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奴隷少女は覇王に恋をする  作者: 紺色のアイリス
一項 奴隷と覇王
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悟噺 【習うより慣れろ】

極論ですよね、習うより慣れろ

言われたことは当然ありませんが、そう思う部分は若干です

今回はオーバーロードとアイリスが城下町に居る所からです


 アイリスとオーバーロードは街を歩いていた。城から抜け、散歩…という訳では無い。アイリスの武器を探しに行くことになった。

 アイリスの要望は簡単、オーバーロードと同じもの。


「本当に狼煙輝大剣で良いんだな?」


「はい!それでお願いします!」


 張り切っているのか、いつもより返事の声が大きいアイリス。オーバーロードは頭を掻きながら武器屋を探す。

 ドラゴンロードに寄れば『アルマエクト』という店が良いとの事だった。


「……お、あそこか」


 オーバーロードはそう言って道を逸れる。アイリスもそれについて行く。

 大通りをそれ、人気のない路地に入る。少し暗いが、道は狭くない。


「あ、ここですか?」


「そうみたいだな」


 アイリスが指差し、オーバーロードが反応する。看板がドアの上から吊るされており、そこには確り『アルマエクト』と記されてあった。

 ボロボロで、一見すれば愚民の家だ。しかし、ドアは確りしており、硝子もついている。


「入るか」


「…はい」


 少し緊張しているアイリスと全く物怖じしないオーバーロードが店のドアを開いた。

 店内に鈴のが響き、一人の男が口を開いた。


「へぇ、天帝がお出ましとはこりゃまたどんな要件だ?」


 店主だろうか、少しボサっとした髪に灰色のボロ服を着ていた。容姿は悪い訳では無い。磨けばモテる男だろう。


「俺の連れの武器を要求する」


「あんたさんの相方ねぇ、こりゃまた可愛い嬢さんだ事だ……成程〜?天佑を持つ嬢さんは初めて見るな」


「よく分かったな。流石は『緑眼の天佑』の持ち主だ」


「こんな俺の事知ってんのかい?こりゃたまげたなぁ。と言うより、昔話したことあったな」


 オーバーロードとその店主はどうやら知り合いのようだった。


「あの、お二人知り合いなんですか?」


「そうさ。俺は元『神威かむいの覇王』だからな」


 先代のうちの一人。『緑眼の天佑』を持つ覇王で、異名、心眼に選ばれし猛者。


「そうだったんですね。だから見たことある顔だと」


「え?嘘だろ?顔変えてんだぜ?」


「え、そうなんですか?」


 アイリスは一つ自動に発動される魔法を習得していた。その名は邪眼。魔法や天佑で隠した容姿、情報を見て取れるというものだ。


「ま、そんなことは置いといて、どんな武器を探してんだ?」


「狼煙輝大剣だ」


「こりゃ魂消たまげたな。こんな嬢さんが狼煙を?」


「『龍神剣カタストロフィ』を減量した物はあるか?」


「うーん、そうだなぁ」


 店主は裏方に移動し、武器庫を散策し始めた。そして、一本の狼煙輝大剣を持ってきた。


「これなんかどうだ?」


