11 試験の前に甘い時間を…
少しR15な雰囲気入ります。
苦手な方注意してください。
初めて属性魔法が成功してから2ヶ月、ついに明日は学期末試験になってしまった。
ラスフィードが一緒に勉強してくれたのと、もともとの真面目さで筆記試験はばっちりだった。問題は明日の実技試験。
あれから属性魔法も防御魔法も、サイズはテニスボール台から大きくならなかった。
クラス中に聞こえるようにした宣戦布告は、いつの間にか学校中に広まっていた。
その戦いはどちらが勝つのか、一部では賭けが行われているとかないとか…。
そんな中、町中で噂になっているのは魔族について。
学んでいる中にある魔法史でクレアフューナは習ったが、何百年も前に人と魔族で戦っていたという。戦いはただの領土争いから、お互いを滅ぼそうとする戦争へ。
戦いは何十年にも渡り、1人の少女の力とある国の王の力で魔族を封印し、終結を迎えた。
その少女は人間だが魔法を使え、魔法使いの始祖ともされ、目映い力を使用していたため、ダイヤモンドと呼ばれたという。
そして現在、その魔族が何者かが封印を破り、家畜を襲っているという噂が町に流れている。
ただ人間が荒らしているのではという話もあるくらいなので、特に国をあげて調査などもしていないらしい。
ラスフィードは隣のファラン国の王子として、気になったのか調べるように手紙をだしたとは言っていた。
ファラン国では、魔法史に出てきたダイヤモンドと力を合わせ魔族を封印したとされており、ラスフィードはただの噂でなかったらと危惧していた。
「魔法が攻撃魔法ばかりなのも、いつか封印が破られた時に対抗するためで、学園があるのも一般よりも高い魔力を持つものを育てるためで…。現在の状況は生活が便利になるくらいの力で、国同士の抑止力くらい」
もし、噂が本当なら…戦いに繰り出されたりするのだろう。
ラスフィードは国に帰ったり…。
「…あぁもう!そんなこと考えても仕方ないわ…それよりも、問題は明日」
クレアフューナは緊張を紛らわす為にお菓子作りをしていた。すでに作り上げたお菓子の種類は5種類、そんなに作ってどうするのだという話なのだが、それくらいしても気持ちが落ち着かなかったのだ。
「何で試験方式が対人戦なのよ…」
宣戦布告はもちろん先生達にも知れ渡っており、わざわざ試験内容を対人戦にしたらしい。余計なお世話をしてと怒りをクリームにぶつける。
その余計なお世話はきっと、試験中にも影響してくることは明確。対戦相手はライトハルクとファイアリになるはずだ。
「それなりに相手の分析はしたけれど、勝ち目は正直ないわ…ただ」
クレアフューナは泡立て器の柄をぎゅっと握った。
「勝つための鍵は、持っている」
きっとこの世界でクレアフューナだけが使えるであろう、防御魔法。
これがきちんと成功すれば、勝てるだろうが…。
「問題はテニスボール台しか防御出来ないのよね……」
それではあまりにも心許なさすぎる。しかし、今更足掻いて練習しても明日までにどうにか出来るとは思えない。
どのようなルールで試験を行うかわからないが、その時に最大限頑張っていくしか方法はない。
「…ラスフィのために、頑張らなくちゃ」
クリームを立て終え、焼き上がり冷ましておいたスポンジケーキに乗せていく。フルーツの飾り付けをして完成した所で、扉を叩く音が聞こえる。
急いで扉に駆け寄り、開けるとそこにはラスフィードの姿が。
「遅くにすまない、少しいいか…っと、案外良いタイミングに来たかな」
エプロン姿のクレアフューナに笑みを浮かべ、頬に跳ねてついたであろうクリームを、人差し指ですくい舐める。
「あれ?今日少し甘め?」
「すごい、気付いたのね!」
ラスフィードの言葉にクレアフューナは嬉しそうに反応する。明日の試験に向け、エネルギーに変えられるよう、また疲れを和らげるよう気持ち砂糖の量を増やしていた。
作ったお菓子は明日、試験前に少し摘まもうと思っていたが、ラスフィードが来たことでちょっと予定が変わる。持っていっていくお菓子がクッキー類だけになるだけだが。
「ラスフィ、ケーキ食べていく?」
