カレンの手記
不意に蘇るシフォンの記憶。それは、以前見た断片的なものではなく、多少の前後の記憶をも見せる。
巨大なドラゴンとその頭に乗る旅人の姿を見た。
「無理やり呪いを引き剥がすからこんなことになる・・・このアホが!」 ドラゴンが吠える。
「しょーがないだろ・・・これしか手が無かったんだから・・・後は、母親の方を何とかするだけだから・・・・頼むよドラゴンのおっさん。」
「あれをどうにかしろと言うのかあのアホ・・・」
シフォンの記憶が途切れる。そして、別の場面へと・・・
父と母、そして、旅人が何やら話している。
「二つで一つの呪いか・・・・」
「同時にできれば良かったのだが、一つずつ引き剥がして行くしかないのだが・・・・問題は、どちらを先にするかだ・・・・」
「もちろん、あの子からお願いします。」
「・・・・・私は、構わないのだが、それで良いのかい?一時的に君に全ての呪いがのしかかる・・・下手をすれば君は・・・・」
「それで、あの子が助かるのなら・・・・構いません。」
「当主もいいか?」
「・・・・・嗚呼・・。」
シフォンの母は、シフォンの頭を撫でながら満面の笑顔で言う。
「生きてシフォン・・・」
シフォンの記憶が途切れた。
シフォンは、現実に引き戻される。
今のは、以前にも見た記憶の断片・・・でも、以前のものよりハッキリしていた・・・
その時、今まで感じ取ることの出来なかった感覚を感じ取るシフォン。
「この感じ・・・どこから・・・本棚からではない・・・・・下からだ。」
感覚を頼りに移動するシフォン。床のきしむ音の違う場所にやって来たシフォンは、床を叩いてみる。
「ここだ・・・この下に空洞がある。」
シフォンは、魔力で床に圧をかける。ガッコっと音がすると、床の一部が盛り上がる。そして、こじ開けた。
そこには、ボロボロの一冊の本が置いてあった。
その本を手にするシフォン。
「かなりの年代物のようですね・・・」
その本は、ボロボロすぎて開けば崩れ落ちそうだった。
やめて・・・それに手をだすな・・・それは、私の大事な・・・
幽霊がシフォンの目の前に現れる。思わずシフォンは、ボロボロの本を掲げ挙げた。
「・・・・どうやら、襲ってはこないみたいですね。」
かえせ・・・それを・・・かえせぇぇぇ・・・・
コリーダたちもシフォンの元へと駆け寄る。
「シフォンさん。その本は?」
「わかりません。床の収納にありました。」
「もしかしたら、その本・・・・カレンの手記かも知れません。」 サラサが言う。
「シフォンサーン。カイワガ セイリツ スルカモデース。」
「まさか~そんな~。」
「・・・・・そうですね、やってみましょう。」
シフォンが本を掲げながら、幽霊に語りかける。
「この本を返して欲しいのなら・・・わたしと話しなさい!」
かえせ・・・かえせ・・・かえせ・・・それをかえせ・・・
「やっぱり、ダメじゃないか~。」
「リチャードは、少し黙ってなさい。」
「わたしと話せば返すわ!」
はやく・・・それを・・・かえせ・・・
シフォンと幽霊が交錯する。その時、シフォンは、夢?幽霊の記憶?本に残る思念?を見ることになる。
ここは、小さな小さな書庫・・・・そして、私は、ここを管理している、ただの本好きのカレン。
今日も私は待っている。あの人を・・・。
いつも通りあの人は、あの男と一緒にやって来た。
あの人は、一人ここに残り、あの男は、どこかへ行く。
あの人は、物静かで知的で、探求心の塊の様な人だ。
あの人は、私に色々と聞いてくる。そのひと時が心地いい。
私にとって、とてもとても、大切な時間・・・。
夕方になると、あの男があの人を迎えに来て、一緒に帰って行く。
もどかしい・・・やるせない気持ちになる。
近々、大きな戦がそこの平原であるらしい。みんな、ここを去って行く。
あの人も、あの男もここに来なくなった。寂しい・・・。
私は、ここに残る。この書庫を守るんだ。
ついに戦が始まった。ここに残ったのは、私と村長と数名の若者だけだ。
村に火の手が回る。貴重な本は、地下に納めた。書庫が燃えても本は無事であることを祈ろう。
この日、私は、黒い稲妻を何度も見た。遥か遠くからの悲痛な悲鳴を聞いた。
その日の夕暮れ・・・遠くの丘の上に、不気味なアカイツキを見る。怖かった・・・。
戦は終わったらしい・・・エクリプスの兵隊が今更、やって来て残党狩りをしていると言う。
書庫は燃えてしまったが本の大半は無事だ。良かった・・・。
これで平和になってくれると良いのだが・・・。
戦も終わり、人々が戻って来る。しかし、あの人は来ない・・・。
何日、何週間、何ヵ月、待ってもあの人は、来なかった。
私は、あの人とあの男が住む、丘の先の森の集落に行って様子を見てくることにした。
そこで、私は知った。あの男が死んで、あの人も後を追うように消えてしまったことを・・・。
絶望した。あの人は、もう、居ない・・・。目の前が真っ暗になった。
理不尽なことはわかっている。でも、許せない。戦が。
そして、あの男のことが。何故、あの男は死んだ。あの男が死ななければ、あの人も居なくならなかったかも知れない。
許せない・・・絶対に・・・・。
「今のは・・・・カレンの記憶?本の内容?」
シフォンは、幽霊の記憶を覗いたのだった。