撥噺 【旅は道連れ世は情け】
今とても眠いです
皆さんは夜しっかりと寝ていますか?
私は寝れていないわけではありませんが、そこそこ寝不足です
今回はアイリスが目覚めた所からです
太陽の光が部屋を照らした。とても明るく、暗い明かり。一人の少女が光に照らされて目を覚ました。
「…………?」
少女は周囲を見回す。見覚えのある部屋だ。そして、体が少しスースーする。
──………服を、着てない?
少女は温かさを感じ、隣を見た。そこには一人の男が寝ていた。
──…え?覇王様?
少女は今までの記憶を覚醒させる。
「──!?」
アイリスは驚き、硬直する。服も下着も履いていないアイリスとアンダーパンツのみを履いているオーバーロード。
「…………?…?、!?……!!?」
アイリスは情報量が多すぎて頭を回す。
──わ、私、死んだはずじゃ、じゃあここは天国?いや、体寒いし、そもそも服きてないし、覇王様がいる時点で天国ない。じゃあ現実?なんで覇王様は隣で寝てるの?え?え?
オーバーフローを起こしそうになっているアイリスに訴えかけるように部屋にノックの音が響いた。
「オーバーロード、入るぞ」
「え……あ…」
アイリスはすぐ様布団で胸を隠す。
「アイリスは目を覚ました……か……」
エンペラーロードは足を止め、固まった。少しの間沈黙が続いたが、その沈黙を破ったのはアイリスでもエンペラーロードでもオーバーロードでもなかった。
「どうしたの?……あ!アイリスちゃん起きてる!」
そこに顔を出したルナティックロードが静寂を打破した。
「皆ー!」
ルナティックロードは走り出し、消えて行った。
「と、取り敢えず、服…有りますか?」
「…そこのクローゼットの中にある」
「……あの、取ってもらって良いですか?」
「分かった」
エンペラーロードはクローゼットを開け、服を一つ手に取る。それをアイリスに投げる。
「……は、派手じゃないですか?」
「俺様に任せたアイリスが悪ぃ」
アイリスが渡されたのは黒色のドレス。破かれたものの逆色だ。
「あれから、何日経ちましたか?」
「ざっと四日は掛かってるんじゃねぇか?オーバーロードに感謝しねぇとな。食事も風呂も入らず、一睡もせずに看病してたんだぜ。濡れたタオルで体は拭いていたようだがな」
アイリスはオーバーロードを見る。とても気持ちよさそうに眠っている。
アイリスは嬉しくなり、笑みを浮かべる。
「アイリス、首の傷はあるか?まだ少し痛むか?」
「いえ、もう大丈夫です」
アイリスは服を着ようとするが、手を止め、エンペラーロードを見た。
「……なんだよ」
「少し、向こうを向いていてもらっても良いですか?」
「別にいいだろ、減るもんじゃねぇんだし」
「嫌です。向いていてください」
「はいはい」
エンペラーロードは無理矢理顔を背けられ、待つことに。
「……もう良いですよ」
「で?オーバーロードは起きたか?」
「まだみたいです……」
アイリスはオーバーロードの顔に触れる。
「アイリス、起きたんだって?」
「ようやっとね。いや〜、心配したわ」
ルナティックロードと駆け付けたのはぺザントロードとドラゴンロードだった。
「おはようございます、ん?お久しぶり、の方が良いですかね」
「どっちも変わらないだろう」
「変わりますよ……て、覇王様!?起きてるなら起きてるって言ってくださいよ!」
アイリスはオーバーロードに驚き、両手を反射的に上に上げる。
「いや、起きたのはついさっきだ。それより、服取ってくれないか?」
「服?どこにあるんですか?」
「隣の机の上にある」
アイリスは自分の隣の机を見る。そこには確かに服が置いてあった。
「これでいいですか?」
「有難う」
オーバーロードはその場で着替えを始める。
「覇王様、ひとつ聞きたいことがあるんですが」
