兆し
「北サバックと西サバックの国境はあってない様なものだ。ただ、俺たちの様に盗賊に成り下がった連中が多くたむろしている。気をつけるんだな。」
町の住人が教えてくれる。
「港町ベレーニまでは、順調に行けば1週間位で着くはずだ。」
「ありがとうございます。」
「こっちこそ、ありがとう。助けてくれて・・・」
シフォンたちは、ドラールスミスを出発した。
道中、何度も盗賊に襲われた。その度、撃退した。
盗賊たちは、さほど強くない。魔法で威嚇するだけで雲の子を散らす様に逃げて行く者たちばかり、ごく稀にガチな盗賊が紛れているが、それも難なく退けた。
今日も今日とて盗賊の襲撃を受けていた。
「今のは、ちょっとだけ骨がありましたわね。」
コリーダは、少しだけ自慢げに言う。
「コリーダくんは、調子がいいみたいだね~。」
「最近、すこぶる調子が良いのよね。」
◇◇◇
コリーダは、修練の効果を実感していた。
ジェイドに教えられた訓練に、はじめは、半信半疑で始めたコリーダだった。
彼女は、ダメ元でジェイド=オージェンと言う怪しい男を訪ねてみた。
そこにリチャードもやって来て彼に助力を求めていた。
彼の話しだけ聞いて実際にするかどうかは、悩みどころであったコリーダだったが、リチャードも彼の支持通りすると言う。そこで、妙な対抗心が芽生える。
こいつには、負けられないと。
どんな効果があるかもわからない訓練に没頭する様になった。
最初は、その訓練を言われた通りに出来なかった。仕方なく、回数、時間を減らしこなした。
それを、徐々に伸ばしていき。今では、最初に設定された回数を増やすまでになっていた。
それとともにコリーダは、この訓練の意味の様なものを理解しはじめていた。
これは、魔法の威力や効果を高める訓練ではない。
魔力のコントロール・・・それに尽きる。
今までは、火の魔法を10の魔力で使っていたとする。今は、8の魔力で使うことができる様になった。
魔力を効率良く使える様になってきた。
だが、まだまだ、効率化できる。
それが、手に取る様にわかってきたコリーダ。
それと同時に、シフォンやシルクが自分より魔力制御に長けている事を理解する事ができた。
今までコリーダは、2人より魔力量が少ないと思い込んでいた。
実際にそうなのだが、それでも、そこまで大きな差ではないと思っていた。
だが、この旅で同じ様に魔法を使っていても、一番最初に魔力が枯渇するのはコリーダだった。
2人は、まだまだ、余裕がある。それに比べて私は・・・
コリーダは、自信を失い欠けていた。
シフォンはともかく、シルクにまで劣っている事に焦りを感じた。
コリーダは、不意に思い出した。死にかけた時の事を・・・
あの時・・・誰かに助けられた・・・顔は覚えていない・・・朧気ながら覚えているのは、その時、聞いた・・・
『死ねば助かる』
の声・・・・・・今、私はその声の主に心当たりがある・・・
藁を掴む様な気持ちで彼の元を訪ねたのだった。
「ハーイ。マタ、ワタシノ、カチデース。」
「シルク・・・」
「マダマダ、デスネ。コリーダサン。」
「所詮、訓練だし・・・早く終わったて意味無いわよ。」
「マケオシミ、ヨクナイデース。」
「ま、負け惜しみじゃないし・・・」
コリーダとシルクは、毎朝、毎晩、競うように訓練していた。
それもまた、コリーダにとってプラスとなった。
元々、負けず嫌いだったこともあり、成長に滑車をかけたのは言うまでもない。
◇◇◇
「リチャード、あんたは、どうなのよ?」
「僕だって・・・」
リチャードは、言葉に詰まる。
正直、リチャードは、不安に感じていた。
ただ、素振りだけする毎日。1日1万回と言う法外な回数。
未だに半分の5千もこなしきれていない現状。
こんな鍛錬に意味があるのかと自問自答しながら素振りをしていた。
それでも、リチャードは続けた。
続けているうちに、素振りのコツの様なものは掴んでいた。
回数をこなすうちに、疲労を最小限にするために無駄な力を抜くことを覚えた・・・と言うよりも、体が勝手に身に着けた。
それと同時に無心になることもしばしば・・・そして、素振りの回数を忘れ落胆する。
リチャードは、筋力と体力がついただけじゃないかと思うだけであった。
「そうだ、今度、盗賊が現れたら・・・リチャード、あんたが相手をしなさいな。」
「一人じゃ無理だって・・・」
「大丈夫、大丈夫。雑魚は、みんなで片付けるから、あんたは、ボスと1対1よ。」
「ええ・・・」
「リチャード様のいいところ見て見たいですわ。」
「ほら、彼女も言ってるじゃない。」
「彼女じゃないよ~~~。」
「あんたも、武術科を卒業したんでしょ。自信を持ちなさいよ。」
「しかしだね・・・」
「その方に戦えと言っても無駄ですよ・・・逃げるだけですから。」
シフォンは、棘のある言い方をした。
「どうすんのよ、リチャード。」
「・・・やるよ。」
我ながら安い挑発に乗ったものだなとリチャードは思った。
その機会はすぐに訪れた。
シフォンたちが道を進んでいると、物陰に隠れながら、追跡している者がいた。
尾行にはすぐに気が付いた。敢えてそれを放置して出方を待った。
「囲まれましたわね。」
「みたいだね~。」
「今回は、リチャードさんが、盗賊の首領とサシの勝負をするそうなので、わたしたちは、それを邪魔しない様に援護しましょう。」
「いいとこ、見せなさいよリチャード。」
「リチャード様が華麗に決めてくださいますわ。」
「キタイシテマース。」
「貴様、しっかりやれよ。」
「あまり、プレッシャーをかけないでくれるかな~。」
シフォンたちは、一旦、その場に止まり、身構える。
すると、周囲からゾロゾロと盗賊どもが姿を現した。
「奥のハゲの大男が首領っぽいわね。」
「じゃあ、あいつは、任したわよリチャード。」
「お、おう。」
ハゲの大男が言う。
「荷物をすべて置いてけ!そうすれば、見逃してやるよ。」
「残念ながら、あなたたちの要望には応えられません。」
「痛いめに合いたいようだな・・・野郎ども!構わねえやっちまえ!」
盗賊どもが一斉に襲いかかってきた。
シフォンたちは、魔法で応戦。周りの雑魚を一掃していく。
デービットが首領の取り巻きを引きつけ、リチャードとハゲの大男がタイマンの形になった。