餐噺 【能ある鷹は爪を隠す】
時間がかかります
それでも書きたいからかいてるんですけどね
今回はオーバーロード達の会話から始まります
オーバーロードは呆れるようにため息をつき、ドラゴンロードに言葉を投げかける。
「だから言っただろ。元暗殺者を執事にしない方がいい」
「まさか反乱を起こすとは思わなかったわ」
「お前さん達、何を呑気なことを言うとる?ファスターの仲間じゃ、ファスターよりも強いものがおるかもしれぬ」
「それはまずぃな」
「何奴も此奴も巫山戯やがって。せめてこの会議が終わってからにしやがれくそが」
「口が悪いですよインフェルノロードさん」
「某、少し要するを見てくるでござるよ」
「よろしくお願いしますよ」
サムライロードが姿を消す。
「そうねぇ、殺さない程度に叩きたいのだけれど……」
ドラゴンロードの言葉にインフェルノロードが舌打ちをしてから言った。
「甘いなドラゴンロード。一度生かし、執事として迎え入れた。それをも尚襲いかかってくるということは、奴はやめる気は無い」
それもそうだろう。助けられた命を捨ててでもドラゴンロードを討ち取ろうとしている。諦める気など毛頭ないはずだ。
「取り敢えず、サムライロードが帰ってくるまでは動かないようにしましょう」
コンケストロードがそう言った直後、サムライロードが戻ってきた。
「どうでした?」
「これはちとまずいで候」
サムライロードの言葉に一同は息を呑む。
「何かあったのか?」
オーバーロードの問いかけにサムライロードは薄れ気味の声で言った。
「敵の軍勢約七万」
「七万じゃと?こりゃあ一本、いや二本は取られたのう」
「呑気なことを言っている場合ではないでござるよ。仲間の数名に名のある暗殺者が混ざっているでござる」
名の知れた暗殺者は国が覇王を雇うほどの手練暗殺者だ。
「その内の一人に『ローレイラ』がいたでござるよ」
ローレイラは世界で一番名を上げている暗殺者。もしかすると覇王さえも殺せてしまうほどの力を持つと言われている。
「さて、どうしますかね?」
メモリーロードの言葉にドラゴンロードが口を開いた。
「こうなってしまえば仕方がないわ。生かすことを止め、全力で潰すわよ」
「ようやっと気持ちが固まったか、気持ちが固まるのに五分も掛かったじゃねぇかよ」
インフェルノロードはそう言って立ち上がる。
「おいは先行ってるからな」
先陣切って歩き出した。その後ろを十一人がついて行く。
「アイリス、お前は此処で待っててくれ。流石に危ない」
「いえ、ついて行きます」
「駄目だ」
オーバーロードはアイリスの肩を掴み、しゃがむ。
「どうして言うことを聞いてくれない?俺はお前に死んで欲しくないんだ」
「もう、一人になりたくないです」
声のトーンが低くなり、悲しい声を出す。過去の記憶を嘆いている。
覇王全員が足を止め、オーバーロードとアイリスを見ていた。
「……死ぬかもしれないんだぞ?」
「私は多少、魔法を心得ています。防御魔法なら使えます」
「…………防御魔法など宛にならない。本当に死ぬかもしれないんだぞ?それでも尚行くと言うのか?」
「……私は、最初死ぬ気でした。覇王様に出会わなかったら、死ぬ気でいました。覚悟なら出来ています。それに、私には覇王様達がついています」
そのアイリスの言葉にドラゴンロードが口を開く。
「私達が必ずしも守れるとは、限らないのよ?」
「……分かってます。それでも、私には覇王様達がついていますから」
アイリスの目は真っ直ぐに、何かを見据えていた。
「いいんじゃねぇのか?オーバーロード。アイリスも本気だ。それに、昔のお前にそっくりだ」
「最後のは無視しておこう。分かった。但し、約束だ」
そう言ってオーバーロードはアイリスの頭に手を置き、真剣な眼差しで言葉を発した。
「死ぬなよ」
「はい!」
