グングニル
シルクが戻ると、シフォンたちが集まり、何やら話し合っていた。
「ハーイ。ミナサン、ドーシタノデスカ?」
「あ、シルク。あんたどこに言ってたのよ?」
「サンポシテタダケデース。ソレヨリ、ナニカアッタノデスカ?」
「シルクさんもこれを見て下さい。」
デービットが拾った槍がそこにあった。
「ヤリ、デスネ。」
「でも、ただの槍じゃないみたいなの。」
「私が拾った時は、剣だったんだ。」
「剣が槍に変わったねぇ・・・嘘なんじゃないの?」
「本当だ、本当に変わったんだ。」
「確かに、魔力を帯びた槍ではありますね・・・シルクさん、何か知りませんか?」
シルクは考えるとその可能性を話した。
「モシカシタラ、マケン、カモシレマセーン。」
「魔剣?そんな希少なモノが落ちているものかしら?」
「魔剣ねぇ・・・どう見ても槍なんですけども?」
「だから、剣が槍に変わったんだ。」
「仕方ありません。私が鑑定して差し上げましょう。」
「サリエス。君、鑑定も出来るのかい?」
「勿論・・・サンカルロが。」
サリエスは、魔法陣を描き、懐から古びた布切れを取り出し中心に置いた。
「悠久の時を越え、顕現せよ。彼の英雄。サンカルロ。」
魔法陣に置かれた布がヒラヒラと舞い上がり、布が歪み、グチャグチャに変形しだんだんと人型に変わっていった。
「なんのようだ、サリエス。」
召喚されたサンカルロは、自分の眼を疑った。
あのサリエスが、先日の異教徒と一緒にいるのだから。そらは、サリエスと一緒にいるのは教団関係者か、従えた十字教信者しか見たことがなかったからだ。
「どうなってるんだサリエス。」
「この方々とご一緒に旅をすることになりました。」
「・・・マジか?」
「本当ですよ。そんなことより、この槍を見て下さいな。」
サリエスは槍を差し出した。
「これはまた、珍しいものを・・・」
サンカルロは、まじまじとその槍を見ている。
「わかりますか?」
「ああ、これは、魔力で鍛え上げられた特殊剣だな・・・この時代で言う魔剣だな。」
「魔剣なのは、わかってます。これがどの様な物か聞いているのです。」
「遷移剣・・・持ち主によって姿形を変える剣だ。昔はそれなりに出回っていた代物だ。」
「それでは、そこまで貴重な物ではないのですね。」
「昔はな。この時代には、その技術も実物もほとんど残ってないのだ、その価値は全然違うぞ。」
「へ~・・・そうなんですか。それでは、リチャード様。これをどうぞ。」
サリエスは、さりげなくリチャードに槍を渡す。
「何故、僕に渡すんだい・・・」
「リチャード様がお使いになるのが良いかと。」
「おい、ちょっと待て!それを拾ったのは私だ。」
「あなたが拾っただけで、別にあなたのものではないでしょ。」
「それはそうだが・・・」
リチャードの手に渡った槍は、なにも変化しなかった。
「あれ~・・・なにも変わらないね~。」
「それは、持ち主が確定してしまったからだろう。」
「どう言うことだい?」
「まあ、こう言った魔剣は、自ら主を決めることもある。持ち主が決まれば、もう、変化はしない。主が死ぬか、所有権を放棄しない限りな。」
「って事は・・・この魔剣の持ち主は・・・」
「私か!」
デービットは、ちょっと嬉しそうだった。
「あら、そうなの・・・」
サリエスは、残念そうに見ていた。
「ソノ、マケンニ、デメリットトカ、ナイノデスカ?」
シルクが疑問を口にする。
「う~む・・・使ってみない事にはわからんな。」
「ジャア、デービットサン、ツカッテミテクダサーイ。」
「お、おう。」問題ないよなぁ・・・
デビットは、1本の木の前に立ち、槍に変わった魔剣を構える。
皆が、注目するなか、木に向かって槍の連撃を繰り出した。
木は槍に貫かれ、その刃の形に幹に穴が空いていく。幾つもの穴が空いたため、木は、ギシギシと音をたて崩れ落ちた。
「凄い威力だね~。」
「デ、ドーデスカ?」
デービットは、息が荒く、疲れた表情を浮かべていた。
「ごっそり魔力を持ってかれてますね。」
「私には魔力がなかったはずなのですが・・・」
「魔力自体は、誰しもが持っているものですよ。ただ、魔力を魔法として扱えるかどうかで・・・」
「魔法が使えないから魔力が無いと勘違いする人が多いのよね。」
「そ、そうだったのか・・・」
「魔力を威力に変換するタイプか・・・普通の魔剣だな。みたところ、魔力消費だけで、他のデメリットは、なさそうだな。」
「それは、いいのだが・・・1回使うだけで、こんなに疲労すると使い物にならないな・・・」
「それは、お前がその魔剣を使いこなせてないだけだぞ。」
「そんなことはない。使いこなしただろ。」
「これだから、若造は・・・魔力を持っていかれたのは、魔剣の制御が出来ていないからだ。要するにお前は、その魔剣に振り回されているだけだ。」
「・・・・・・」
「な~に、訓練すれば、ある程度は使いこなせる様になるさ。」
デービットは、考え込んだ。
「しかし、私には・・・私の槍がある・・・」
「それなら、所有権を放棄して、リチャード様が使えば解決ね。」
「ハハハ・・・僕には必要ないよ~~。」
「そうか、リチャード様は、魔剣などに頼らなくてもお強いのですね。」
リチャードは、苦笑いをした。
「おめでたい子・・・」
「槍は2本もいらない・・・やはりここは・・・」
「別に持ってても良かろう。それは、遷移剣と言ったろ・・・普段はナイフとか短剣にして持ちやすい形に変えとけばいいのだ。」
「そんな事も可能なのか・・・」
「遷移剣とは、そう言う使い方をするものだからな。」
「ナラ、チョット、ヤッテミルノデース。」
「そうだな。」
デービットは、槍を別の形にしようと試みた。
だが、なかなか上手くいかず、悪戦苦闘したすえ何も変化は起きなかった。
「やはり、まだまだ、だのう・・・まあ、手に入れたばかりなんだろ?悲観することもない。慣れも必要だからな。貰っておいても差し支えないはず・・・」
「・・・そう言う事なら、私がこの魔剣を貰ってしまっても・・・」
「いいんじゃないの。」
「よ~し、今日からお前は、グングニルだ。」
えええ・・・名前付けちゃうの。と、その場にいた全員が思った。