柒噺 【人間万事塞翁が馬】
一日も変わらず暑いですね
熱中症になりそうで怖いのでなんとか対策中です
今回はオーバーロードが目覚めた所からです
朝方、まだ日が昇り切っていない時間帯にオーバーロードは目が覚めた。
「……朝か?おはよう、アイリ……アイリス?」
オーバーロードは布団を投げ飛ばした。だが、その場にはアイリスはいない。
「……逃亡?いや、アイリスに限ってそれは無い」
その時、オーバーロードの目に入ったのは朧月エクリプスの鞘だった。
「…鞘だけ?どういうことだ?」
オーバーロードは考えるより先に体を動かした。
昨日の服のまま走り出し、大会室に向かう。
「アイリス!」
返答は無く、静まり返っていた。
「何処だ!アイリス!」
オーバーロードは城中を調べ回った。だが、アイリスの姿はなかった。
そんなオーバーロードの声に起きてきた覇王達。
「オーバーロード、どうかしたのか?」
「エンペラーロード!アイリス見てないか!?」
「アイリス?見てないが、居ないのか?」
「いつから居ないかは分からない。だが、アイリスは逃げ出すようなやつでもない」
オーバーロードは一度周囲を見渡す。
「何処かに、消えたの?」
ドラゴンロードにそう言われ、オーバーロードは頷くしか無かった。
「アイリスちゃん、オーバーロードと一緒に寝たんじゃ?」
「確かそうだった。でも、朝起きると消えていた」
その時、オーバーロードは気辺りがあり、中庭の方へと走った。
「あ!おい!待てオーバーロード!」
インフェルノロードに止められるが、オーバーロードは耳にも入れず、駆ける。
中庭、もしかすればアイリスが鍛錬しているのかもしれないと踏んだオーバーロードは中庭に到着した。
「……!!」
そこには地面に突き刺さった純白の狼煙輝大剣があった。
「…これは、朧月エクリプス……?なんだ、これは」
オーバーロードはエクリプスを地面から抜き、何かを拾い上げる。紙だ。
紙には丁寧な字でこう記してあった。
【女は奪わせてもらった。もし返して欲しければ、裏に記された場所に来い。来なければ女は俺達の立派な性奴隷と化すだろう。それじゃ、楽しみにしてるぜ、天玉の覇王 オーバーロード】
オーバーロードは立ち上がり、紙の裏側を見た。城からの道筋が書かれてあり、ある一点に星印が記されていた。
風がオーバーロードを煽り、過ぎ去った。
他の覇王達が中庭に到着すると、オーバーロードが紙を持って下を向いていた。
「そ、それって、アイリスの狼煙輝大剣……それに、その紙は…?」
ドラゴンロードの言葉にオーバーロードは答えなかった。
その時、大地が少しづつ力を入れて揺れ始めた。
「な、なんすかこの揺れ!?」
地響きが鳴り響き、空気が赤く淀む。オーバーロード以外の全員に重力がかかったようになる。
「お、重い…な、なんじゃ、これは……」
ビーストロードはオーバーロードを見た。その瞬間、狂気が覇王達を顔を青ざめさせた。
「……ちょ、ちょっと、オーバーロード…」
フロナが踏み込もうとするが、一歩も前へと進めない。
他の覇王達もそうだろう。重力は通常の二倍以上なのだから。
「お、おい、オーバーロード!」
エンペラーロードがオーバーロードの名を叫ぶと、重力は段々と軽くなり、地響きも地震も和らいだ。
「…………少し、行ってくる」
オーバーロードは紙を地面に落とし、左手を前に突きだした。
「来い、カタストロフィ。アイリスを奪った奴らを殺しに行く」
オーバーロードの左手に飛んできたカタストロフィ。いつもよりも熱を持っている。
オーバーロードは爆速で城を出た。
「オーバーロード!待て!」
エンペラーロードが叫ぶが、もうそこにオーバーロードの姿は無かった。
「な、なんだったの、あれ」
「ちょ、ちょっと皆!これ見るっす!」
デビルロードが拾い上げた紙を全員が目を通した。
「こ、これはっ!」
「い、一大事じゃ!儂らも向かうんじゃ!」
ビーストロードの言葉に全員が頷き、直ぐに支度を始めた。
◇◇ ◇◇
「全く、覇王も注意すべきだな」
男が一人ナイフを上に投げてニヤける面を浮かべていた。
「な、何をするんですかっ!」
「何って、ゲームだよ、只の」
ナイフを投げていないもう一人の男がアイリスの目の前で笑顔を浮かべてそう言う。
「ゲーム…?」
「そっそ、これは只のゲーム。面白いからやってんの。それに、南関大陸の魔族なんて初めて見たしさぁ」
