罪人バオン
俺は、バオン。オークの戦士・・・だった。
ある日、俺たちの集落が襲われた。樹の化物に・・・。
「トレント如きに後れをとるか!」
俺たちは、戦った・・・侮っていた、わかっていなかった。
歯が断たなかった。それでも、余裕があった。
「火を放て!」
樹の化物だ。燃やせばいいと・・・。
間違いだった。ヤツに火など効かなかった。
俺は、木の枝に貫かれて死んだと思った。
俺は、生きていた。どうして?と思いつつも、その場から逃げ出した。
必死になって・・・仲間を見捨てて・・・。
後ろめたさはあった。でも、俺は、死にたくなかった。
今、思えばあの時、戦士として死ぬべきだった。
後悔した。後悔した。後悔した。
「仲間と一緒に死ねばよかったぁぁぁぁ。」
俺は、奴隷商人に捕まり、ルースレスの貴族に売り飛ばされた。
強制労働させられるだけだと思っていた。
命があるだけでも儲けものだと。
違っていた・・・俺は汚された・・・弄ばれた・・・嬲られた。
男の貴族には、尻を掘られ。
女の貴族には、俺のイチモツをしごかれ、何度も何度も逝かされた。
それは、気が遠くなるほど・・・。
何時しか俺は、御主人様に呼ばれなくなった。
新しい玩具を手に入れたと聞いた。
程なく俺は、解放された・・・その時は思った。
「俺は、自由だぁ!」
すぐに知った。飼われている方がマシだったことを・・・。
俺と同じ様に解放された・・・否、捨てられた亜人に聞いた。俺たちの末路を。
断頭台送りになることを・・・。
それからの俺は、残飯あさりと、奴隷としての売り込みをする毎日・・・。
時より、食事の残りをそっと置いていってくれる人間もいた。
それでも、俺の巨体を維持するには全然足りない・・・。
魔が差した・・・
情報共有で知っていたのに・・・
あれが罠だと言うことに・・・
あいつは時より現れる。
良い香りを漂わしながら・・・練り歩くあいつが・・・。
「美味しい美味しい。ルースダム焼きだよ~~。銅貨1枚。お安いよ~。」
空腹で・・・本能だけで体が動いてしまった。
俺は、あいつの持っていた食料を奪い走っていた。
何処へ逃げても衛兵が待ち構えている。
知っていたはずなのに、あいつが出る時、衛兵が普段の倍になることを・・・。
俺は衛兵を突き飛ばし逃げる。殴って逃げる。蹴とばして逃げる。
そして、やっとの思いで町の外に・・・。
でも、それも全部罠・・・。
町中にいる衛兵は、弱い者ばかりで、わざと外に逃がすのだ。
待ち構えていたのは、屈強な戦士たちだった。
俺は、成す術もなく取り押さえられた。
俺は、絶望した。断頭台送りが頭をよぎる。
その時、声がした。
≪怨め、憎め、人間を、世界を、全てを。≫
「なんだこの声は!うるさい!黙れ!」
戦士たちは、俺が発狂したと思ったのだろう。俺はボコボコにされた。
気づくとそこは、ジメジメとした薄暗い部屋で俺は、鎖に繋がれていた。
辺りには拷問器具が並べれれていた。
尋問と言う名の拷問が始まった。
まず最初に焼き印が押される。
「ぐぎゃああああぁぁぁぁぁぁ・・・。」
罪人の証が刻まれた。
「何故、あんな事をした?」
「腹が減ったからだ・・・。」
何を言っても鞭打ちされた。
理不尽な暴力を受け続けた・・・その度に声が聞こえた・・・。
≪憎め、怨め。≫と・・・。
何日たったのだろう・・・覚えていない・・・もう限界だった。
俺は最期の力を振り絞って悪態をつく。
「このぉ、ルースレスの糞野郎がぁ!」
この言葉を聞いた拷問役がケタケタと笑い出した。
「今のは、王への不敬・・・即刻、処刑だな。」
「貴様に言ったんだ!」
「はん!ルースレスの名を出した時点で不敬罪なんだよぉ!この豚野郎!」
「順番待ちだったのによぉ・・・お前が最優先に変わったぜ!」
俺は、そいつを睨みつけた。
「何だ!その眼は!」
俺は、気を失うまで殴り続けられた。
ドス黒い何かが、俺に充満していくことがわかった・・・。
俺は、目と口を塞がれ。手足も縛られ何処かへ連れてかれた。
辺りは何か騒がしい・・・。
近くで何かを話している事だけはわかった。
目隠しと猿轡が外された・・・眩しい・・・。
この時、始めて俺の置かれている状況を理解した。
断頭台に括り付けられているのだ・・・震えていた・・・恐怖で。
俺は、まもなく死ぬ。
「さあ、バオンよ。最期に言い残すことを許そう。」
俺に何を言わせたいんだ・・・俺は・・・俺は・・・。
「俺は、なんもしてねえ!こんなことされるいわれはねえ!」
そこにいた人々になじられた。罵声を浴びさせられた。
なんでだよ・・・俺は、腹が減ってただけだったんだよ・・・。
悔し涙と恐怖の涙で一杯になった。
「やめろぉぉ・・・ぢにだぐねぇぇぇ・・・」
黒装束の奴は、ニチャニチャ笑っていた。斧を振り上げ人々を煽っていた。
目の前で無慈悲に振り下ろされる斧・・・。
俺は、恐怖のあまり、情けない叫び声をあげ・・・失禁した。大の大人がだ。
それから、しばらく茶番を見せられた・・・。
こいつら・・・楽しんでやがる・・・俺の処刑を・・・。
許せねぇ・・・絶対に・・・この屈辱、絶対に忘れねぇ・・・。
別の男が来た。もう、どうでもいい・・・。
冷たく重い何かが首筋に・・・・・・・・・。
≪怨め憎め呪え・・・さすれば、得るだろう。力を・・・≫
ドクン。ドクン。ドクン・・・・・・。
転がったバオンの首が空中高く舞い上がった。
ゲラゲラと笑いながら。
バオンの首の下から樹の根が生えだし、たちまち大きな巨木に変わった。
そして、新たな造形に変わる。
魔族バオンの誕生だった。