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all breaker  作者: paruseito
第Ⅱ章-Ⅰ サンカレン編
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カレンの手記

 不意に蘇るシフォンの記憶。それは、以前見た断片的なものではなく、多少の前後の記憶をも見せる。


 巨大なドラゴンとその頭に乗る旅人の姿を見た。


 「無理やり呪いを引き剥がすからこんなことになる・・・このアホが!」 ドラゴンが吠える。


 「しょーがないだろ・・・これしか手が無かったんだから・・・後は、母親の方を何とかするだけだから・・・・頼むよドラゴンのおっさん。」


 「あれをどうにかしろと言うのかあのアホ・・・」


 シフォンの記憶が途切れる。そして、別の場面へと・・・



 父と母、そして、旅人が何やら話している。


 「二つで一つの呪いか・・・・」


 「同時にできれば良かったのだが、一つずつ引き剥がして行くしかないのだが・・・・問題は、どちらを先にするかだ・・・・」


 「もちろん、あの子からお願いします。」


 「・・・・・私は、構わないのだが、それで良いのかい?一時的に君に全ての呪いがのしかかる・・・下手をすれば君は・・・・」


 「それで、あの子が助かるのなら・・・・構いません。」


 「当主もいいか?」


 「・・・・・嗚呼・・。」


 シフォンの母は、シフォンの頭を撫でながら満面の笑顔で言う。



 「生きてシフォン・・・」



 シフォンの記憶が途切れた。


 シフォンは、現実に引き戻される。


 今のは、以前にも見た記憶の断片・・・でも、以前のものよりハッキリしていた・・・


 その時、今まで感じ取ることの出来なかった感覚を感じ取るシフォン。


 「この感じ・・・どこから・・・本棚からではない・・・・・下からだ。」


 感覚を頼りに移動するシフォン。床のきしむ音の違う場所にやって来たシフォンは、床を叩いてみる。


 「ここだ・・・この下に空洞がある。」


 シフォンは、魔力で床に圧をかける。ガッコっと音がすると、床の一部が盛り上がる。そして、こじ開けた。


 そこには、ボロボロの一冊の本が置いてあった。


 その本を手にするシフォン。


 「かなりの年代物のようですね・・・」


 その本は、ボロボロすぎて開けば崩れ落ちそうだった。



 やめて・・・それに手をだすな・・・それは、私の大事な・・・



 幽霊がシフォンの目の前に現れる。思わずシフォンは、ボロボロの本を掲げ挙げた。


 「・・・・どうやら、襲ってはこないみたいですね。」


 かえせ・・・それを・・・かえせぇぇぇ・・・・


 コリーダたちもシフォンの元へと駆け寄る。


 「シフォンさん。その本は?」


 「わかりません。床の収納にありました。」


 「もしかしたら、その本・・・・カレンの手記かも知れません。」 サラサが言う。


 「シフォンサーン。カイワガ セイリツ スルカモデース。」


 「まさか~そんな~。」


 「・・・・・そうですね、やってみましょう。」


 シフォンが本を掲げながら、幽霊に語りかける。


 「この本を返して欲しいのなら・・・わたしと話しなさい!」


 かえせ・・・かえせ・・・かえせ・・・それをかえせ・・・


 「やっぱり、ダメじゃないか~。」

 「リチャードは、少し黙ってなさい。」


 「わたしと話せば返すわ!」


 はやく・・・それを・・・かえせ・・・


 シフォンと幽霊が交錯する。その時、シフォンは、夢?幽霊の記憶?本に残る思念?を見ることになる。




 ここは、小さな小さな書庫・・・・そして、私は、ここを管理している、ただの本好きのカレン。

 今日も私は待っている。あの人を・・・。


 いつも通りあの人は、あの男と一緒にやって来た。

 あの人は、一人ここに残り、あの男は、どこかへ行く。


 あの人は、物静かで知的で、探求心の塊の様な人だ。

 あの人は、私に色々と聞いてくる。そのひと時が心地いい。

 私にとって、とてもとても、大切な時間・・・。


 夕方になると、あの男があの人を迎えに来て、一緒に帰って行く。

 もどかしい・・・やるせない気持ちになる。



 近々、大きな戦がそこの平原であるらしい。みんな、ここを去って行く。

 あの人も、あの男もここに来なくなった。寂しい・・・。

 私は、ここに残る。この書庫を守るんだ。



 ついに戦が始まった。ここに残ったのは、私と村長と数名の若者だけだ。

 村に火の手が回る。貴重な本は、地下に納めた。書庫が燃えても本は無事であることを祈ろう。



 この日、私は、黒い稲妻を何度も見た。遥か遠くからの悲痛な悲鳴を聞いた。

 その日の夕暮れ・・・遠くの丘の上に、不気味なアカイツキを見る。怖かった・・・。



 戦は終わったらしい・・・エクリプスの兵隊が今更、やって来て残党狩りをしていると言う。

 書庫は燃えてしまったが本の大半は無事だ。良かった・・・。

 これで平和になってくれると良いのだが・・・。



 戦も終わり、人々が戻って来る。しかし、あの人は来ない・・・。


 何日、何週間、何ヵ月、待ってもあの人は、来なかった。


 私は、あの人とあの男が住む、丘の先の森の集落に行って様子を見てくることにした。



 そこで、私は知った。あの男が死んで、あの人も後を追うように消えてしまったことを・・・。



 絶望した。あの人は、もう、居ない・・・。目の前が真っ暗になった。



 理不尽なことはわかっている。でも、許せない。戦が。

 そして、あの男のことが。何故、あの男は死んだ。あの男が死ななければ、あの人も居なくならなかったかも知れない。


 許せない・・・絶対に・・・・。




 「今のは・・・・カレンの記憶?本の内容?」


 シフォンは、幽霊の記憶を覗いたのだった。

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