 店主に渡され、オーバーロードは手に取る。全体的に白く、少し減量された狼煙輝大剣。鉱石による装飾も施されており、とても良い見た目だ。


「性能も抜群だ。名前は、そうだな」


 天佑は手を顎に当て、考える。そして、思い付いたように掌をついた。


「『朧月おぼろづきエクリプス』なんてどうだ?」


「『朧月エクリプス』か。いいんじゃないか?」


 オーバーロードはアイリスに目を向ける。早く持ちたいという感情を込めた目を向けてきている。


「ほれ」


「あ、あれ?あんまり重くない」


「アイリスの天佑には筋力増加があるからな」


 アイリスはカウンタから距離を取り、構える。


「でも、やっぱり重たいですね」


「肩に反りを乗せると楽になるぞ」


「……こう、ですか?」


 アイリスは両手で構えている狼煙輝大剣の反りを肩に置き、片手で持つ。


「嬢さん、様になってんなぁ。剣術でも習ってたりしたか?」


「…いえ、私は愚民育ちですので」


「へぇ、愚民育ちにしちゃあ才能があるんじゃないか?お前もそう思うだろ?オーバーロード」


「そうだな」


 アイリスは肩から狼煙輝大剣を退かし、片手で構えてみる。


「構えられる……」


「これにするか。どれくらいだ?」


「今回はまけてやろう。二十五ヴァリスでいいぜ」


「ん?これぐらいの物なら十万ヴァリスはあるぞ。お前、どれだけまけてる?」


「そいつの素材は集めやすくてな。そんなに金も掛からずに作れるから五十ヴァリスで売ろうとしてた」


 白い武器の素材は大抵白銀系のモンスターから素材を手に入れる。


「そうなのか?」


「だが、もう作る気は無いぜ。俺は同じものを作る気は無いからな」


「ま、そう言うとは思ってたよ。これでいいか?」


 オーバーロードが人差し指で輪を描く。そこから金貨が溢れてくる。


「その魔法、便利だよな。毎度あり」


 オーバーロードは店主に手を振った。アイリスはそんなオーバーロードを見て店主にお辞儀する。


「嬢さん、ちと待ちな。オーバーロード、お前は出てろ」


「早くしてくれよ」


 オーバーロードはそう言って店を出る。


「なんですか?」


「いつも刃を剥き出しにした状態は危ないからな。鞘を付けてやろう。それと、オーバーロードについてだ」


 店主はそう言って鞘を持ってきた。鞘も白く、いかにも天使の持つ物のようだ。


「オーバーロードはな、実は愚民育ちなんだ」


 店主の言葉に驚きを隠せずに声を上げそうになったアイリス。店主は急ぎ口を塞いだ。


「この話はここだけにしろよ。奴はな──」


 店主はアイリスにオーバーロードの事を話した。


  ◇◇ ◇◇


「お待たせしました」


 アイリスが店のドアを開き、オーバーロードに遅れの報告をする。


「あぁ。鞘、貰ったんだな」


「はい。刃が剥き出し状態は危ないからって言ってました」


 アイリスの貰った鞘は背鞘せさや。肩からかける感じだ。


「用も済んだし、戻るか」


「そうですね」


 オーバーロードとアイリスは城に戻る。道中色々な人からアイリスの持つ狼煙輝大剣を見る人がいた。それもそうだ。こんなに小さく、か弱そうな少女が殺傷力の高い武器を持っているのだから。

