アリスと伝説記 3
サンカレン図書館に64篇目の伝説記が寄贈された。それは、各地から多くの研究者が図書館を訪れることになる。
そうなると、当然のこと司書たちの仕事は、急増したわ。それは、アリスも同じで忙しすぎて伝説記をゆっくりと見ている暇はなかった。
「うえ~ん・・・サラサ。仕事手伝ってよぉ・・・整理が終わんないよ。」
「こっちも忙しいのよ!自分でしなさい。」
「ちょっとでいいから~~~。」
あの時、余裕のある司書は一人もいなかった。誰もが一杯一杯だった。
私もアリスも、疲れ果てて仕事が終わると死んだように眠る毎日がひと月は続いたわ。
落ち着いたのは・・・3ヶ月ぐらいたった頃かしら。
「サラサ。伝説記の展示を見に行こうよ。」
「そうね。寄贈日に遠目からちょっと見ただけだもんね・・・・」
ようやく伝説記をゆっくりと見ることが出来たアリスは、目を輝かせていた。
念願の伝説記を無心で書き写すアリス。
「本当に好きよね・・・・その御伽噺。」
「むっ!御伽噺じゃないもん。伝説記は、最古の歴史書なんだから。」
「世間一般では、御伽噺の原書って位置づけって知ってる?」
「サラサは、伝説記否定派なんだ・・・」
「そう言うわけでは・・・ただ、一般論を言ったまでですよ。」
「ふ~ん・・・そーなんだ・・・で、本当は?」
「・・・・どっちでも無いわよ・・・興味ないし。」
「・・・・あたしは、伝説記は、本当のことが書かれたものだと思ってるよ。」
「・・・私の見解は・・・大昔のことの虚実は、今の人間にはわからない・・・だから、そう言うものだと思うことにしてる・・・・本当であろうと嘘であろうと・・・事実として伝説記なるものが、今の時代に残っていることが重要だと思ってる。」
「サラサは、現実的だよね・・・夢がないよ。遥か遠い昔に浪漫を馳せるってことをしないなんて・・・つまんないよ!」
「浪漫ね・・・そう言うのも良いと思うわよ。でも、私にはそういった考えがないってだけ・・・否定しているわけではないのよ。」
「・・・・否定してるよ・・・」
「否定してないって!」
「してる!」
「してない!」
「サラサのわからずや!」
「わからずやは、あんたの方でしょ!」
「わからずや!わからずや!わからずや!」
「あーーー!うっさいな!」
伝説記の話しになると、最終的にはこんな流れになることが大半だったわね。
それからも、アリスは、伝説記の研究に没頭する。しかし、転機が訪れることになる・・・・。
私が、20歳の時、ドラゴニアから魔導書の研究のため一人の男が足しげく図書館に通うようになったの・・・・その人の担当することになったのがアリスだった。
「ドラゴニアから魔導書の研究・・・・・その人ってまさか・・・」 シフォンは、思いあたった。
「ドラゴニアの貴族の御曹司・・・・」
「・・・もったいぶらずに言って下さい。」
「ガトー=クレア。あなたのお父様ね・・・」
「・・・・やっぱり、そうなんだ・・・・・・サラサさん、その辺の話しも詳しく聞かせて下さい。」
サラサは、横に首を振った。
「どうして?」
「そう言うことは、直接、お父様に聞いた方が良いと思うの・・・・私は、傍から見ていただけですし、何も語れないわ。」
「・・・・お父さまには、聞きずらいです。できる限りでいいので話してくれませんか?」
「・・・・そうですね・・・二人のことはあまり話せませんが・・・後、少しだけ・・・」
「・・・ありがとうございます。」
ガトーさんが、毎日のように図書館に通うようになってから、アリスの伝説記の研究する時間が減っていったわ。
でも、アリスの情熱は失うことはなかった。むしろ、限られた時間で精力的に研究を続けた。
それでも、一個人ができる研究には限りがある。遥か昔の事柄だ資料などもない。
限界が来るのは当然のことだった。となると、やれることは、未発見の伝説記を探すことぐらいしかなかった。
「サラサ・・・相談があるんだけど・・・・」
「珍しいわね。私に相談なんて・・・いつもは一方的に話すばかりじゃない・・・・で、なんなの相談って?」
「あたし・・・司書を・・・・辞めようと思うの。」
「あなた・・・また、突然・・・・」
「突然じゃないよ。前から考えていたんだ。」
「なんで又・・・」
「伝説記があたしを待っているの!未だに未発見の伝説記をあたしが見つけだす!」
サラサは、頭を抱えた。
「やっぱり、相談になってないじゃない。一方的に話して・・・・」
「えぇ?相談だよ。あたしが伝説記探しの旅にでるって言う。」
「あのねぇ・・・それって、結論が出てるでしょ・・・・それは相談とは言えないわよ。」
「そっかなぁ・・・・」
「相談って言うなら、一言いわせてもらうわよ・・・・辞めなさい、考古学者が一生かかっても見つけられる物じゃないの・・・・ましてや、素人が見つけられるわけ・・・」
「大丈夫・・・・運だから。」 あっけらかんと答えるアリス。
「・・・・運って・・・どうして、そんなに自信たっぷりなのよ。」
「だって、あたしがそう言う運命の元に生まれてきたのだから・・・」
「おバカ!」 サラサはあきれ果てていた。
しかし、アリスは、別の形で司書を辞めることになる・・・・。
サラサは、シフォンに語る。
「アリスとガトーさんの間になにがあったかは、私には知る由もないけど・・・・二人が良い感じだったのはわかっていたわ。」
「別の形で辞めたのは・・・・結婚したからですね。」
「はい・・・・とても、幸せそうでしたわ・・・」
サラサは、遠い眼をして振り返っていたのだった。