ナイフを投げている男でも、ナイフを投げずにアイリスの目の前に立っている男でもない男がそう言って椅子に腰を掛ける。
「は、早く解いてください!」
「おっと〜、それは無理な相談だ」
ナイフを持っている男は地面にナイフを投げ刺した。
「俺達は飢えてんだよ。只の性の獣さ。女を狙ってよくこういうことしてんだよ。嬢ちゃん綺麗だしさ、なんたって魔族と来たもんだ。こりゃあヤるっきゃないでしょ」
「き、気持ち悪いです」
「ははははは!全員そう言って俺達を避ける。だが、俺達に捕まった奴等は全員、性に堕ちる。嬢ちゃんもそうなるに違いねぇよ」
「な、なりません!」
「お?今までで一番威勢がいいんじゃないか?早く犯したくて堪んねぇよ」
そう言うアイリスの目の前に居る男にナイフを持った男が注意する。
「駄目だ。まだショウはこれからなんだ。もう少し待て」
「ちぇ、分かったよ待ちゃいいんだろ?」
男は命令を素直に聞き、地面に座り込んだ。
壁や天井が全て鉄で出来ている。巨大倉庫のような場所だ。
アイリスが天井を見ていると、天井が傾いた。
「うおっ!危ねぇ!」
ナイフを持った男の前に天井の崩れ鉄が落ちた。
「アイリスを返してもらうぞ、愚人が!」
「いいねぇその顔!潰したくて堪んないねぇ。全員そんな顔をしていたが、結局は絶望していく。お前もそんな顔にしてやるよ!お前ら!殺れ!」
ナイフを持った男が言うと、二人の男が武器を持ってオーバーロードに襲いかかった。
「クソが!」
オーバーロードは両手に握った狼煙輝大剣で防いだ。
「ヒュ〜!強いねぇ。やっぱり、戦いはこうでなくっちゃな!」
「巫山戯んな!」
オーバーロードは弾き返し、アイリスの元まで走ろうとする。だが、ナイフを持った男が前に出た。
「くっ、天ら……!?」
オーバーロードは驚き、男から距離を取った。
「ははははは!そりゃあ驚くよな!なんてったって天佑の力も、魔力も奪ってやったんだからな!」
「……なんだ、体の力も…」
オーバーロードは地面に狼煙輝大剣を突き刺し、膝を着いた。
「お前には教えてやるよ。俺の天佑は悪魔の天佑だ」
悪魔の天佑
-敵対者の天佑一時的消去 敵対者魔力吸収 敵対者戦闘力超低下 攻撃力上昇 防御力上昇 戦友能力解放・共有 身体的能力上昇
「これが、俺の天佑さ。お前ら、縛ってろ。じわじわと殺してやるさ」
「ぐあっ!」
二人の男がオーバーロードを押さえ込んだ。
「死ぬ前に教えてやるよ。俺の名前はジーヴァ・レベリエル。お前から見て右がロロベリオ、左がファブァリルだ。しっかりこの顔と名前を覚えな、そして、呪いながら死ぬと良い」
ジーヴァはオーバーロードの目の前にナイフを突き刺した。
そのナイフの下には一匹の虫が潰れて死んでいた。
「お前もこうなるのさ!はははははは!」
ジーヴァの笑いに左右の男も笑った。
「や、やめてください!」
アイリスの言葉に男達は笑いをやめ、アイリスを見た。
「や、やめてください。その人を殺すなら、先に私を殺して下さい!」
「ア、アイリス……」
「ははははははは!肝が据わってんな嬢ちゃん!ならこう言えよ。自分の処女を奪ってとな!はははははは!」
ジーヴァは冒涜のように台詞を吐き捨て、爆笑する。
「……わ、私の…」
「やめろ!」
「貴様は黙ってろ!」
ロロベリオがオーバーロードの頭を抑えた。
「覇王様!」
「さっさと言わねぇと死んじまうぜ?」
アイリスは歯を噛み締め、目から涙を流した。
「…わ、私の処女を…奪って………下さい」
「悔しかろうなぁ、とても悔しかろうなぁ。お前の願い、聞き届けてやるぜ。最初は俺だぞ」
「うわぁ、ズッル〜」
「仕方ねぇぜ。彼奴がリーダーだしな」
ジーヴァはアイリスに近付き、ドレスを破いた。
「チンケな体だなおい。まぁいい、俺の目的は胸じゃねぇからな」
ジーヴァは舌舐めずりをした。
「…や、めろ……」
「あ?なんだって?ははははは!誰一人救えない哀れな覇王様は確り見てないとなぁ!」
ジーヴァはオーバーロードの元まで行き、髪を引っ張り、顔を上げさせた。
「確り拝め、お前の目でしっかりとな。クヒヒヒヒ、ふはははははは!」
ジーヴァは大笑いをした後、オーバーロードの髪から手を離してアイリスに近づいた。
「しっかり味わえ、嬢ちゃんの最初の相手はこの俺だってことをな!」