「もちろん。実は国からコーヒーが届いたから一緒飲まないか?」
「コーヒーっ!?」
ラスフィードのコーヒーにクレアフューナはものすごい食い付きを見せる。
このジークライン国では紅茶を良く飲み、コーヒーは飲まない。その為コーヒーは価格が高く、一般人ではそう飲む人はいない。
しかし、クレアフューナは双葉だった時は紅茶よりもコーヒー派で毎朝必ず飲んでいた。最近飲んでなくて恋しくなっていたのだ。
「なんだ、クレアはコーヒー好きなのか」
「えぇ、とても!」
満面の笑みのクレアフューナに、ラスフィードまで嬉しくなってくる。
紅茶派のジークライン国とは反対に、ファラン国ではコーヒー派が多く色々な豆がある。ラスフィードももちろんコーヒー派で、部屋ではずっとコーヒーを飲んでいた。
「俺達、かなり趣向がそっくりなんだな」
「そうみたいね」
学食で選ぶメニューや、好みの味付け、お気に入りのお店など…ここ数ヶ月で、自分がかなり相手に近いことをお互いに感じ取っていたらしく、なんだか嬉しく感じられた。
「じゃ次送って貰うときはクレアの分も送って貰おうか」
「そんな、悪いわ…」
「俺がしたいんだ、気にしないで」
にっこりと笑いかけるラスフィードに、クレアフューナはこくんと頷くしかなかった。良い子だと頭をそっと撫で、ラスフィードはクレアフューナの部屋に入っていく。
「コーヒー、俺がいれるね」
「私がいれるわっ!」
「クレアはケーキの準備してね」
ラスフィードが持つコーヒー豆を奪い取ろうとするが、ラスフィードにさらりとかわされ、クレアフューナは少し不機嫌になりながらケーキを準備する。
手際よくラスフィードもコーヒーを入れていく。部屋の中には久々のコーヒーの香り。
「キリマンジャロに近い香り…」
「何か言った?クレア」
「ううん。…いい香り」
クレアフューナの言葉に、ラスフィードは満足げに頷く。
ミルクと砂糖はどうするとラスフィードに聞かれ、クレアフューナは少し悩むがどちらもいらないと答える。
いつもだったらどちらもいれるが、この世界に来て初めてのコーヒーの味を楽しみたいのと、ケーキが甘めだというので今回はブラックにした。
「俺もブラックにしよう。クレアのケーキが甘めだったからな」
テーブルにケーキとコーヒーを運び、隣同士に座り、まずはコーヒーを1口。
コーヒーの苦味の後にすっきりとした味、とても美味しい。そしてケーキを食べる。…至福。
「美味しい…」
「喜んで貰えて俺も嬉しい」
優しい満面の笑みをラスフィードはクレアフューナに向ける。
そんな表情を見たクレアフューナは、身体中に優しく温かいものが流れていくのを感じた。
それは魔力のような、甘い感情。
「…クレア?」
「私…明日、ラスフィのために、頑張りたい」
こんな気持ちになれる、こんな気持ちをくれる。こんなに幸せな気持ちになれたのはラスフィードに会えたから。
ラスフィードのおかげで、頑張れた。
だから、明日はきっとラスフィードのために…。
「クレアフューナ」
「はい」
ラスフィードはクレアフューナの手をしっかり握り、真面目な表情で見つめる。
クレアフューナもそれに答えるように、真剣に見つめ返す。
「俺もお前のために、この剣を奮おう。どんなものからもきっと守り抜こう」
「ラスフィ………ラスフィード」
「愛している、クレアフューナ」
「私もよ、ラスフィード」
そっと瞳を閉じて、唇が重なるのを待つ。
そして重なる。
柔らかく、温かく、甘い口付け。
長い時間重ね合い、ラスフィードはクレアフューナの体を抱き上げ、ベッドへ運ぶ。
いつもよりも余裕のない、だけど月明かりに照らされるラスフィードの表情は、今まで見たどの表情よりも素敵だった。
クレアフューナはラスフィードの首に腕を回し、ただ一言「好き」と囁いた。
ラスフィードは再びクレアフューナに深く口付けし、唇を首筋まで落としていった。
「あ………っ」
「クレア……愛してる」
月明かりに照らされる2つの影が、1つになるとき。
心も体も、その魔力でさえも1つになった気がした。
ケーキのように甘い時間は、夜遅くまで続いた。




