4 操作出来ても落ちこぼれは落ちこぼれ
「そうそう、上手いよクレア。そのまま、続けて」
次の日、授業は休みだが授業棟の自習室で魔力操作の練習をするクレアフューナとラスフィード。
本当は1人でやろうとしたのだが、ラスフィードがパートナーだからと練習に付き合ってくれたのだ。
「……ふぁ」
魔力の放出の練習を続けるクレアフューナ、魔力量が多いとはいえ今まで使ったことがなかった魔力を使うのは、体に負担がかかる。
練習を始めて1時間。体力の限界が来た。
「お疲れ様、クレア」
ラスフィードは体の力が入らないクレアフューナの体を支え、そっと椅子に腰かける。そしてクレアフューナに飲み物を手渡す。
「ありがとう、ラスフィード……」
もらったお茶を一口含むと、体中に魔力が駆け巡る。これは、クレアフューナの魔力ではない。それに気が付いたクレアフューナは、急いでラスフィードの顔を見る。気付かないと思っていたラスフィードは、クレアフューナが気付いたことに満足気に頷く。
「随分魔力感度も上がったな、クレア」
「これは…?」
「魔力操作の応用だ。他の物に自分の魔力を流し、共有させる。つまり疲れたクレアを楽にさせるために、俺の魔力を少し渡したことになる」
さらりと伝えるラスフィードに、クレアフューナは詰め寄る。そんなことをしてラスフィードの体は辛くないのか。そう心配すると、ラスフィードは顔を赤くしながら、大丈夫と答える。
良く考えれば、ラスフィードもアメジストの名前を持っている。そう簡単には体に堪えたりはしないだろう。
「少しは体が軽くなったんじゃないのか?」
「えぇ、ありがとう。これならすぐに練習に戻れそう」
よいしょと立ち上がろうとするクレアフューナの腕を、ラスフィードは急いで掴む。不思議そうな表情でラスフィードを見つめると、首を横に振った。
確かに魔力が少し戻り、体調が良くなったように感じるがそれは一時的なもので、体に馴染むまでには1時間はかかるそう。
「クレアの魔力が戻るのを待った方がいい。今のは休んでいる間を更に楽にしてやることしか出来ない」
「そうなのね。私にもいつか出来るかしら」
「出来る、今のクレアならな」
クレアフューナの頭をぽんぽんと叩き、それから優しく撫でる。前世でも彼にされたことがない甘い体験に、休憩どころではない。ただとても心地好い。昨日も感じたが、ラスフィードの横はとても心地好く気持ちが落ち着く。
ーそういえば、和彦。どうしてるんだろ。
死ぬ前に別れた元彼、羽山和彦。そこそこかっこよく、人気があった。3年になってすぐに和彦に告白され、付き合い始めた。
デートも何回かしたが、そこまで盛り上がることはなく。和彦の好きなラノベの話の時だけは盛り上がった。だから、たくさんのラノベを読んだ。
ただし、男性が好むものなのでハーレムやらそういうのが多かったので、ちょっといただけないこともあったが。
ー死んでから、向こうでは何年なんだろ。もう、御影双葉のことなんて、みんな忘れているんだろうな。
未練がないわけではないが、そんなに執着もない。まだ生きたかったとは思ったが、すぐにこうして転生出来た。似たような境遇から始まったが、それはそれで人生の続き感があっていい。
「クレア、大丈夫?」
「ん…ラスフィ…?」
「良く眠っていたから起こすのが申し訳なかったくらいだ」
どうやら、眠ってしまったらしい。クレアフューナにとってほぼ初めての魔法、体に負担がなかったわけではない。前世のことを思い出したのは、夢を見ていたからだった。
寝ている間、ずっとクレアフューナに肩を貸していたラスフィードは、立ち上がりうんと背伸びをする。申し訳ないことをしたと感じたクレアフューナは、すぐにラスフィードに謝る。
「謝らなくていい。…それよりもさっき、寝ぼけてラスフィって呼んだだろ?」
「うん」
