幼き日の記憶
それは、幼き日の記憶。
今は、もう、名前も顔も憶えていないあの旅人。
けれども最後に交わした会話だけは、記憶に残っていた。
幼子は、言う。
「おじちゃんは、なんで旅をしているの?」
旅人は、しばらく考えるとおもむろに答えた。
「特に意味はない……強いて言うならば暇だから……かな……」
幼子は、首をかしげる。
「ヒマだから? ヒマだと旅をするものなの?」
旅人は、苦笑いを浮かべながら言った。
「暇って言うのは、事実だが目的は、あるのさ」
「モクテキ?」
旅人は、遠い目をし天を仰ぐと語りだした。
「昔、ある人に言われたんだ……」
『世界は輝きに満ち溢れている』
『それは、風景かもしれない』
『それは、事象かもしれない』
『それは、人かもしれない』
『それは、獣かもしれない』
『それは、石ころかもしれない』
『それは────』
『とにかく君にしか見えない輝きをみつけるんだ』
「ってね……そうして私は、輝きってヤツを見つける為に旅をしはじめたのかもしれないな」
「カガヤキ? おじちゃんは、そのカガヤキ? 見つけたの?」
幼子の問いに旅人は、満面の笑みを浮かべて幼子の頭を撫でると……
「嗚呼」と一言答えた。
そして、旅人は、最後にこう言った。
『君のその世界は輝いているかい』
おぼろげに残っていた記憶。
何故、今になって思い出したのだろうか?
これは、何かの啓示なのだろうか?
いや、きっとそうなんだ!!
【旅に出たい、いや旅に出るんだ】
そこには、黒い瞳に黒髪セミロング、黒のローブをまとった少女がいたのだった。