておりましたので。」
「助けた?・・・私は、助言をしただけだよ。助かったのは彼女の実力。たまたまあの場に居合わせただけで私は何もしてませんよ。」
「たまたまね・・・・そう言う事にしておきましょう。では、お嬢様がお待ちです行きましょうか、オージェン卿。」
「ところで、オージェン卿って呼ぶの辞めない。ジェイちゃんって呼んでいいよ。」
「お断りします。」
執事の後を付いてその場を去ろうとするジェイドだったが、一人の兵士が声を挙げる。
「おい!あんた!!あんたはそっちじゃない。ちゃんと回廊を通ってくれないと困るんだよね!」
「やっぱ、ダメ。こっちの方が近いのに・・・あっ!そうそう、私の剣、返してくれませんかね~大事な物なんです。」
「向こうで渡してやるから、はよ行け!」
ジェイドは仕方なく回廊へと向かい。その奥へと歩みを進めた時であった。突然の怒号が鳴り響く。龍の鉄槌がくだったのだ。回廊内は騒然となった。
「回廊内が騒がしいですね。何かあったのですかね。」 執事は近くにいた兵士に聞いた。
「あぁ、龍の鉄槌が発動したんだろう。今日は、特別に多いな・・・」
「龍の鉄槌・・・そんな頻繁に発動するモノでは無かったはずですが・・・・」
「今日3回目だぜ、片付けるこっちの身にもなってくれよ。」
暫くすると回廊から人々がゾロゾロと出てくる。
「いやー凄いの見ちゃったよ。目の前で雷が落ちるんだもん、ビビったわ~」
「チッ!てっきり貴殿に落ちたと思いましたよ。」
「今、舌打ちしてませんでした?」
「いえ、していませんよ。聞き間違いではございませんでしょうか。」
「おっと、こうしちゃぁいられない。私の剣を返してもらわねば!おーいそこの兵隊さーん・・・」
「はぁ、忙しい人ですね。あの方は・・・」
「いやいや、お待たせしました。無事に戻って来ました私の剣。」
「・・・・まだ、ファッション剣士をなされているのですね。」
「ファッション剣士とは失礼な!せめてインチキ剣士にしてくれませんかね~」
「インチキ剣士の方が失礼かと思うのですが。そんなことよりお嬢様が待ちくたびれてしまいます。急ぎましょう。」
二人は審判の門を後にして馬車へと向かうのだった。