 二人は城につき、庭に移動する。


「武器を振るのは……初めてか」


「はい。初めてです」


 それにしては店で構えた時の収まりがよかった。


「まずは構えてくれ」


「はい」


 アイリスは背鞘からエクリプスを抜き、肩にかけた。


「……やはり様になってるな。本当に初めてか?」


「?…はい。初めてです……そんなに信用無いですか?」


「まぁ、そこまで様になってたらな」


「様になってるんですか!?」


 アイリスは少し嬉しそうに言う。


「あぁ。初めてとは思えないぐらいな」


「そうですか…様になってる、か」


 アイリスは独り言のように呟く。


「取り敢えず、始めるか」


「はい」


「先ずは……いや、実践する方がいいな」


「え?それって……」


 アイリスはオーバーロードの言葉に少し違和感を覚えた。

 案の定であった


「来い」


 オーバーロードの地面にカタストロフィが突き刺さった。少し前のようにやはり熱を帯びている。

 オーバーロードはカタストロフィを抜き、肩にかけた。


「よし、やるか」


「い、いやいやいやいやいや!やるかじゃないです!私を殺す気ですか!」


「いや、俺は攻撃はしないぞ。防ぐだけだ」


「そんなこと言って、それでもし私が覇王様を傷つけたら大変なことに…」


「なに、問題は無い。俺は剣術的才を持ってる。大丈夫だ。」


 アイリスは少し考え、不本意だという顔で回答した。


「そうでしたなら、分かりました」


 アイリスは片手で構え、オーバーロードの剣先を向ける。


「来い!」


 アイリスは踏み込み、走り出す。

 オーバーロードはその時衝撃を受けた。目の前でアイリスが転けた。


「あはははははは!」


「い、いった〜」


 誰が見ても面白い。アイリスの体力で走ってしまえば流石に転ける。


「もう!笑わないでください!」


「だ、だがな、ははは!」


「〜〜〜〜〜〜〜!もう良いです!では、行きますよ!」


 アイリスは立ち上がり、構える。


「あ、あぁ、来い!」


 オーバーロードは笑いを止め、アイリスを待ち構えた。

 アイリスは目を瞑り、低く姿勢を落とす。まるで武士のように。

 アイリスがまた踏み込んだ。だが、次は別の衝撃をオーバーロードに与えた。


「のわっ!」


 オーバーロードがしゃがんで回避する。顔スレスレを通過する刃。


 ──速っ!嘘だろ!此奴、もしかして天佑二個持ちか!?


 オーバーロードは距離を取る。だが、後方に飛び、足を着く直前、既にアイリスが目の前にいた。


「くっ!」


 金属の擦れる音。オーバーロードがアイリスの攻撃を受け流し、反撃してしまう。


 ──やべっ!


 歯止めが効かなくなり、そのまま振り下ろした刃はアイリスに躱され、反撃されてしまった。


「うおっ!」


 オーバーロードは体を横に動かし、回避する。


 ──嘘だろっ!視力を失った状態であれ避けれるのか!こいつはやばいぞ!


 オーバーロードは距離を取り過ぎずに後退る。

 目を瞑っているアイリスは何故かオーバーロードの位置を把握している。


「はあっ!」


 アイリスが声を張り、攻撃する。オーバーロードは受け流すと同時にアイリスを投げ飛ばす。

 それでもアイリスは目を開かず、空中で体勢を整えて反撃して来る。



「はっ!」


 オーバーロードは受け流すと同時に攻撃を行う。反りがアイリスを捉え、後方に吹き飛ばした。


「あ!悪い!」


 オーバーロードはアイリスに近付く。


「あ、あれ?私は何を?いっ!」


 アイリスは目を覚まし、立とうとしたが、肩に走る衝撃で立てない。


「アイリス、大丈夫か?」


「い、痛いです。何が、あったんですか?」


 記憶が無いアイリス。酒を飲んだ訳でもない。


「アイリス、お前はもしかしたら天佑の二つ持ちかもしれない」


 オーバーロードはアイリスを立たせる。

 天佑の二つ持ち。世界で天佑を持っている者の半分ぐらいは居ると言われている。天佑とはそもそも、生まれつき持っている訳では無い。いつの間にか手に入れているものだ。

 だが、稀に生まれた時に天佑を持っている場合がある。


六等級シクシズレイヤーの探知系魔法で探知できないってことは天佑の効果で伏せられてるのか。アイリス、自分で見れるか?」


「どうすれば、良いんですか?」


 自らの情報を確認する方法がわからないアイリス。


「脳に意識を向ければ自らのステータスを確認出来る」


 オーバーロードの言葉を信じ、アイリスは目を瞑って脳に意識を向ける。


「…………天佑、二つありました」


「名前と効果を教えてくれ」


「はい」


 英知の天佑

-条件反射能力上昇 対敵者弱体化 剣術 幻影魔術発動不可 遠距離攻撃防御【一時的】 大地の泉 知人との共鳴 全能力上昇 想像力上昇 無視力状態によって英知の天佑発動可能 一時記憶喪失 探知系魔法無視