オーバーロードの言葉にアイリスは元気よく答えた。
◇◇ ◇◇
城はもう包囲されていて、かなりの人数が目に見えてわかる。
「出てこい覇王共!」
一人の男がそう言う。それの応答としてドアが開き、第十二戒覇とアイリスが出てきた。
「貴様らに選択肢をやろう!」
男がそう言うと、インフェルノロードが口を開く。
「交渉とはまたこりゃ丁寧だな」
そんなことを思うのもつかの間、男からの要求にオーバーロードが苛立ちを覚えた。
「貴様らの選ぶ選択肢は二つ!大人しく俺達に殺されるか、その女を俺達に受け渡すかの二択だ!」
オーバーロードは舌打ちした後、アイリスを寄せる。
「お前ら、最初からアイリスが目当てだったのか」
オーバーロードは怒りに震える腕をいなし、深呼吸する。
その隣、エンペラーロードが回答をした。
「俺様達が選ぶのは第三の選択だ!お前ら全員、鏖だ!」
エンペラーロードの言葉が終わった直後、七万の軍勢が揺らいだ。
七万の軍勢に乗り出したのはインフェルノロードだった。
「やっぱり突っ走りやがったか」
エンペラーロードは首から掛けている黄色の結晶を砕いた。中から液体が姿を現し、形を成す。その液体は黄色の長剣と成した。
「私も久しぶりに武器使おうかしら」
ドラゴンロードはそう言って指を加え、指笛をした。
「GAAAAAAAAA!」
空から赤褐色の竜が降りてきた。
「大暴れするわよ、プリズナー」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
ドラゴンロードは赤褐色の竜、プリズナーの背中に乗り、プリズナーの横脇にある竜剣を手に取った。
「武器あっていいっすねぇ。俺っちは武器ないってのに」
デビルロードは歩き出し、正面から素手で攻撃し始めた。
「うむ、また今度、デビルロードに武器でもやろうかの」
ビーストロードは手に斬鉄を付け、敵に殴り掛かる。
「物騒な戦い方が好きみたいですな」
「メモリーは物騒なの好きじゃないの?」
「なに、大好きに決まってますだろ」
メモリーロードは指を頭に刺す。そして、頭から取り出したのは弓だった。
「僕も久しぶりに楽しめそうです」
コンケストロードはそう言って自分の腕に巻いてある細い鉄枷を外した。その鉄枷は見た目を変え、見たこともない物になった。
″L″を逆にしたような形のものだ。
「その武器は禁教したはずなんだけど、まぁいっか」
ぺザントロードはそう言って指に嵌めていた指輪を取り、地面に叩き弾いた。指輪は形を変え、大きな両刃剣になった。
「ひと暴れとあらば、某も楽しむでござる」
サムライロードは腰に携えてあった武器を取る。片刃の細身、鍔がついており、振りやすそうだ。
「うちも、楽しまんとそんどすな」
イノセントロードは長い髪を後ろに弾き、ピヤスを二つ手に取る。そのピアスにキスをした直後、ピアスは仙斎茶色の両刃剣と青磁色の両刃剣へと変化した。
「アタイも頑張ろ」
ルナティックロードは自らの胸股を探り、四角いコアを取り出した。ルナティックロードはそのコアを上部に投げた。
すると、コアは姿を変え、死神の持つような鎌になった。
「全員武器で戦うのか。まぁいい、俺も久しぶりに武器使ってみるか」
オーバーロードはそう言うが、コアやアクセサリーなどのものを一向に取り出さない。
「……来い」
オーバーロードはただ一言言った。
すると、何処からか武器が飛んできた。オーバーロードの前に地面に突き刺さり、熱を帯びている音を放つ。
「……剣?」
アイリスは見たことも無いものだった。武器としての見た目はそうだが、剣とは違う。
オーバーロードは地面に刺さった武器を手に取る。
「俺の神器だ」
オーバーロードはその武器を一振りした。オーバーロードとアイリスに向かっていた敵の体が横一等に切れ目が入る。