「なんだ?」
「何故私は裸だったんですか?」
「そっちの方が回復させやすかったからな。途中ドラゴンロードとかに目隠しされたが……」
オーバーロードはジト目でドラゴンロードを睨みつける。
「だって、年頃の男の子が年頃の女の子の裸をジロジロ見るなんて卑猥じゃない」
「卑猥かもしれないがアイリスの命が掛かってたんだ。仕方なかっただろう」
「そうだったかもしれないけどね…」
長くなりそうな話はドラゴンロードの曖昧な言葉によって終幕した。
「……覇王様、いえ、オーバーロード様」
初めて名前で呼ばれたオーバーロードは少し緊張を顔色に出した。
「兄さんと知り合ってくれて、ありがとうございます」
その言葉の直後、オーバーロードは悲しい顔を浮かべ、体の力を抜いた。
「知ってたのか」
「はい、兄さんから話は聞いていましたので」
オーバーロードはベッドから立ち上がり、口を開いた。
「アイリスの兄貴のクロイラには色々お世話になった。アイリスのことは最初妹って言ってたな。途中からアイリスで呼んでた」
「でも、名前が決まったのはオーバーロード様のお陰じゃ…」
「いや、クロイラがこの名前をつけて欲しいって言ってきたんだ。自分でつけないのかって、問い掛けたんだが、僕じゃだめだって言ってた」
クロイラではなく、オーバーロードじゃなければならない理由。それはクロイラだけが知っていることだ。
「……もう一つ、話しておこう。俺は昔、お前と同じ ″ 愚民 ″ だった」
「……知ってましたよ」
アイリスの言葉にオーバーロードは驚くが、よくよく考え、何となく理解をしたオーバーロード。
「…ファラビレオの仕業か。全く、要らないことを言う」
オーバーロードはため息をつき、頭を搔く。
「オーバーロード様、折り入って頼みたいことがあります」
「……なんだ?」
何処か畏まったようなアイリスにオーバーロードも少し気を張った。
「……南関大陸に、行きたいのですが、良いですか?」
「元地にか?」
「はい。兄さんに、オーバーロード様と会えたことを報告したいので」
「…分かった。なら、直ぐに支度しろ」
「はい!」
アイリスは元気よく返事をし、支度を始めた。
エンペラーロード達は問題無いと踏み、解散した。
◇◇ ◇◇
アイリスは服はそのままで武器を担いだ。オーバーロードは黒帽子を被り、雰囲気を変えた。
「テレポートで行くか、浮海艇で行くか、どっちがいい?」
「浮海艇でお願いします」
「物好きなものだな」
オーバーロードは黒上着のポケットに手を入れ、笑みを浮かべる。
「私らは行かなくて大丈夫なの?」
「大丈夫だ。そんなに心配なら視監魔法を使えばいいじゃないか」
「私、それ好きじゃないから」
「それでいいのか魔導士…」
オーバーロードはため息をつき、歩き出した。
「それでは皆さん、行ってきます」
「気をつけるのじゃぞ、外は危険じゃからな」
「ビーストロードみたいな人がわんさかいるからね」
「よし、ぺザントロードよ、今日こそ決着をつけねばのう」
いつまでも賑やかだとアイリスは苦笑いをしてからオーバーロードの元まで走った。
「久しぶりの元地は楽しみか?」
「そう、ですね。あの人が居るかが少し怖いですね」
「……あの、人?」
オーバーロードはアイリスの指す″あの人″が誰だか分かっていなかった。
「とにかく、早く行きましょう」
「お、おう、そうだな」
オーバーロードはそのままアイリスに流され、浮海艇に向かった。
セレビオ王国から浮海艇までは大体七、八分で到着出来る距離にある。
「そう言えば、アイリスは俺の事最初知らないって言ってなかったか?」
初日の晚、アイリスはオーバーロードのことを知らないと言い張っていた。
「四日間と長く寝ていて、思い出した見たいです」
「なんか、都合いいな。その脳」