「ヤ メ ロ ー !」
オーバーロードが二人の男を跳ね飛ばした。
「うおっ!?」
「なにィ!?」
ロロベリオとファブァリルは吹き飛ばされ、驚いた声を出した。
「これは驚いたな、戦闘力を低下させてもこれかよ」
ジーヴァは地面に落ちている剣を拾い上げた。
「やっぱり変更だ。お前を先に殺す」
オーバーロードは息を切らしていた。
「さて、首を跳ねるのもいいが、やっぱり悲鳴は聞きたいよなぁ」
ジーヴァはそう言ってオーバーロードに近づく。
「……悲鳴を上げるのは…お前の方だ」
「は?今この状態でまだそんな……なんだ、そりゃ」
ジーヴァは足を止めた。アイリスはオーバーロードをじっと見ていた。
龍神剣カタストロフィと朧月エクリプスが黒い靄を揺らしていた。
「黒陰の邪剣よ、白陽の神剣よ、我が意に従い、我が意に応えよ。白夜の白き光と極夜の黒き闇!」
その瞬間、カタストロフィからは黒い靄が、エクリプスからは白い靄が滲んだ。
「貴様を殺す、準備が出来た」
「そんなものでか?戦闘力の低下した貴様など、ゴミ同然に過ぎねぇんだよ!お前ら、殺るぞ!」
三人の男はオーバーロードに武器を振り下ろした。
だが、刃はオーバーロードに届きもせず、吹き飛ばされた。
「ぐおあっ!なんだ!」
体を起こすジーヴァに歩み寄るオーバーロード。
「おら!死ねや!」
「くたばりやがれ!」
ロロベリオとファブァリルが襲い掛かるが、刃に腹を一刀両断された。
「あ、あああああ!」
「天元の地を踏み、世を汚した暴虐者を今ここで処す事を許せ」
歩み寄るオーバーロードにジーヴァは怯えながら下がっていた。
「く、来るな、来るな!」
「天佑が効かなくなればこれか。腰抜けとは言ったものだな」
オーバーロードはカタストロフィを掲げた。
「ま、待ってくれ!なんでもする、なんでもするから!」
「そうか、なら命令をくれてやろう」
オーバーロードの言葉にジーヴァは少し笑みを浮かべた。だが、その笑みは言葉によって消え去ってしまった。
「しっかり味わえ、お前を殺す相手は、この天玉の覇王だ」
オーバーロードの目に光はなく、殺意のみが篭もっていた。
「やめてくれー!」
ジーヴァの遺言を聞いたオーバーロードはカタストロフィを振り下ろし、頭から一刀両断した。
オーバーロードはカタストロフィとエクリプスに付着した血を払い落とし、アイリスの元へ向かった。
「大丈夫か!?」
そうオーバーロードが聞くと、アイリスは泣いてしまった。
「済まない、俺がそばに居てれば」
「こ、怖かったです、覇王様が、死んじゃうかと…」
「俺はそう簡単に死なないよ」
オーバーロードは縄を解き、羽織っていた上着をアイリスに着せた。
「なんじゃ、終わっとんたんか」
オーバーロードは声のする方向を見た。そこには覇王全員が総揃いしていた。それとフロナ。
「お前ら遅いぞ」
「オーバーロードが速すぎんだよ」
「追いつくのにぎょうさん時間かかりやしたさかい、皆さん、疲れはりやしたよ」
「女将さんもでござる」
オーバーロードは軽く笑みを零してアイリスを抱き寄せた。
「やはり使いよったか、冥異天を」
「これは俺の意識無しに発動するから、使ったと言うよりは発動したの方が正しいかな」
そんな話をしていると、鉄の動く音が聞こえた。
「ただでは、死なん!」
何故か生きていたファブァリルがナイフを投げた。
そのナイフは一直線にアイリスの元に飛ぶ。オーバーロードがアイリスを移動させ、攻撃を人為的に回避させた。
「ふ、これで、俺も死ねるぜ」
ファブァリルの言葉が終わった着後、アイリスの首元に切れ込みが入った。
その切れ込みは広がり、大きく血を吹き出した。
「アイリス!」
アイリスの首に傷が深く入っていた。
「ナイフは当たっていなかったはず、何故……まさか、裂傷…」
「とにかく早く手当をしよう!」
アイリスが聞いている音はどんどんと遠ざかっていく。
何度も何度もオーバーロードがアイリスの名を呼ぶ。声からでも分かる。不安な感情が溢れている。
アイリスは最後の力を振り絞り、笑みを浮かべた。
その笑みの後、アイリスの目から涙が、雫が、一滴だけ零れ落ちた。
アイリスの意識は、そこで、途絶えてしまった。
まさかまさかにアイリスが首を切られてしまいました
根太い人達ですね
私はこういうもの達がいちばん嫌いです
倒された時にざまぁと思ってやりましたよ