オーバーロードはアイリスの目を隠し、見せないようにする。
「アイリス、俺はここから動かない。お前も動くな」
「わ、分かりました」
アイリスは目を隠された状態でオーバーロードの服を掴む。
「おう!オーバーロードが狂轟剣を使うなんて珍しいな!」
エンペラーロードが敵の首を切りながらそう言う。
「アイリスを守る為だ」
「きゃははははは!」
敵を殺すのに楽しみを覚えているルナティックロード。首を切り落とす前に必ず足と腕を落とす。
「ルナティックロード、殺すのに楽しくなるのはいいが、アイリスがいることは忘れるなよ」
「……あぁ、ごめん」
エンペラーロードに言われ、我に返ったルナティックロードが謝る。だが、それでも足と腕を先に落としている。
「アイリスくんはオーバーロードが目隠ししてるようじゃし、良いじゃろう。久々に人を殺す感覚を味わえとるんじゃ。少しは良いじゃろ」
「ま、それもそうか」
エンペラーロードは納得して敵の両目を潰す。
「ぐああああ!目があああああ!」
「はい、ドーンです」
コンケストロードがエンペラーロードの獲物の脳を撃ち抜く。
「あ!おいコンケストロード!俺様の獲物とんなよ!」
「すみませーん。煩かったものですから」
コンケストロードは笑顔で言いながら後ろから襲ってきたひとりの喉仏を撃つ。
「あらあら、返り血は浴びないように」
ドラゴンロードは竜無双をしながらそう言う。コンケストロードの肩に返り血が付着したのを見たのだろう。
「すみません、かなり近距離でしたので」
「 ″ 銃 ″ の扱いは程々に」
サムライロードが敵の腹を一刀両断して注意する。
「そう言うサムライロードも返り血浴びてるじゃねぇか」
「この服は時間が経てば血を消すという効果があるんでござるよ。だから返り血を浴びても対して気にしてないで候」
インフェルノロードに言われ、対応するサムライロード。その隣でイノセントロードが返り血を浴びないように項を切り落とす。
「サムライロードはんは相変わらずどすなぁ。そういうところも、面白っ面白いどすえ」
イノセントロードはサムライロードを面白いと言って敵を倒す。
「本当、変わらないよな」
オーバーロードは向かってくる敵を斬風のみで倒している。
そんなオーバーロードに声がかかった。
「お前が、オーバーロードか」
オーバーロードは声のする方向に目を向ける。上だ。
「そうだ。貴様がローレイラか」
見た目は女性だが、口調や服装などから見るに女性として見られたくないのだろう。
「女か。悪いが、俺は女を傷付ける趣味はないんでな」
オーバーロードの言葉にローレイラが怒り、武器を振る。だが、その武器はオーバーロードに届かない。
「残念ながら、貴様は俺と戦う資格がないようだ」
ローレイラは何かに弾かれ、足を地面にすらせる。
「ちっ。イカサマ使ってんじゃねぇ!」
「これだから嫌いなんだ。貴様みたいなクソガキはな」
オーバーロードの睨みに怯むローレイラ。
アイリスの方を向き、オーバーロードはアイリスに言った。
「防御魔法を張るんだ。そして、血を見たくなかったら目を閉じろ。いいな?」
「はい、分かりました」
アイリスは三歩ほど後ろに下がり、防御魔法を張る。
「十倍強化」
オーバーロードが口に出すと、アイリスの張った防御膜の色が黄緑から薄紫になった。
「俺はやる気になったが、お前はどうだ?ローレイラ」
「はっ、やるに決まってんだろ」
ローレイラはダガーを両手に握る。
「ほら、早く来いよ」
オーバーロードの言葉にローレイラは少し苛立ち、攻撃する。だが、全て避けられ、受け流される。
「遅いな。それでも暗殺者か?」
「馬鹿にすんなこの ″ 愚民 ″ が!」
オーバーロードは眼光を引き、ローレイラの首を斬った。
「……残念だな、お前は、俺の逆鱗に触れた」
