3ー2 ラスフィードとクレアフューナ
話は少し遡り、今のクラスに上がってすぐ。ラスフィードとクレアフューナは席が近くなった。
「あ、あなたがファラン王国の王子様ね」
「そうだが…」
「私、クレアフューナ・ジュエルアイズ。まあ知ってると思うけどライトの婚約者だからよろしく」
軽い。
それが最初のイメージ。
「お近づきの印に、はいクッキーあげる」
「…それはどうも」
婚約者がいる女性が、こうも軽く異性にプレゼントをしていいものなのか。しかも手作りのお菓子。王子であるラスフィードに手作りなんて命知らずかと呆れる。なぜなら暗殺を目論んだりして毒を混ぜるなど、日常茶飯事だからだ。そのためそれなりの地位のものには手作りのものはあげてはいけないマナーになっている。
そのマナーを知らないのか、知っているのかわからないがどちらにしても、軽い。
「ラスフィードだっけ?」
「…あぁ」
「じゃ、ラスかな?」
「はぁ?」
「よろしく、ラス!」
軽い、軽すぎる!ラスフィードは憤りすら感じた。クレアフューナの長くふわふわの桜色の髪に、大きなアメジストのような瞳、ふくよかな胸…と見た目はラスフィードの好みなのに、中身が残念すぎる。
もう少しおしとやかな雰囲気があるか、落ち着いてくれればまだ良いが…とにかく頭が軽い。
「じゃまたね!ラス」
「おい、お前授業は…」
「どうぜ聞いたってわからないから…それならお菓子作った方が楽しいから帰るね!」
じゃあねーとにこやかに帰っていったクレアフューナを見て、ラスフィードは色々と残念だと感じた。
それからも何かと軽い調子で話しかけてくるクレアフューナに、若干の迷惑を感じながらも普通に接していた。彼女は頭が軽いだけではなく、悪くもあった。それは真面目に勉強に取り組まないこと然り、落ちこぼれといわれていること然り…。
魔力量だけはとてつもないが、無属性。存在すらも残念な人だと思い始めた。
婚約者のライトハルクもクレアフューナの存在が重荷に感じているようなのは、誰もが感じていることだった。
それを知ってか、ファイアリが猛アピールをライトハルクにしている。婚約破棄も時間の問題だろうとも話されている。
「ラス!おはよー」
「お前、ライトハルクはどうした?」
「え?ファイアリちゃんと一緒、光魔法教えるんだって」
にこにこと離すクレアフューナに、ラスフィードは怒りを感じた。自分の婚約者が他の女といるというのに、なんでそんなに笑っていられるのか。こいつはバカなんじゃないかと今にも叫びそうだった。
「…嫌じゃないのかよ」
「だってライトは私の婚約者だよ?お前の全てが欲しいとかいうのはに。それにファイアリちゃんも友達だもん」
この表情は信じて疑わないという顔、あぁこいつはどこまでもバカなんだと感じると怒りを通りすぎて憐れに感じる。
「じゃ、ラス!私屋上行くね!」
「だから授業は!?」
「だって日差しが気持ちいいだもん、お昼寝してくるー」
「お、お前は…バカかぁっ!」
ラスフィードが図書館棟へ向かっていると、ライトハルクとファイアリが話しているのが聞こえる。
「クレアフューナさんは、魔法省を軽視し…貴方様の婚約者であるのに、お菓子屋なんて夢を見ていますわ」
「はぁ…あいつはもう期待すら出来ん」
「わたくしでしたら、期待は裏切りませんわ。ライトハルク様、どうかわたくしを選んでくださいませ…」
「ファイアリ…」
どうやらついに婚約が破棄されるようだ、ラスフィードはそう感じた。バカではあったが、クレアフューナなりにライトハルクを慕っていたのに、あっさり捨てるのだなとも感じる。
ファイアリにはあんなに献身的に魔法を教えるくせに、クレアフューナには何もしない。クレアフューナも教えてとは言わないが、婚約者なら少しは助けようとは思わなかったのだろうか。
「確かにバカだけど、憎めないんだよな」
「…あれ、あれは」
ラスフィードが図書館棟の窓から見えたのは、クレアフューナ。
見た感じは魔法を練習しているようだった。もしかしてサボっているのは、1人で練習していたのだろうか。いや、気まぐれで使ってみようとでも思ったのだろう。しかし、失敗しているようだ。魔法操作さえも彼女は出来ないようだ。
「あんなやり方じゃ出来ないだろ、もう少し勉強しろ、よ…」
ラスフィードがクレアフューナから目を離そうとすると、クレアフューナの目から一筋涙が流れたのを見つけた。
「へぇ、悔しいという気持ちはあるんだな…」
意外に思うのと、少しだけ同情する気持ちが芽生えたラスフィードは、次に会ったらなにか助けてやるかと思った。
「まずは、魔力操作から学ばないと」
「今さら魔力操作って、なに考えてるんだ?お前」
珍しく図書館棟に現れたから、少し助けてやるかと思って話かけるラスフィード。ちなみに、授業中でここにいるのにはわけがあり、蔵書が必要になったからだ。
「…ファラン様?授業中じゃ」
は?
まず感じたのはその一言。あの軽い呼び方はどうしたのか、あのバカっぽい雰囲気はどこへ行ったのか。
「お前が俺を様付けなんて、気持ち悪い」
「だって、王子様で…」
「お前、変なものでも食べたのか?」
「ら、ラスフィード…様」
「…熱でもあるのか?」
「ありませんっ!」
話せば話すだけ違和感しかない。まるで別人と話しているようだ。ラスフィードはもやもやが止まらないが、クレアフューナが聞きやすくというよりは、いつもの軽い感じではない調子で話すのでラスフィードも真剣に聞いた。
どうやら、婚約破棄を言い渡されたようだ。人格を変えてまで変わろうとしているのだろうか?
「…つまり、ライトハルクとファイアリを見返したいのか?」
「え、全くないです。ただ私はこの魔力量とジュエルアイズに驕っていたのです。だから、それに見合う人になりたいと思ったの…」
「……人が変わったようだな、お前」
「そう思ってもらっても構いません」
あまりにも変わりすぎている。しかし、無理をして人格を変えているようではない。このクレアフューナも今までとは別人格としてもともとあったような、それくらい違和感がない。
しかもこれはラスフィードの好みの雰囲気、そのまま。少しおしとやかな感じに、落ち着いていて…どこか儚げ。
やばい、これはやばい。ラスフィードは自分の鼓動を抑えるのに必死だった。
あのとき、魔法が使えなくて泣いていたクレアフューナを見た時に感じた気持ち。助けてやろうとは別の、恋心。そんなはずはないと思い忘れた気持ちが、溢れ出す。
「ら、ラスフィード様!?」
クレアフューナの朱に染まった顔を見つめ、ラスフィードは決心する。
「クレアフューナ、俺とパートナーになれ」
こいつは、俺が守りたいと。
ラスフィード視点の出会ってからパートナーを組むまでの話。
ラスフィードはもともとクレアフューナは好みのタイプでしたが、中身が苦手でした。
しかし、双葉が入ったことで中身までタイプになっていきました。
ラスフィードさん、もうアタック開始します(笑)
ちなみに今のクレアフューナになら敬語などはいらないという意味は、昔はそこまで親しくなかったからであり、今は親しくなりたいからいらないということです。