忘れたことは思い出すのにかなり時間がかかるのが人間の脳。しかし、魔族の脳は少し特殊だ。睡眠をしている最中に脳を覗くことが出来、忘れた記憶を引っ張り出してこれる。
「意外と不便なことも有りますよ。忘れたいことも忘れられませんし」
アイリスはそう言って苦笑いを浮かべる。オーバーロードはため息をつくように肩を落とした。
「まぁ、とにかく、クロイラから俺の事を聞いてるなら良いか。もうすぐ浮海艇に着く。武器を見せるのは少し危ないから、鉱物化できる魔法を教える」
オーバーロードはそう言ってアイリスの前に立った。
「鉱物化、ですか?」
「あぁ。今のアイリスなら出来るだろう。どうする?鞘ごと鉱物化にするか、それとも武器だけを鉱物化するか」
「鞘も鉱物化させます」
「了解だ。じゃ、先ずは鞘を下ろすんだ」
アイリスは鞘を下ろし、両手で持つ。
「次、魔力を注ぐ。鉱物でもなんでも、想像して魔力を注ぐんだ」
アイリスは目を閉じ、武器と鞘に魔力を注ぐ。集中すると、アイリスは周囲の音が聞こえなくなる。否、近距離での音や接触は気付く。
オーバーロードはアイリスの肩を叩く。
「終わったぞ」
アイリスはゆっくりと目を開く。掌の上にあるのはひとつの ″ 指輪 ″ だった。
「指輪ですね」
「指輪だな」
アイリスとオーバーロードが同時に言い放つ。その指輪は太陽の光を反射し、純白に輝く。
「指輪を想像したのか?」
「いえ、とにかく魔力を注いだだけです」
オーバーロードとアイリスは向き合い、首を傾げた。
「まぁいい、それで目立たないな。行くぞ」
「服の時点でかなり目立つと思うのですが、分かりました」
アイリスは指輪を左手の中指に嵌め、オーバーロードの後を追う。
浮海艇に到着したアイリスとオーバーロード。
行き先によって艇が違うようだ。
「…あ、あそこにあります」
アイリスが指をさした。確かに看板には ″ 南関大陸行き ″ と書いてある。
「行こう」
アイリスとオーバーロードはその艇に向かう。
「…済まない」
オーバーロードが声を掛けると、一人の老人がこちらを向いた。
「なんだね?」
「これは南関大陸か?」
「そうだが、兄ちゃんもしかして南関大陸に行くってことは密猟者か?」
妙に嫌な視線を向けて言い放つ老人にオーバーロードは首を振った。
「違う。観光目的で行きたいんだ」
「そうかい、其方の嬢ちゃんもかい?娘さん?」
「…………嫁だ」
オーバーロードがそう言った途端、アイリスは耳を赤らめて下を向き、老人は驚いていた。
「こりゃ魂消たな。かなりの年の差があるんじゃないかい?」
「いや、二歳差なんだ」
「二歳差?兄さん何歳だい?」
「俺は十八で此奴が十六だ」
「十六歳には見えんなぁ。おっと、話がそれたな。出艇は五分後、金額は一人百チェックだ」
「これでいいか?」
オーバーロードは二百チェックを老人に手渡しする。
「ん、しっかり受け取った。さ、乗るといい」
「感謝する」
「…し、失礼します」
オーバーロードとアイリスは老人にお辞儀し、艇内に入った。
「十六歳であの身長の奴も居るんだなぁ」
老人はため息のように言い捨てた。
艇内に入ったオーバーロードとアイリスは空き席を見つけ、座り込む。
「私、浮海艇に乗るの初めてなので少しワクワクしてます」
「そうなのか?密輸の時に乗らなかったか?」
「その時は箱に入れられてましたから、よく覚えてないんです」
「そうだったのか。とにかく、俺は少し眠いから寝る」
オーバーロードはそう言って腕を組み、眠りについた。
「やっぱり寝るの早いですね」
アイリスは苦笑いで眠ったオーバーロードに言った。
──…まだオーバーロード様にあって短いけど、色々あったな
アイリスは前を向き、少し微笑んだ。
「……嬉しい限りですよ、オーバーロード様」
