邪教
サリエスが説法を説くのを尻目にサンカルロは動き出す。
ああなるとサリエスのヤツの説法は、5時間は続くからな。
さてと、わしは、気になることがある。行ってみるとするかな。
もしかしたら、知っている者かもしれん。
「あーサリエス。わしは、少しばかり出かけてくる。」
「あ!こら、サンカルロ。あなたも私の説法をお聞きなさい!」
「断る!」
サンカルロの姿は消え、何処にも見当たらなくなっていた。
「もう!私のありがたいお話しを聞かずに何処かに行くなんて・・・後でお説教ね。」
◇◇◇
リチャードとデービットは、剣と槍を振っている。
その様子をジェイドは、訝しげ見ていた。何かを警戒するかのように。
そいつは、唐突に現れた。
緊張が走った。ただならぬ気配にリチャードとデービットは、臨戦態勢をとった。
前には、紅眼の男が立っていた。
「坊主ども、そんなに警戒せんでもいい。おぬしたちに興味はない。」
「なんだ、あんたは?」
「そうだよ~・・・そんな殺気を放っていたら警戒するさ~」
「殺気?おお、すまんのう。つい癖で・・・
わしは、カルロ=サンヴァレンティン。
ん~ん・・・なんて言うか・・・幽霊ってやつだ。」
「・・・誰かさんと同じことを言うな~。」
「そうか・・・やはり、後ろにいるヤツも・・・」
「後ろ・・・」
後ろには、ジェイド=オージェンがいた。
「おっさん、このオヤジと知り合いなのか?」
ジェイドは考え込んでいた。
「ん~・・・知らんな・・・」
「おぬし・・・何者だ?」
「ん!?今、何者って言ったよね?」
「お~っといけない。この人は、ジェイド=オージェン。自称剣士で幽霊だそうです。」
「ジェイド=オージェン・・・知らんな・・・」
「少年・・・また、私の自己紹介の邪魔をして・・・ぷんすかですよ。」
「しかし・・・おぬし・・・何処かであったことないか?」
「それは、こっちが聞きたい。」
この対峙した感覚・・・確か何処かで感じたことがあるのだがのう・・・。
このごっついおっさん・・・カルロって・・・何処かで聞いたような・・・。
睨み合う2人。一瞬即発の雰囲気が漂っていた。
「なんか、ヤバくないかい?」
「おっさん2人が見つめ合って・・・ラヴなのか・・・」
「ガハハハ・・・面白いことを言うな坊主。」
「確かに面白い。」
「さて、言葉では、どうにも・・・わかり合うには、手っ取り早い方法は・・・剣で語り合おうではないか。」
「面倒くさっ!」
サンカルロは、剣を抜きジェイドに迫った。
「剣で語るなんてねぇ・・・そんな事でわかり合えないよ。脳筋じゃないからね。」
「やり合えばわかるだろうて・・・。」
「・・・・・・こりゃ、逃げるが勝ちってね。」
ジェイドは、姿を消した。
「こりゃ、待たんか!」
サンカルロも後を追う様に消えた。
「何だったんだい今のは?」
「私に聞くな・・・」
「でもこれで、やっと、休めるよ~。」
「そんな事より、今後の話しが有耶無耶になってしまったではないか。どうするんだ?」
「う~ん。シフォンくんたちの出方を待つしかないかな・・・」
◇◇◇
サリエスのありがたーい話しが続いていた。
周囲は異様な雰囲気になっていた。
サリエスの話しを聞いていた聖十字教の信者と思しき人々が狂信的になりつつあった。
「さあ、皆さん。愛を、愛を信じましょう。」
「愛を信じます。」「愛を信じます。」・・・
何かに獲り憑かれたかのように繰り返していた。
「頭が痛くなってきましたわ私・・・」
「ワタシモ、キブンガ、ワルクナリマシタ・・・」
「何でしょうか・・・彼女の言葉にはある種の催眠効果でもあるのでしょうか?」
「キイタコトアリマース。ジュゴントカ、ユーヤツデスネ。」
「呪言ではなく、祝詞でしょうか・・・」
「伝道師って訳ね。」
「伝道師と言うよりも先導者と言った方がいいのかも・・・」
「なんか、ゴタゴタしているけれど、これから、どうするのよ。」
「イマナラ、ニゲダセルノデハ?」
「ここからは、逃げ出せるでしょうが、他の場所にも兵はいるでしょうから、得策ではないですね。」
「でしょうね。」
「ところで、これから本当にどうするつもり?私の言わせてもらうけど、シフォンさん、やっぱり、家に連絡しなさいな。」
「そ、そうですね・・・」
「別に家の権力を使うことが悪いことではないでしょう。むしろ、今、使うべきだと思いますわ。」
「・・・・・・」
「ワタシモ、コリーダサンノユートーリダト、オモイマース。」
「他に考えも思い浮かばないですし、仕方ありません。家に連絡します・・・」
シフォンが姉との連絡を試みようとした時、サリエスが説法を中断して彼女たちの前にやって来た。
「あなたたち・・・この国の人では無いのですね。」
「はあ。そうですが何か?」
「私の有難いお話しを聞かずに雑談とは・・・なんと嘆かわしい。」
「別に十字教じゃないし構わないでしょ。」
「あなたたちは、何処の国から来たのですか?」
「アリスティディスからです。」
サリエスは、少し考えると、何かを思い出した。
「ドラゴニア・・・あ~~~なんて恐ろしい国から来たのでしょうか。」
「恐ろしい国って・・・」
「だって、そうでしょ。龍を崇める国なんて恐ろしい・・・邪教の国ではありませんか!」
「邪教・・・なんて失礼な。」
「だってそうでしょ。龍なんて怪物を崇めるなんて・・・」
「崇めている訳ではありません。盟約を交わしただけです!」
「ああ、なんて恐ろしい・・・でも、安心して下さい。
聖十字教は寛容ですから・・・
今から私が経典を暗唱しますから、それを聞いて、改宗しましょう!」
「改宗?宗教ではありませんから。」
「なんと・・・洗脳されてしまっているのですね・・・わかりました。
私がその洗脳を解いて差し上げましょう。」
「洗脳なんかされてませんから。」
「可哀想に・・・洗脳されている事も気づかないのですね。」
「だから、その様なことは・・・」
「シフォンさん。そいつに何を言っても無駄よ。」
「キケンデース。ニゲマショー。」
「信者の皆さん。彼女たちを救済しますので、取り押さえて下さい。」
その言葉で、狂信状態の人々がシフォンたちを取り囲む。
その中には、ここに一緒に来た親子も居た。
「不味いわよ。一般の人たちを傷つける訳にはいかないからね。」
「コユートキハ、アノ、マホーデース。」
「あの魔法・・・そうか!」
覆い隠す霧。
シフォンたちは、霧に紛れその場を脱出した。