今日の出来事
シフォンは、クレア家邸宅に戻っていた。そして今日の出来事を思い出す。
結局、天使の襲来で試験は、有耶無耶の内に終わってしまった。再試験は、あるのだろうか。そんなことよりあの天使の攻撃で先生達3名。武術科の生徒4名が回復魔法でも完治できず、そのまま入院の運びとなった。商人達もかなりの被害が出てたはずだが、そちらは情報が入ってこない。無事なら良いのだが・・・・人死にが出なかっただけでも良かったんだろうと思うしかない。
あの天使の目的は一体何だったんだろうか?わたし達の殺傷が目的?そう言えば、出発前、魔族が出没している噂話しがあった・・・天使は魔族を捜していたって事なのだろうか。この推察が妥当なのだろう。
でも、一番気になるのは、あのしょっぼい剣士の事だ。物腰の低い喋り方でも言ってる事は、ふざけてるとしか思えない発言ばかり・・・・何なのあの男は! でもあいつのお陰で助かったのは事実。わたしの知らない何かを知っている・・・もう一度、会って確かめなければ。
シフォンは、自室にて今日の事を振り返っていると、そこへ姉がやってきた。
「シフォンちゃん、今日は、大変だったみたいね。怪我してない?」
「わたしや班のみんなは、無事でした。でも他の方々が・・・・」 少し思いつめた表情を浮かべる。
「・・・怪我をされた方々は心配ですね。」
「・・・・姉さま、わたし、初めて天使と言う者を見ました・・・・・みんな必死に戦ったんです。でも全然、歯が立たなくて・・・もうダメだと・・・・・」
「そう・・・・・でも聞いたわよ。シフォンちゃんが天使を倒したって。」
シフォンは姉の姿を見て安堵した事も有り、今まで気を張って耐えていた感情が一気に溢れ出す。
「わたしだけど、わたしじゃないんです!!わたしはわたしは、あの時、諦めてしまっていたんです!」 止めどなく涙がこぼれ落ちる。
姉はシフォンの肩をそっと抱き寄せると、優しく頭を撫でた。
「でも、頑張ったんでしょ。」
「うん、頑張ったよ、頑張ったんだよ!お姉ちゃん!」
「久しぶりに″お姉ちゃん″って呼んでくれたね。普段からお姉ちゃん呼びで良いのに・・・」
「だってだって、クレア家の娘としてしっかりしなきゃって・・・・」
「そんな事、気にしなくて良いだよ。」
シフォンは暫く姉の胸の中で泣きじゃくった。
落ち着きを取り戻したシフォンは、先程の話の続きを話し出す。
「あの時、あの剣士が現れなかったら・・・・わたし達は、死んでいたかもしれない。」
「剣士?」
「商人達の中に妙な剣士が居たの・・・・」
「妙な剣士さん・・・・その人はどの様な方だったのですか?」
「わたしと同じ、黒髪黒眼でした。死んだ目をしてましたけど・・・後は、みすぼらしい恰好をしていて、鞘の無い剣を一本だけ持っていました。」
「死んだ目をしていて、みすぼらしい恰好で剣を一本・・・・」 姉は考え込む仕草をした。
「姉さま、どうかなされたのですか?」
「ううん、何でもない気のせい・・・・って又、姉さまって呼んだ!お姉ちゃんで良いって言ってるでしょ!」
「そんな急には、戻せません。」
「ふん!まぁ、良いわ。それでその剣士さんは、何を成されたのですか?」
「・・・魔力弾をわたしが打てと・・・・」
「あの初歩中の初歩の魔力弾で何とかなったのですか?」
「えぇ、でも普段使いの魔力弾とは、別物でした・・・質が違うと言うか・・・魔力を凝縮する事によって、速射性は失うのですが、威力は跳ね上がっていました。」
「へ~魔力弾にそんな使い方があったんだ。」
「最強の魔法とか言ってましたけど・・・確かに威力は上がっていましたけど、流石に最強とは言いすぎです。」
「でもそれで、天使を倒したんでしょ。」
「うん・・・倒したと言うよりも、動かなくなったって言うのが本当。でも良く分からないの・・・魔力弾なんかより強力な協調魔法が効かなかったのに・・・何故、魔力弾が効いたのか。」
「確かに不思議ね・・・・」
「あの剣士が中身がどうのこうの言ってたけど、訳が分からないよ。」
「うーん、分からない事ばかりだけど・・・助かって良かったって事は分かってるわ。」
「姉さま。」
「そう言えばシフォンちゃん。試験が終わったら話しがあるって言ってたわよね。こんな事があったばかりだし別の日にする?」
「いいえ姉さま、聞いて下さい。」
シフォンは、神妙な面持ちで、重い口を開いた。
「お父さま、お兄さまには悪いのですが・・・・わたしは、宮廷魔導士には成りません。旅に出ようと思ってます・・・・反対されたらクレアの家を出てでも行こうと思ってます。出来れば認めて貰いたいです・・・・」
姉も神妙な面持ちで聞き返す。
「・・・・シフォンちゃんが旅に出たいのは分かりましたが、ちゃんと旅に出たい理由を話さないとお姉ちゃんも賛成できない。」
「うん、だから聞いて姉さま、ううんお姉ちゃん!」
シフォンは、旅に出たい理由を語り始めるのだった。