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1 転生しても、振られました

「クレアフューナっ!」

「はいっ!……って、私?」

双葉が目を覚ますと、今までの記憶に新しい記憶が追加されていた。

頭の中の整理が追い付かず、混乱していると教室中からくすくすと笑い声が聞こえてくる。どうやら、授業中に居眠りをしてしまったようだった。

「…わからないのならば、座ってよろしい」

先生らしき女性は、溜め息を1つつき双葉…クレアフューナに向かって言葉を投げ掛けた。何が何だかわかっていないクレアフューナは、ゆっくりと記憶の整理を始めた。


まず、御影双葉はあの時刺されて死んだらしい。

どういう経緯でこうなったかはわからないが、記憶を持って転生したようだ。しかし、記憶がない状態で転生し今居眠りしていた時に、夢という形で前世の記憶を取り戻した…と考えられる。


ー彼からたくさん借りていたラノベでは、こういう転生モノにはチート級スキルがよくあるのよね。


ならば、この世界でどんな人生が待っているのか。勇者として旅に出たり、はたまた、聖女として崇め奉られたり…。気分がウキウキしてきた双葉だったが、クレアフューナの記憶がその気分に待ったをかける。

そう、自分にはないのだ。この世界にあるものが。

「…どういうこと?」

ぽそっと呟いた双葉の声は、誰にも届いてはいなかった。


昼休み。

双葉は1人になれる場所で更に整理を始めた。


今の名前はクレアフューナ・ジュエルアイズ。

由緒正しいジュエルアイズ家の一人娘。この王国では王家に次いで魔力が高く、一族はすべて宝石の名を貰っていた…はずだった。

クレアフューナが10歳になるまでは。

この世界では、火・水・土・風の4大元素に加え、光・闇の特殊、計6属性の魔法が存在する。それぞれの属性の最高の使い手には、宝石の名が授与される。


火『ルビー』

水『アクアマリン』

土『ラピスラズリ』

風『エメラルド』

光『クリスタル』

闇『アメジスト』


ジュエルアイズ家は『エメラルド』の名を承っていたが、クレアフューナが10歳の時にその名を失った。

次期当主であるクレアフューナの魔法特性を調べた時、何の反応も示さなかった。ただ莫大な魔力を保持している『無属性』だったのだ。

無属性が発覚すると、現当主つまりはクレアフューナの父は、一族の恥としすぐさま名前の返還を行った。

しかし、属性がなくともその魔力は莫大。魔力量だけで言えば一族の中でも過去類を見ないものであったため、父はクレアフューナを王家に嫁がせ、名誉を保たせようとしていた。

莫大な魔力は受け継がれるとされているため、王家もそれを断ることがなかった。


婚約者として選ばれたのは、この王国の第一王子…ライトハルク・クリスタル・ジークライン。光の使い手だ。

魔力だけを目的としていることが気にくわなかったクレアフューナは、勉強やマナー教室、ダンス、魔法などすべてにおいて真面目に取り組むことをしなかった。

したところで、無属性の自分は落ちこぼれだと察していたから。

「…つまり、魔力だけはチート級でも使いこなす能力も属性も何もないということなのね」

クレアフューナは溜め息を大きく1つつき、項垂れる。彼に言われて読んでいたラノベの転生者はみな、すごい能力を持っていたり、隠していたりしているのに。

「魔力だけじゃ、意味がないじゃないのよっ!」

長い桜色の髪を振り回して、クレアフューナは叫ぶ。ラノベは興味なかったが、読んでいくうちに楽しくなっていた…そんな世界で落ちこぼれなんて…。

「クレアフューナ、こんな所にいたのか」

あまりに自分の世界に入り込んでいたクレアフューナは、後ろから近づいてくる人に気付かなかった。急に名前を呼ばれ、クレアフューナは驚いたような表情で後ろを振り向く。

するとそこに立っていたのは婚約者のライトハルクと、確か同じクラスの女の子。

「ジ、ジークライン様に…トロイメンツさん?」

クレアフューナの呼び掛けに2人は首をかしげる。ライトハルクは率直に、呼び方どうしたんだ?と聞いてくる。急に呼び掛けられ、記憶の整理が追い付かず、いつものクレアフューナではなく、双葉の記憶を持ったクレアフューナで呼んでしまったのだ。

「あ、いえ…えと」

「まぁいい。どうせ、ファーストネイムで呼ぶことももう出来ないからな」

「どういう…」

どういうこと?とクレアフューナにはライトハルクは言わせなかった。ライトハルクがその言葉を遮ったからだ。

「クレアフューナ・ジュエルアイズ。お前との婚約を破棄する」

ライトハルクの言葉にクレアフューナは酷く驚く。記憶の中のライトハルクは、お前が欲しい、お前のすべてが欲しい。俺にはお前が全てだ…とかそこまで甘くもない、軽い言葉をかけていた。つまりそれは、クレアフューナの『魔力』が欲しい…ということだと理解するのは、とても簡単なことだった。

「この俺が愛していると囁いても、顔色1つ変えず…その上ジークラインの名前を傷つけるような行動の数々…!それどころか、私はお菓子屋になるとかぬかしたそうだな?全てファイアリに聞いた」

ライトハルクは横にいた女性に顔を向ける。ファイアリ・ルビー・トロイメンツ、ルビーの名を承っているトロイメンツ家の長女。成績上位で、とても美人な女性。

「クレアフューナさんは、王国を支える大事な魔法省をそんなものと軽視し、ライトハルク様に将来添い遂げるはずが、お菓子屋になると話していましたわ」

ファイアリの言葉に自分の記憶を思い返す。…確かにそんな話をしていたような気がする。自分の身分を考えて物事を話そうねと自分で突っ込みたくなる話だ。記憶が戻る前のクレアフューナはお菓子作りが大好きでよくライトハルクにも作っていた。お菓子屋になるのもいいかもとも考えてはいた。といえ、それをファイアリに言ってしまうのだから、双葉と違い随分頭の弱い子だったのだ。いや、半分自暴自棄になっていたのかもしれない。

「そんなお前には愛想がつきた。横にいるファイアリと婚約し、結婚する。お前とはもう何の関係もない」

「それでは、ごきげんよう」

無表情のライトハルクに、勝ち誇ったようなファイアリはクレアフューナのもとから足早に去っていった。残されたクレアフューナというと、ただ唖然とするばかりだった。

御影双葉の最後の記憶、彼に振られたのとかぶったのだ。

「男って、やっぱり美人を選ぶのね…」

容姿だけではないことくらい、クレアフューナにはわかっている。しかし、前世の記憶を取り戻したばかりのクレアフューナにとっては気にならないはずはなかった。

「…転生しても、振られてしまうのね」



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