世にもおぞましい
サンカレンからルースダムまでは、歩いて5日はかかる。
馬車の定期便もあったが、シフォン達は歩いて行くことを選択した。
先を急ぐ旅でもないし、ゆっくりと各地を見て廻ると言うことだ。
道中、小さな村や集落で宿を取り、ルースダムまで後、1日といった距離まで来ていた。
「次の村で今日は宿を取りましょう。」
シフォンがそう提案すると、皆、賛同した。
「明日にはルースダムに着くわね・・・」
「本当にやっとだよ~。」
「ムラガ、ミエテキマシタ!」
「やれやれ、今日もよく歩いたな。」
村が見えると自然と足早になるシフォン達。
程なく、村にたどり着く。
「やはり、ここも寂れてますね。」
「宿屋があるのかも怪しいね~。」
「ヤドヤガ ナイナラ、ミンカニ トメテモライマショー。」
この旅におけるシルクの役割は大きかった。
彼女の積極的に人とコミュニケーションとる姿勢が行く先々で功を奏し。
宿屋のない集落でも民家にお世話になることが出来たのだ。
シフォン達貴族には、そう言った事に縁遠く上手くいかなかった。
デービット。彼は・・・人には向き不向きがあるもので・・・。
村には宿屋はなく。シルクが村のまとめ役らしき人物と話しをする。
話しは、あっさりと付いた。
村には幾らでも空家があり、好きな処を使っていいとのことだった。
シフォン達は、適度な大きさの空家を見つけそこに泊まることにした。
「丁度いいとこが見つかって良かった。」
「そ~だね~。でも、食事を自分たちで用意しないといけないのが、玉に瑕だね~。」
「・・・それで、誰か料理できる?」
貴族の子女だ料理なんてしたことがない。
「それだったら、大丈夫。デービットができるよ~。以前、自慢していたよ。」
「あら、意外。」
食材を買い込んだシルクとデービット戻ってくる。
「噂をすればなんとやら・・・」
「ん?なんだなんだ?」
「今日から君が専属シェフって話しだよ。」
「・・・ほ、他に料理を作れる者は・・・・・・。」
何やら様子がおかしいデービット。
「シ、シルク殿は料理は・・・」
「サッパリデース。タベルノ、センモンデース。」
「おいおい、どうしたんだい?一流料理人も真っ青な腕前なんだろ~。」
「意外な特技があるものね。」
「・・・・・・」
デービットは、唇を噛みしめていた。
「あれは・・・嘘だ。料理なんてやったことがないんだ!」
「嘘・・・だろ・・・。」
「じゃあ、今日は、どうするのよ?」
「仕方ありませんね・・・みんなで作りましょう。」
「それしかないわね。」
シフォン達は、全員で協力して料理を作ることになったものの。
なんとも要領の得ない・・・それでも、なんとか料理らしき物が出来上がった。
それは、世にもおぞましい・・・。
「・・・誰か・・・食べなさいよ・・・。」
「コーユーコトハ、ダンシノ シゴトデース。」
リチャードとデービットは、醜い争いを始めていた。
押し付け合いをしたが決着がつかず、結局、多数決で決めることに。
その結果。リチャードが犠牲・・・試食することになった。
リチャードの手は震えていた。
「本当に食べるのかい・・・これを。」
劈くような刺激臭でリチャードの顔が歪む。
「はよ、食べろ。勿体ないだろ・・・」
恐る恐る、料理を口に運ぶリチャード。
すると・・・リチャードは泡を吹き昏倒した。
シフォン達は、料理を家畜の飼料にして下さいと村人に託した。
傍から見ていたジェイドは、唐突にシフォン達の泊まる空家を訪れると
台所に入り、余っていた食材でサッサと料理を作った。
作り終えると彼は言う。
「調理ができないなら、焼くだけですむ食材にした方がいい。
凝った物を作る必要はない・・・旅ではな。」
そう言うとスタスタと空家を出て行った。
「・・・これ、食べていいってこと・・・。」
「みたいだな・・・。」
「ジャア、ワタシ タベテミマース。」
シルクは、一切の躊躇なく料理を口に運んだ。
「コレ、オ~イシ~イ~。」
その言葉を聞いた一同は、料理にかぶりついた。
「本当に美味しい・・・なんか・・・悔しい。」
「あんないい加減な人にも、特技があったんですね。」
「しかし、なんで彼は一緒に食事をしないんだい?」
「知らないわ。」
「サンカレンのカフェでも何も食べてなかったし・・・」
「謎ね・・・。」
腹ごしらえ終えたシフォン達はくつろいでいた。
コリーダが立ち上がり、話しを始める。
「あんたたち、明日には、ルースダムに入るわ・・・そこで言っておきたい事があるわ。」
「なんだい、言いたいことってのは~。」
「亜人への迫害は、サンカレンの比じゃないわよ・・・
何を見ても、何が起こっても、騒がないでよね。
あそこでは、あたり前のことなんだから・・・・・・。」
「この旅の出発前にも何か言ってましたね。」
「あそこでやらかせば・・・今度は助からないわ・・・・・・。
いい!絶対に騒ぎは起こさないでよね。」
コリーダは釘を刺した。
「はは・・・起こすわけないだろ~。」
◇◇◇
翌日。空家を綺麗にかたずけ。ルースダムに出発した。