次の主
ルースダムにて戦力を削がれたウリエルの元に5人の天使が・・・
「おお!お前たち無事だったか!!」
「当然です。我らはウリエル様の精鋭部隊。あの程度の爆発なんてことありません。」
レッドが胸を張る。
「正直、死ぬかと思った。」
ブルーが本音を吐露する。
「お腹すいたんだな・・・。」
腹の虫を鳴らしているイエロー。
「俺がレッドやりたかった・・・。」
未だに赤い戦士こだわっているグリーン。
「私の美貌は今日も変わりませんわ。」
化粧を入念にするピンク。
「ワハハハ。相変わらず協調性がないのうお前たち。」
「ウリエル様。ご壮健で何よりで御座います。」
「ウリエル様。次の任務を何卒。」
「うむ。早速だが・・・と言いたいところだが、吾輩の天使装備がボロボロだ。お前たちのも、そうであろう。今は、ゆっくり休め。修繕がすみしだい働いてもらうぞ。」
「ははあ!」
5人はウリエルの執務室を後にするのだが、この中に1人・・・邪悪な笑みを浮かべる者がいた事を誰も気づかなかった。
ガブリエルの勢力も先の爆発の被害を多大に受けていた。
「リュウモン隊長は帰って来ませんでしたか・・・」
「あの野郎・・・殺しても死にそうにない奴だったのに・・・」
ステイジーは悔しさを滲ませていた。
「隊長たちは同期だったんですよね・・・その・・・なんて言ったらいいのか・・・」
プライムは複雑な表情を浮かべていた。
「奴に運がなかった・・・そう言うことだ・・・」
「感傷に浸っているところ申し訳ないのですが、次の指令があるみたいですよ。」
「トレアン。空気読んで。」
「どうしてですか?戻られなかったのは、何もリュウモン隊長だけではないのですよ。」
「そーだけど・・・」
「プライム、もう、いい。トレアンの言う通りだ。」
「ガブリエル様が執務室でお待ちです。お急ぎを・・・」
ステイジーは、感情を押し殺して執務室へと向かった。
執務室に入ると、既に部隊長たちが並んでいた。急ぎ、その隊列にステイジーもついた。
全員が揃ったところで1人の神族がガブリエルを呼んだ。
ガブリエルが姿を見せると、最初に謝罪を口にした。
「みんな、すまなかった。今回の件は全て僕の責任だ。魔族の動きを軽く見積もっていた。」
「いえ、ガブリエル様の責任ではありません。」
「ありがとう・・・」
「僕とウリエルの戦力が失われた訳だが・・・ミカエルは笑いが止まらないだろうね。」
「ウリエル様は、何者かに騙されルースダムに行かれた様です。」
「みたいだね。ウリエルに手紙を渡した者を探さないとならないね。」
「そんなのミカエルの手の者に決まっている!」
「決めつけはいけませんよ。まだ、ラファエルの可能性も残っているのですから。」
「内偵を進めます。」
「では、今日の本題に入りましょうか・・・神殺しについて。」
「トレアン。入れ!」
トレアンが執務室に入るとまずは、一礼した。そして、直ぐに報告を始めた。
「ルースダムにて、ミカエル様方の密偵と接触。情報を得ることに成功しました。ミカエル様は、神殺しと何らかの取引を画策しています。」
執務室はざわめき立つ。
「その取引とは?」
「主の暗殺です。」
騒然とする執務室。
「ミカエル様は、主を亡き者にしようとしているのか!」
「なんて不埒な事を・・・」
「神殺しに主を殺させる・・・考えましたねミカエル。」
「これは、列記とした反逆行為。直ちにミカエル様を拘束しましょう。」
「そうだ!そうだ!」
「ガブリエル様、御命令を!!」
だが、ガブリエルは首を横に振った。
「主は死を望んでいます。これは、今まで伏せていましたが・・・主を殺した者こそが、次の主になることが取り決められています・・・」
「なんだってぇ。」
神族たちは信じられないと言う顔を誰しもがした。
「ミカエルが具体的な行動に移っているとなると、もう、隠しておく必要はありませんね。」
「しかし、主を殺すなんて・・・」
「ガ、ガブリエル様も、主を殺そうとなされているのですか?」
「僕は・・・ただ、見守るだけだよ。主を殺そうとしているのは、ミカエルとウリエル。ラファエルは何を考えているかわからない。」
「・・・他の天使長が次の主になるくらいなら・・・私はガブリエル様になってもらいたいです。」
「それは・・・できません。」
「何故ですか?」
「僕には僕の役割がある。主になることは、僕の役割ではない。」
「役割?それは、主になることより重要なのですか!」
「その通りです。」
ガブリエルは、投げかけられた言葉にはっきりと堂々と答えた。
それに納得のいかない神族は、続けて言う。
「主より重要な役割はありません!」
ガブリエルは、その神族を諭す様に言う。
「主の役割は、重要です・・・ですが、僕である必要がないのです。極端な事を言えば、主として務めることができる者ならば、誰でもいいのです。」
「いえ、主は、相応しい者がなるべきです。それは、ガブリエル様です。」
「僕を慕ってくれるのはありがたいです。僕は、主であることよりも、それを支える者になりたいのです・・・わかって下さい。
ガブリエルの配下の神族たちは、皆、悔しそうな表情を浮かべていた。
「では、お聞きします。ガブリエル様は、次の主は誰になるのが良いと思われていますか?」
「そうですね・・・何を考えているかわからないところもありますが・・・僕は・・・ラファエルかな・・・あれは、まごうことなき天才ですから・・・」
「では、我々は、ラファエル様の支援に回ると言うことですか?」
「いいえ、ラファエルも僕と同じで主になりたがらないでしょう。」
「では、ミカエル様かウリエル様が次の主に・・・」
「その可能性もありますが、何も天使長が次の主になるとは決まってませんよ。もしかしたら、あなたたちの中から次の主が生まれるかもね。」
「御冗談を・・・」
「冗談じゃありません。可能性は、皆に平等にあるのですから。」
ガブリエルは、主にならない事を宣言した形になったのだった。
◇◇◇
「本当に良かったのですか?キヌに何の処置をなされなくてミカエル様。」
「構いません。それにキヌは、アレと良好な関係を築いている様ですし・・・今、キヌに手を加える事は得策ではありません。」
「わかりました。では、任務は続行と言うことで・・・」
「キヌには、まだまだ、利用価値があります。その命尽きるまで働いてもらいますよ。」
ミカエルは、不遜な笑みを浮かべるのであった。