ローレイラは驚きの顔をしたまま頭を地面に落とした。それと真反対になるよう、体がうつ伏せに倒れた。
「や、やべぇぞ、ローレイラが倒された!」
ローレイラが倒れたことは全員に知れ渡る。
「に、逃げろ!」
一人がそう言う。だが、オーバーロードからは逃げられなかった。
「追い殺せ、象雷」
「「「「「うわああああああ!!」」」」」
敵は血の一滴も残さずに焼き消えた。
「あ!ちょっと!アタイの獲物取らないでよ!」
「悪いな、敵全員に照準を向けてたからな。仕方ない」
「仕方ないじゃない!」
「まぁまぁ、良いじゃろ。これで一件落着じゃわい」
「そうですね。お疲れ様です」
アイリスはその言葉を耳にし、目を開いて防御魔法を解除した。敵の姿が跡形もなく消えているのに驚いていると、オーバーロードが声を掛けてきた。
「大丈夫か?」
アイリスはオーバーロードの元まで歩き、頷いた。
「はい。あの、敵の方々は?」
「オーバーロードが全員焼いた」
「や、焼いたんですか?」
エンペラーロードの言葉に驚いているアイリス。オーバーロードは頷き、エンペラーロードに言った。
「もうちょっと言葉を選べ」
「合ってるだろ?」
「間違いではないが、相手は少女だ」
オーバーロードは武器を地面に突き刺した。武器は灰となり、消えて行った。
「あの、今先程の武器はなんですか?」
片刃の剣。反りが弓のように彎曲してあり、刃の長い長剣のようだった。大きさも大きく、柄と鍔までもが黒く染められていた。
「あれはオーバーロードの神器だな。名前は確か、狂轟剣ヘルフレアだったっけ?」
「それは三つ目の名前じゃな。正確には極夜黒剣じゃあ、なかったかの」
「それは七つ目の名前じゃない?黒翼の刃じゃなかったっけ?」
「それは五つ目よ。レレフェキナでしょ?」
「そりゃあ四つ目の名だな。あれだろ?フレストディナーじゃないのか?」
「九番目ですね、それ。一番目は確か…神器モルフェイスでしたっけ」
「コンケスト、それは君の神器ですぞ」
全員がそんなことを言い合っているため、アイリスは混乱していた。
「一番目の名前は『龍神剣カタストロフィ』だな。」
オーバーロードの言葉に全員が納得する。
「『カタストロフィ』、ですか?」
「あぁ。この剣は元々『虚煤の覇王』が使ってた武器だ」
虚煤の覇王、嘘をつく相手を炎煙によって窒息させるという異色の力を持った覇王が居たとされている。
その覇王が副器として使っていたと言われるのが『龍神剣カタストロフィ』。又の名を狂凶腐剣バーサーカー、極夜黒剣、黒翼の刃などがある。その数十個以上を誇るという。
「どうして覇王様が持ってるんですか?」
「なんでだったっけな」
オーバーロードは手を顎に当て、考える。
「ある日突然お前さんの前に飛んできたんじゃろ。本来なら国宝剣として王家が使う予定であったが、お前さんを剣が認めたから王家が諦めた。確か、こうだったはずじゃ」
「へぇ、そうなんですね」
「興味があるんとちゃいますん?」
イノセントロードの言葉にアイリスは軽く頷く。
「少しは興味がありましたが、聞いてみると案外興味がなかったんだなと」
「マイペースですな」
「GRUUUUU」
赤褐色の竜、プリズナーがアイリスの元まで行き、何故か匂いを嗅ぎ始める。
「な、なんですか?」
「新しい人だから気になってるのよ」
プリズナーは匂いを嗅ぎ終わると、尻尾でアイリスの頭を撫で始めた。
「えっと、え?」
「これはこの子の愛情表現よ。認められたってことね」
「プリズナーも相変わらずだな」
オーバーロードは手をポケットに入れ、ため息をついた。
「トラブルも晴れたことだし、会議始めよか」
インフェルノロードの言葉に全員が賛成し、十三人プラス遣いの十一人は城へと入って行った。
なんとか勝てましたね
いや、圧勝でしたね
流石は覇王と言った所でしょうかね