6 甘いお菓子は暴発の味?
「クレア、最近出来たお菓子屋は知ってる?」
「えっ!なにそれ!」
改めてお互いのパートナーへの気持ちが重なった所で、ラスフィードは話を切り出す。お菓子を作るのが好きなクレアフューナを喜ばせるには、やはりお菓子だ。
魔道具の店に連れていって、テンションが上がらなかったりした時の保険で調べておいたが、やはり食いついてきた。
クレアフューナの手をしっかりと、たださりげなく、恋人繋ぎに握ったまま、ラスフィードはこっちと案内する。恋人繋ぎで握られたことにクレアフューナは気付いていたが、離すことなくゆっくりと握り返した。
握り返してくれたことが嬉しかったラスフィードは、クレアフューナに見つからないように「よしっ」と呟いたのだった。
「…マジカルスイーツ?」
店の看板に書かれた謳い文句を呟くと、ラスフィードは説明する。
お菓子を作るときに色々な魔法をかけて仕上げるらしい。クッキーならば火の魔法、ゼリーならば水の魔法というようにおまじないのように魔法をかける。
「属性の加護を伸ばすような、補助魔道具扱いになって、それがまた美味しいから最近人気なんだって」
「面白い!私も上手く使えるようになったらやってみたいわ」
わくわくが止まらない様子のクレアフューナを、くすくすと笑いながら優しい視線を向ける。その視線に気付いたクレアフューナは、どうかしたのと言いたそうな表情をラスフィードに向ける。
何でもないと伝えて首を横に振り、店内に入るよう促す。店の中はたくさんの人でいっぱいだった。色々な効果がついたお菓子が種類豊富に並んでいる。
「クッキー、ビスケット、ゼリーにプリン。あっちはパウンドケーキにシフォンかぁ…どれにしよう」
小さな籠を手に取り、どれにしようと悩むクレアフューナだったか、悩んでいる割に籠を持たない手があちこちに動き、籠の中にお菓子をいれていく。
そんな行動に驚くラスフィードだったが、辺りを見ると店内にいるどの女の子も似たような行動に出ていた。
「あ、でもスノーボールクッキーがないわ。今度作ろうかしら」
「何そのクッキー」
「聞いたことない…か。あのね、さくさくほろほろのとても美味しいクッキーよ。材料はあるはずだから、今度ラスフィにも作ってあげるね」
約束っと右手の小指を立てて、ラスフィードに見せる。ラスフィードもにっこりと笑い、約束だからなと答えた。
店内をぐるりと回ると、レジの横に調理している様子がみられるコーナーがあった。客の皆はちらっと見て去っていくが、クレアフューナは食いつくようにその様子を見ていた。
中の人は手際よく調理をしており、とても勉強になる。もっと詳しく、温度管理などの話も聞きながら見たいなと思っていると、魔宝石がついた泡立て器を調理士は持ち出した。
これが属性付与の瞬間か!とクレアフューナは更に食いついていく。ラスフィードはそんなクレアフューナをくすくすと笑いながら見つめる。
「……あれ?」
「どうかした?」
「中の人の様子が…」
クレアフューナの言葉にラスフィードは中の様子を見つめる。調理士は何やら焦り、混乱している様子だ。冷静に分析して見てみると、どうやら魔宝石の光り方がおかしいのに気付く。
「クレア!離れて!」
ラスフィードがクレアフューナの右手を引っ張った瞬間、調理室が爆発する。店内は急な爆発音に混乱する。
クレアフューナは中にいた職員が心配になり、視線を向けると間一髪で泡立て器から離れ、怪我はしていない様子だった。
「ラスフィ、大丈夫?」
「俺は平気、ただ…逃げる方向を間違えたな、瓦礫に塞がれた」
ラスフィードは腰にぶら下げていた剣を引き抜き、魔法で風を起こし、瓦礫をどかしていく。辺りを見ると、職員始め店内にいた客は2人を除いて逃げることが出来たらしい。
手際よく魔法で瓦礫をどかしているラスフィードの背中を見つめていると、後ろの方からクレアフューナは何かを感じた。
「……?」
クレアフューナの視線の先にあったのは、魔宝石の魔力が暴発した泡立て器。光り方が先程よりも眩く、魔力が膨張しているのがわかった。そしてその魔力は、ラスフィードの風魔法に反応しているとクレアフューナは直感的に感じた。
ーラスフィに伝えていたら、間に合わないっ!
クレアフューナは全力で魔力を発動させ、膨張した魔力をこちらに反応させる。ラスフィードはまだ異変には気付いていない。
爆発する。クレアフューナが感じた時、ラスフィードもようやく気が付く。
ラスフィードは急いで術式を衝撃中和に変更しようとするが、間に合わない。クレアフューナを庇おうとラスフィードは手を伸ばし、自分の体を盾にして座り込む。
クレアフューナは発動していた自分の魔力に、ありったけの思いを込めた。
ーどうか、この人を…ラスフィを守ってっ!!
その瞬間、店が大きな音を立てて爆発した。
辺り一面砂ぼこりにつつまれ、何も見えなくなった。収まってから見えてきたのは、爆発に巻き込まれたのにほぼ無傷のクレアフューナとラスフィードだった。
「クレア!しっかりしろ!」
「ラス、フィ…怪我は?」
「俺は平気だ…」
爆発に巻き込まれたのにほぼ無傷なのは、何故か。ラスフィードは考える。魔法で出来るのは衝撃の中和だけ。無傷でいられるような防御魔法は存在しない。だか、今の自分達はどうみても何かに守られ、助かった。
「…クレア?」
「ごめん…ちょっと、疲れ……た」
ゆっくりとまぶたを閉じ、クレアフューナは規則的な寝息を立てる。爆発の影響で気を失ったわけではないとわかると、ラスフィードは安堵の溜め息をつく。
そうして、クレアフューナの左手にはめられた指輪の魔宝石が淡く光っているのに気が付く。
爆発の時ラスフィードが一瞬見えたのは、クレアフューナから溢れだした魔力が自分達を包む様子。もしやそれが自分達を守ったと言うのか。昨日基礎の魔法すら成功させることの出来なかったクレアフューナが、存在しない魔法を生み出したというのか。
「無属性……本当に、そうなのか?クレア」
その答えを誰も出してはくれず、張本人は安心した笑顔を浮かべながら眠っていた。
甘いのどこ行ったぁ!?(゜Д゜≡゜Д゜)?
すみません、のびのびですが次回こそ甘くします!