「それ、何だか気に入ったから…ラスフィって呼べよ。それで枕係の貸しはチャラな」
子供っぼい笑顔を向けられ、断るに断りきれなかったクレアフューナは、頷くしかなかった。
寝ていた時間は大体30分くらい。ラスフィードの魔力とクレアフューナの魔力の回復で練習出来るまでに回復した。クレアフューナは魔力操作の練習を再開する。
ー†ー
「ふぅ…どうにか出来るようになったかしら?」
時刻は夕方。日も沈みかけている。クレアフューナは休憩を挟みながら、魔力操作の練習をずっと続けた。ラスフィードもずっと付き合ってくれ、申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「操作の練習は大丈夫だろ、じゃあ…属性だ」
「…うん」
図書館から借りてきた本には、まず基本の魔力操作、次に4大元素、応用で特殊属性と練習していく。人それぞれ属性を持っているが、得意属性というわけで、全く使えないわけではない。その為基礎練習として属性が入ってくる。
ラスフィードは腰にかけていた剣を抜き、剣先に火を纏わせる。
「これが俺が得意とする、魔法剣。そして基本の火。慣れれば呪文なしで発動出来る。…呪文は覚えているか?」
「昨日、覚えてきたわ」
クレアフューナは自信たっぷりに頷く。無属性だって、落ちこぼれだってきっと出来るはず。操作が出来なかったから属性が現れなかった、クレアフューナは本を読んで結論付けた。
魔法は媒体を使用しなくとも発動は出来る。しかし、その属性の媒体があれば発動しやすくなるとも書いてあった。クレアフューナは学園から各属性の媒体の貸し出しを申請し、ここに持ってきていた。
ちなみに、そこの受付でもなんでお前がという顔をされたのは、忘れない。
「いきます」
火属性の媒体杖を持ち、魔力を杖に流す。練習の成果は出ている、ラスフィードは力強く頷き、クレアフューナも笑顔で頷いた。
「暖かな火、現れよ!ファイア!」
呪文を唱える。しかし杖からは火が姿を現すことはなく、杖から魔力が引いていく。呪文は間違えていない、つまりは失敗。上手くいっていたのにと落ち込むが、ラスフィードは次行こうと声をかけた。
「クレアは火があっていないのかもしれないだけだ、次…水やってみよう」
「うん、わかったわ」
ー†ー
「潤す水、現れよ!アクア!」
「柔らかな風、現れよ!ウィンド!」
「砕く石、現れよ!ストーン!」
すべての媒体を使い、すべての基礎属性魔法を発動させたが、結果は何も起こらないだった。魔法操作が出来れば使えると思っていた魔法は、全く反応を示さなかった。
「特殊も、やってみる…」
「クレア、今日はもう疲れているから…」
「嫌よ!まだ、やれる…」
クレアフューナは光の属性杖を握り、呪文を唱える。しかし、何も起こらない。同じように闇の属性杖を握り唱えるが、何も起こらない。
クレアフューナは再び風の杖を握り呪文を唱える。ジュエルアイズ家はエメラルドを名乗っていた。ならば、魔力的には一番風が相性いいはず。
クレアフューナは何度も呪文を唱えた。ラスフィードが止めるのも聞かずに唱え続けた。しかし、エメラルドの名前を承っていたジュエルアイズ家の魔力でさえも、風の杖は反応を示さない。
「柔らかな、風…あらわ……」
何十回目になるかわからない挑戦の時、体に負担がかかりすぎたのか、クレアフューナは床に足を付けた。ラスフィードは急いで駆け寄り、クレアフューナから杖を引き剥がす。
「どうして、発動してくれないのっ!…何で、どうして」
床をばしんと強く叩きつける。ラスフィードはそっとクレアフューナを抱き寄せ、強く抱き締める。クレアフューナの瞳からはぼろっと大粒の涙が溢れだした。
「落ちこぼれは、落ちこぼれだっていうのっ!魔力だけあってもこれじゃあ…私、存在意味がないじゃないっ!」
次回、あまあまな展開予定です。