ある母親の決断
シフォンたち女性も、街の外れに集められていた。
男たち同様、ヴァリアシオンの兵に取り囲まれていた。
指揮官が言う。
「皆さん、ここバンフォーレストは、ヴァリアシオン侯爵領となりました。これは、住民の皆様には、決して悪い話しではありません。この地は、ヴァリアシオン侯爵様によって守られることを約束しましょう。」
女性たちが疑問の声をあげる。
「あの、領主様はどうなったのでしょう?」
「ここの領主は、ルースダムで災害に巻き込まれ亡くなられた。その事を知った侯爵様がバンフォーレストの住民の窮状を救うべく我々がやって来た。」
その話しを不審に思う者もいたが、大概の人が、話しを信じ安堵していた。
「ここで、皆さんにお話しがあります。ヴァリアシオン侯爵様は、人材を欲しています。破格の条件で皆さまを向かい入れる用意があります。何も兵隊になって前線で戦えと言う訳ではありません。後方支援も立派な役割です。女性の皆様には安心して公爵様にお仕えして貰えると思います。どうかご一考を・・・」
「破格の条件って何なのかしら?」
「一般市民の方は、報酬と上級市民にする事を確約しましょう。貴族の皆様には、爵位相応の報酬と待遇を約束いたします。」
「あの・・・それを断ったらどうなるのかしら?」
「勿論、断って頂いても何も致しません。ただ・・・暫くの間、留まって貰いますが・・・」
「暫くの間って?」
「この街の安全が確保されるまでですよ。」
シフォンは、黙ってそのやり取りを聞いていた。
「コレッテ、チョーヘーデスヨネ・・・。」
「う~ん・・・人材登用かしらね。」
シルクとコリーダが話す。
「ただの人材登用なら、男女を分ける必要はないと思います・・・」
「どう言うこと?」
「いえ、考えすぎでしょうか・・・なんかしろの意図があるかと・・・」
シルクは、何かに気づいた。
「オー。ソーイウコトデスカ・・・ワタシタチ、ヒトジチデース。」
「人質・・・。」
「オトコノヒトタチハ、チョーヘーヲ、キョーセイ、サレテルカト・・・。」
「そうですね。そう考えるのが自然でしょうね・・・」
「それで、私たちはどうするか・・・。」
コリーダは、シフォンの方を見て何か言いたそうだった。
「コリーダさん、何か良い意見があるのですか?」
「・・・却下されるだろうからいいわ。」
「ア!ワカチャイマシタ、コリーダサンノイイタイコト。」
「それはなんですか?」
「ケンリョク、ツカッチャオーッテコトデース。」
「権力?」
コリーダが補足を入れる。
「あなた、隣国とは言え、公爵家よね。今のこの国の状況を考えれば、隣国と事は構えたくない。そこでシフォンさんの家の力を使って交渉をする・・・」
「家の権力を使うのはちょっと・・・」
「だと思った。」
「デモ、ホカニ、イイアンアリマセーン。」
シフォンたちが考え込んでしまう。
そんななか、一緒に居た母親は、思いつめた表情をしていた。
母親は、意を決したのか娘をシフォンに託すと指揮官の元へ歩み寄った。
「隊長様、質問良いでしょうか?」
「御婦人。構いませんよ。」
「・・・報酬って具体的に幾ら頂けるのでしょうか?」
「御婦人は、一般市民でしょうか?」
「はい。」
「でしたら、月、金貨2枚は保証します。後、功績に応じて恩賞があります。」
金貨2枚、母子3人が暮らしていくには十分な金額だった。
「私、侯爵様のお世話になります。」
母親は即答だった。戻るかどうかわからない父親を待ってはいられないと判断したのだろう。子供2人を抱えて生活して行くには、必要な決断だった。
「おお!仕官なされますか。我々は、大歓迎です。」
すると、指揮官が喧伝する。
「たった今、この御婦人が仕官されました。勇気ある決断です。それは正しい選択でもあります。迷いのある方も多いでしょう。でも、決して後悔はさせません。これを機に仕官される事をお勧めします。」
ちらほらと仕官する人が出始めるが、大半が決めかねている状態だった。
母親が戻って来るとシフォンは聞く。
「どうして、軍隊なんかに・・・他にだって仕事は・・・」
「・・・子供たちを養うには十分な報酬でした。他にも仕事はあったでしょう。でも、2人を養う程の報酬は得られなかったと思います。間違った選択なのかもしれません。それよりも、子供たちを育てるには必要な選択だったんです。」
シフォンに返す言葉は無かった。
この親子に自分たちが何ができる訳でもないのだから。
「私たちは、どうするか決めないと・・・」
「ですが・・・」
「私だって、同じ立場だったら家の権力を振りかざすなんてしたくありませんけど、状況が状況なんだから・・・」
シフォンを促すコリーダ。
「リチャードサンガ、イマース。」
「ああ、あいつも公爵家だったわね。でも、あいつじゃ、連絡付けられないでしょ。」
「ジェイチャンサンガ、イマース。」
「そっか、あの人も連絡するこができるのか・・・」
「そ、それはダメです。必然的に姉さまと話すことに・・・」
「別にいいじゃない。シフォンさんが頼むわけではないのですもの。」
「結果的に家の権力を使うことに・・・。」
「融通が利かないわね・・・だったらどうする?私たちも仕官する?」
シフォンは、複雑な表情を浮かべる。
「・・・・・・もう少しだけ時間を下さい・・・。」
「そう・・・でも、向こうで勝手に動いちゃうかもね。」