アイリスは誰にも聞こえないように小声で言った。無論、オーバーロードにも聞こえないように。
アイリスは指輪に目を落とした。照り輝く指輪は朧月エクリプスの面影を無くしている。だが、とても綺麗で美しい。
アイリスは指輪を撫でる。金属のように硬く、そしてアイリスの熱を吸収して暖かい。
「……早く、兄さんにも報告しよ」
アイリスはそう言ってオーバーロードに寄り添い、眠りについた。
◇◇ ◇◇
アイリスが目を覚ましたのは休眠を取ってから三十分後だった。
「…………ふぁ〜。今、どこら辺だろ」
アイリスは座ったまま周りを見た。浮海艇の窓から見える景色は水平線ばかり。微かに揺れを感じる。
「…まだみたい……」
アイリスは又眠りにつこうとするが、声を掛けられてアイリスは眠るのをやめた。
「ねぇ君、魔族だよね」
十二刻の方向から声。アイリスは閉じかけた目を開き、声の方向に顔を向ける。
「…そうですが、貴方は?」
「僕は人間族のエベリエト・ホドスキー。可愛いね君、少しお話しない?」
「……眠いので却下します」
「そんなこと言わずにさぁ、ちょっとだけだからさ」
「はぁ……分かりました、少しだけですよ」
「よしっ」
小さな声で喜ぶエベリエトにアイリスは二度のため息を付いた。
アイリスの隣に腰掛けたエベリエトは質問を始めた。
「君、名前は?」
「…アイリスです」
「アイリスちゃんかぁ、年齢は幾つ?」
「…十六歳です」
歳を聞いた時、エベリエトは少し驚いた顔をしていた。
「もう少し若いと思ってた」
「…身長が低いので」
アイリスはエベリエトに気付かれぬように徐々にオーバーロードに寄って行った。
「結構正装してるみたいだけど、どんな家庭?豪華なんじゃない?」
アイリスはその言葉に少し考えた。
……どんな家庭、か。本当のこと言おうかな。それとも嘘つこうかな。でも、嘘はダメって兄さん言ってたし……う〜ん
悩み老けていると、隣にある体が動いた。オーバーロードが目を覚ました。
「…………アイリス、この少年は?」
「…あ、オーバーロード様。話をしたいとの事で少し話を」
そう言ってエベリエトの方を見ると、何故か凄く慌ただしい。
「どうかされましたか?」
「…な、何故覇王様がここに…それに、知り合い!?」
「えっと、はい。私はオーバーロード様に買われた身ですから」
「か、買われた!?奴隷!?」
「…少年、君の名前は?」
オーバーロードの急な問いかけに少しオロオロしながら回答するエベリエト。
「エ、エベリエト・ホドスキー、です」
「エベリエト、君は何故ここに来たんだ?見たところ密猟でも無いだろ」
オーバーロードの言葉にエベリエトは頭を掻きながら胸ポケットから手帳を取り出した。
「……成程、新紙作りをしてるのか。ということは、取材か?」
「えーっとー、そうですね。上者が行ってきてくれと言ってきたので、取材に…覇王様は何を?」
オーバーロードは聞き返され、アイリスの肩を軽く叩いた。アイリスはオーバーロードを見ると、頷いてきた。
「……私の故郷に来たんです」
「こ、故郷?南関大陸が?」
「はい。私はそこで密猟者に捕まって競りに出されてオーバーロード様に買い取られました」
その話を聞き、エベリエトはペンを走らせる。
「……あの、これを記事にしようとしてませんか?」
「あぁ!これはビックニュースだ!」
興奮したエベリエトに苦笑いしか浮かべられないアイリス。
「あの、このままついて行っていいですか!」
「……え!?」
「良いぞ」
「えええ!?」
なんと言う究極展開にアイリスは完全に呆気にとられていた。
※オーバーロードは体を拭いている時に眠くなり、服を着ずに同じベッドに入ったため、裸だった。
ゴシップ記者的な人が仲間に加わりましたね
オーバーロードもよく頑張りましたね
安心して寝れたんでしょうねぇ