8 パートナー対戦、勃発!?
あけましておめでとうございます。
そして、遅くなり申し訳ありません。
今年も頑張っていきますので、よろしくお願いします!
「おはよう、ラスフィード王子…クレアと婚約したらしいな」
不穏立ち込める教室でまず先手を取ったのは、ライトハルク。横にはファイアリの姿もあった。
ラスフィードはクレアフューナを背中に庇うように立ち、ライトハルクの挨拶に答える。
「おはようございます、ライトハルク王子。貴方の言う通りクレアは俺の婚約者なんで…気安く‘クレア’と呼ばないでいただきたい」
冷たい眼差しで、ラスフィードはライトハルクを睨み付ける。凄みがある表情に、ライトハルクは一瞬怯んでしまう。ひきつった笑顔を浮かべ、それはすまなかったと言葉をかえす。
ラスフィードの後ろから、クレアフューナがそっとライトハルクの表情を覗き見ると、ひきつった笑顔の中に憐れみの表情が読み取れた。自分と婚約することがどういう意味か、それはクレアフューナ自身がよく知っている。横にいるファイアリも憐れみの表情でラスフィードを見つめている。
「まぁ、婚約おめでとう…ラスフィード王子」
「そちらもおめでとうございます、ライトハルク王子」
光と闇の能力故に、あまり仲が良くはなかった2人だが、更に険悪な雰囲気になってきていることにクラス中が青ざめながら気付く。
そんな空気を真っ二つに切って現れたのは担任教師、大きな音を立てながら、席につけと叫ぶ。
素早く席についた生徒を見つめ、1つ頷くと再び話を始める。
「来週から始まるパートナー制度だが、皆パートナーは決めただろうか?まだのものは速やかに決め、申請をしに来るように。今学期末にはパートナーで試験も行うので、そのつもりで」
担任教師の話が終わると、個人が作成している時間割になぞらえて、教室へと移動していく。
1限目には授業をいれていないクレアフューナは、自習室へと向かおうと荷物を持って立ち上がると、それを防ぐようにファイアリが姿を表す。
「あら、クレアフューナさん。さっそくおサボりですの?」
初めからそんな雰囲気ではラスフィード王子が可愛そうですわと、クラス中に伝わるような大声でクレアフューナに告げる。
クレアフューナは、そんなファイアリに付き合っている時間が勿体無いと思い、頭を軽く下げ失礼しますとだけ告げて、ファイアリの横を通り過ぎる。
すると、ファイアリはクレアフューナの腕を掴み、嘲笑うような表情を浮かべながら告げた。
「ラスフィード王子もこんな人を婚約者にするなんて、見る目がないんですわね」
「……トロイメンツさん」
「あら?何かし、ら…」
くすくすと笑いながらクレアフューナの顔を見ると、その目は怒りに満ちており完全にキレている表情だった。
その表情の恐ろしさに、ファイアリはクレアフューナの腕を離し距離をあける。クレアフューナはファイアリの目から視線を全く離そうとはせず、しっかりとにらみ続ける。
「私はいくら悪く言おうと構いません。実際、そう見られても仕方ありませんから。…しかし、ラスフィのことを悪く言うなら…私、何をし出すか…わかりませんよ?」
実際、魔法はまだ使うことは出来ないが、視線を外さずに脅しをかけるくらいならできる。
クレアフューナは左手を前に差しだし、魔道具の指輪に魔力を集め放出させる。
今まで出来たことのない、むしろ見たことのないクレアフューナの魔法を使う姿にファイアリは完全に怯えている。
クラスに残っている生徒は、クレアフューナが勝ったと確信した。
「そこまでにしたら?クレア」
「…もちろん、そのつもり」
クレアフューナは集めた魔力を瞬時に消し、ファイアリに背中を向けた。
だが、1つ言い忘れたことを思いだし、再びファイアリに向き直す。
「トロイメンツさん。貴女の今の行動は、全てパートナーであり婚約者のライトハルク王子にも迷惑がかかることを、お忘れですか?」
クレアフューナの言葉にファイアリは顔を青くしていく。今までそんな王族や貴族のマナーなんて、気にしていなかったクレアフューナの
口から出てくることに、一部の生徒は驚いていたが、クレアフューナは気にしないことにした。
「勝負でもしたいのでしたら、もっと正々堂々としたらいかがですか?」
「確かに、クレアフューナの言う通りだ。ファイアリ」
「ライトハルク様…」
今にも泣き出しそうな表情でファイアリはライトハルクの顔を見つめる。ライトハルクは視線をずらすことなくクレアフューナを見つめる。
休み中に何があった?今、俺の前にいるクレアフューナ・ジュエルアイズは知っているクレアフューナではない。全くの別人のようだ。
凛とした佇まいに、圧倒されかけてしまう。
「…クレアフューナ、そしてラスフィード王子。学期末試験で、勝負だ」
「望むところですよ、ライトハルク王子」
ライトハルクの提案を即座に肯定したのはクレアフューナではなくラスフィード。
相手は光のクリスタルに火のルビーの名前を承るペアで、こちらは闇のアメジストの名前を承るラスフィードに、漸く自由に魔力を放出することができるようになったクレアフューナ。どう見ても勝ち目はないのに、なぜ勝負を受けるのと不安そうな視線をラスフィードに送るクレアフューナ。
しかし、ラスフィードは先程のクレアフューナのようにしっかりとライトハルクに視線を向けている。
ラスフィードは信じているのだ、自分達が勝つことを。
だったら、そのパートナーを信じなくてはいけない。
「…私も、望むところです」
「ふっ……ならば、勝負だっ!」
ー†ー
「ラスフィっ!」
勝負の啖呵を切った後、クレアフューナとラスフィードは自習室へと向かっていた。
自習室へ着いた瞬間に、クレアフューナはラスフィードの名前を呼ぶ。どうして呼ばれたかなんてわかりきっているラスフィードは、にっこりと笑ってクレアフューナの名前を呼ぶ。
「俺達なら、出来る」
「でもっ!」
「なら、なんでクレアも賛成したの?」
その答えもわかりきっているが、クレアフューナの口からきちんと聞きたいラスフィードは、知らないふりをしながらクレアフューナに問いかける。
「…だって、パートナーのこと信じているし……ラスフィの顔に泥を塗りたくないし」
「それだけ?」
「~~~っ!いじわるっ!」
「何がかな?言わないとわからないよ?」
クレアフューナは顔を真っ赤にしながら、口を魚のようにぱくぱくさせ、やがて諦めたようで視線をラスフィードから離しながら小さな声で呟いた。
「…ラスフィが、私を信じてくれたから。大好きな人の為に頑張りたかったの」
もじもじしながらそう話すクレアフューナの姿が可愛すぎて、愛おしすぎて堪らなくなったラスフィードは、クレアフューナの体を自分に引き寄せ、優しく抱き締めた。
「ら、ラスフィっ!?」
「可愛すぎるよ、クレア」
「ちょっと、ラス……っん」
よく言えましたと小さく囁いたラスフィードは、すぐにクレアフューナの口を自分の唇で塞いだ。
甘いキスの雨に、クレアフューナはラスフィードの背中に手を回し、しっかりと答えた。
「…必ず勝とう、クレア」
「はい、ラスフィ…………んんっ」
かくして、学期内パートナー対戦が勃発したのだった。




