占拠
兄妹の家は、小さいながらも、シフォンたち5人が泊っても十分な広さがあった。当然の様にジェイドは、何処かへ消えていた。
咳き込みながら兄妹の母親が出迎えてくれた。
「すみません。この子たちが無理を言って・・・。」
「無理だなんて・・・困っている時はお互い様ですよ。」
ここに来る途中で仕入れた食料をテーブルに広げる。
以前の失敗を踏まえて、出来合いの物ばかりだ。
兄妹は、物欲しそうに並べられる食べ物を見ている。
「もう、食べてもいいですよ。」
シフォンは、優しく兄妹に言った。
余程、お腹が空いていたのだろう。もの凄い勢いでかぶりついていた。
「あなたたち、慌てないで、ゆっくり・・・」
母親は、子供たちに注意をしようとした時、咳き込みが激しくなった。
「シルクさん。」
「ハーイ。」
シルクは、母親の元に行くと、回復魔法を唱えた。
清らかな白い光りが母親を覆った。
母親の病状は回復に向かい、顔色も良くなった。
「アトハ、エイヨウノ、アルモノヲ、タベテ、タイリョクヲ、カイフクスルダケデース。」
「あ、ありがとうございます。」
「ナンテコトアリマセーン。」
「あの・・・家にはその・・・魔法治療にかかる費用を支払うお金が・・・」
「オカネ、ナンテ、イリマセーン。」
「泊めてもらう、お礼だと思って下さい。」
「お姉ちゃんたち魔導師なんだ。すごーい。」
「そんなこと、ありませんことよ。」
「コリーダサン、ナニモ、シテマセーン。」
「そんなこと言ったら、シフォンさんだって・・・」
そこに、笑いがこぼれていた。
子供たちは、お腹一杯になり、早々に眠りに落ちた。
眠ったことを確認するとシフォンたちは、母親と話しをした。
「あの・・・お父さまのことですが・・・」
「・・・わかってます。あの人は、もう・・・。」
父親は、一月前、仕事で王都に出かけた。そして、帰宅の予定日を過ぎても帰って来ない。そこにきて、王都壊滅の知らせ・・・。
元々、体の弱かった母親は、心労も重なり体調を崩したと言う。
「そう、あなたたちも王都に・・・。」
「その・・・なんか申し訳なく・・・。」
「命あっての、物種ですし、お気になさらず。」
「それに、まだ、死んだって決まった訳ではないだろ~。」
リチャードの空気を詠まない発現。
「あんたは、黙ってなさい。」
「そうですね・・・まだ、諦めるのは早いですよね・・・。」
王都の惨状を知るシフォンたちは、もし、父親があの場にいたのだったら助からないことは、容易に想像がついた。
もし、一足先に王都を出て、何処かに寄り道しているのなら、助かっている可能性はある。
でも、それは、希望的観測。現実味がない。が、そう言うことが、あったていいんじゃないかと思うシフォンもいた。
◇◇◇
闇夜を行軍する一団があった。
翌朝には、バンフォーレストに着いていた。
その一団は、休む間もなくバンフォーレストの街を制圧にかかった。
唐突な出来事に、駐屯兵は為す術なく街を明け渡した。
「ここバンフォーレストは、ヴァリアシオン侯爵の領地になった。只今より、人の出入りを一切禁止する!」
この一団を指揮する男が宣言する。
すると、その一団は、バンフォーレストにいた人々を男女に分けて集めはじめた。
「やれやれ、また、面倒なことになったね。さあ、シフォン嬢ちゃん、これからどうする・・・」
ジェイドは、達観していた。
◇◇◇
シフォンたちが目覚めると、外が騒々しいことに気づく。
「ミナサーン、タイヘンデース。ヘータイサンガ、マチノヒトタチヲ、ドコカヘ、ツレテイッテイマース。」
「ん?シルクくん。どう言うことだい。」
「ダカラ、ヘイタイサンガ・・・」
兵士数人が家に押し入ってくる。
「お前ら、一緒に来てもらおうか!」
「何ですか、あなたたちは。」
「我々は、ヴァリアシオン侯爵の兵である。悪い様にはしない。一緒に来てもらおう。」
「そんな、一方的な・・・」
「こちらとて、手荒な真似はしたくない。大人しく来てもらいたい。」
「あの・・・子供たちもですか?」
「勿論だ。素直に従ってくれれば何もしない。」
「取りあえず、従った方が良さそうですね・・・。」
シフォンたちと親子は、兵に従うことにした。
「男は、こっちだ。」
「この子もですか・・・」
母親は、男の子をかばうように言った。
「直ぐにすむ・・・」
「僕たちもついてるから大丈夫さ~。」
「貴様は、ともかく、私が一緒だ、ご安心を。」
「あんたたち、任せたからね。」
「任せたまえ~。」
「・・・心配だわ。」
シフォンたちは、男女に分けられ連れて行かれた。
◇◇◇
男たちが集められた広場にて。
広場には、続々と男たちが集まってくる。
広場を囲むように兵が配置されている。
「何か仰々しくないかい?」
「男と女をわざわざ分けたんだ。ろくでもない事が起こるのだろうな。」
「母ちゃんたち大丈夫かな・・・」不安そうな少年。
「大丈夫さ~。向こうには、腕利きの魔導師が3人もいるからね。」
人ごみをかき分けて1人の男がリチャードたちに接触した。
「・・・少年が1人増えとる・・・。」
「おっさん。やっぱりいたか。」
「誰、このおじさん・・・。」
「お!今、誰って聞いたよね・・・。」
「はい。この人は、僕らの仲間さ~。」
リチャードもジェイドの扱いを覚えた様だ。
昨日のことを端的に説明し終えると。
「おっさん、この状況どう思う?」
「・・・どう思うって、別にどうも・・・」
「真面目に答えてくれよ~。」
「まあ、直ぐにわかるでしょ。」
そうこうしていると、この場を仕切っている男が話しを始めた。
「我らは、ヴァリアシオン侯爵率いる軍隊である。侯爵様は、広く人材を募集している。」
「やはり、徴兵か・・・。」
「まあ、ただの徴兵ではないだろうね。」
「そうなのかい?」
「諸君らも、愛する家族、恋人がいるだろう。そこで、提案がある。」
「提案・・・悪い予感しかしない。」
「この度、公爵様がルースレスを立て直す決意をなされた。しかしながら、兵が不足している。そこでだ、今、我が軍に加われば、高額な報酬と上級市民の地位を確約しよう。」
「いやいや、僕は、貴族だよ。上級市民って・・・。」
「貴様に言ってる訳ではないだろ。」
「別に断ってくれても構わない・・・・・・しかし、諸君たちにも愛する人たちがいるだろ・・・それが、どうなってもいいと言うならな!」
「チ!やっぱり、人質か・・・」
「予想通りか・・・」はーつまらん。
「そう言うことだったのか~」
広場は、騒然となり、血気盛んな若者が兵に詰め寄ったのだが・・・。
兵隊は、有無を言わさず、若者を斬り殺した。
「逆らえば、こうなる!よーく考えて欲しい。」
「何が良く考えて欲しいだ。」
「選択肢がないじゃないか~。」
「1日だけ時間をやろう。逃げ出そうとしても無駄だ。街の周辺は、既に固めてある。逃げ出した者は、即、殺す、いいな。」
リチャードたちは、徴兵を迫られた。