「こんな感じです」


「視力を無くすと強くなる感じか」


 目を瞑らなければ使えない天佑。こういう系統の天佑は他にもあるが、あまり多い訳では無い。


「まぁ、いいか」


 オーバーロードとアイリスが少しの間雑談していると、声が聞こえてきた。


「お前らー、飯出来たぞー」


 エンペラーロードの声だ。昼ご飯が出来たことを報告しに来たのだろう。


「了解だ。行くか」


「そうですね」


 アイリスとオーバーロードは見つめ合い、笑ってから戻った。


  ◇◇ ◇◇


 オーバーロードがアイリスに二つ天佑があると告げると、全員とても驚いていた。


「うそ〜、アイリスが天佑をふたつ持ってるの!?」


「僕は一つしかないのに」


「ん?オーバーロードも二つなかったかの?」


 ビーストロードの問いかけにオーバーロードが頷き答える。


「一応は持ってるが、少し特殊だからな」


 オーバーロードの言葉に興味をそそられたドラゴンロードが問いかけた。


「特殊って、どう特殊なの?」


「それはまた見てからの御楽しみな。因みに探知系魔法効かないからな」


「えぇー?いいじゃん教えてくれたって」


 ドラゴンロードと一緒で興味をそそられていたぺザントロードが少しねるように言う。


「俺も説明しづらいから」


「儂が説明しようか?」


「……遠慮する」


 オーバーロードの持つもう一つの天佑にはいい思い出がないように思える。

 アイリスも興味を持っていたが、オーバーロードが御楽しみと言った為、御楽しみに取っておくことに。


「それにしても、アイリスちゃんが狼煙輝大剣を持てるなんてねぇ」


 ルナティックロードの言葉にイノセントロードが煙管を吸いながら答えた。


「そうどすなぁ、本来なら狼煙輝大剣は所有者を自ら決めはりやす。そう出ないと狼煙輝大剣は持てんのですさかい」


「そうなんですか?」


 アイリスの天佑の能力には武器使用上限解放などの能力は付与されていなかった。そう考えると狼煙輝大剣に意志がないのか、それともアイリスを主人に選ばれたのか、どちらかだろう。


「考えててもしょうがないだろ。とにかく食べるか」


 オーバーロードはそう言ってシチューを口に運ぶ。

 オーバーロードとアイリス、エンペラーロード以外は食べ終わっており、椅子に座って雑談している。


「そう言えば、アイリスは魔法とか剣術とか、進歩はあったか?」


 エンペラーロードの問いかけにオーバーロードは呆れのようにため息をついた。


「天佑が凄すぎるな」


 天佑に剣術と魔法習得率百倍が付与されている時点でここまで進歩が凄いのかと実感したオーバーロード。


「元々魔法レベルは四だったんだろ?今はどれくらいなんだ?」


「六です」


「え、六!?」


 エンペラーロードが驚くのも無理はない。魔族でさえレベルを二個あげるなどかなりの鍛錬がいる。それに、それを短時間で終わらせたアイリス。やはり天佑に救われている部分が大きいだろう。


「アイリスはん、魔力量が多いどすなぁ。良い天佑、手に入れはりましたんとちゃう?」


「覇王様方の天佑を見てから私のが凄い天佑なのかが少し分かりません」


 アイリスはそう言って水を飲む。


「それもそうなるわな。まぁでも、おいはアイリスの天佑も凄いと思うぞ」


 そう言ってインフェルノロードはアイリスを褒める。アイリスは納得したようでしていない中途半端な顔で飯を食べる。


「そうそう、今日の晩は軽い宴にしましょう。アイリスがオーバーロードの元に来た祝いとしてね」


「それは名案でござるな」


「僕も準備手伝うよ」


「こりゃまた夜が忙しくなるな。アイリス、どうする?また鍛錬をするか?」


「……ん……はい!」


 アイリスは口に入っていた物を飲み込んでオーバーロードに答えを述べた。

天佑二つ持ちは凄いですね

食事中に喋らないって礼儀正しいことです

私は時々喋りますね(苦笑

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