プロローグ 彼氏には振られるし、刺されるし…
「え…?今、なんて……」
笑顔を崩すことなく、少女は少年に問いかけた。
少年は溜め息を1つつき、呆れたような表情を少女に向けた。
「だから、別れようって言ったんだよ。言葉の意味がわからないとかないだろ?双葉」
少女…双葉はこくんと頷く。別に言葉の意味が知りたかったわけではない。その言葉の理由が知りたかったのだ。
ー御影双葉、高校3年生。
ー受験戦争が始まる直前…初めての彼氏に、振られました。
誰もいなくなった教室。彼氏の言葉が、頭の中を駆け巡る。嫌われないように、彼氏の趣味に合わせ、彼氏に合わせていった。
特に興味もないラノベもたくさん読んだ。
「…真面目、すぎるから別れるってなんなの?」
彼氏が大好きだった。初めて告白してくれた、彼氏が大好きだった。
彼氏が求めるなら、手を繋ぐこともデートも、キスでさえも拒むことはしなかった。嫌われたくなかったから。
言いなりになっていたことか真面目とされたのか、ただ飽きたのか。
「わからない…」
今の自分の気持ちもわからない、悲しいのか寂しいのか、彼氏が本当に好きだったのかすら。
「だって、涙すら出ないよ…?」
双葉に残されたのは、振られた事実と知らなくていいラノベ知識。
ふと、窓の外を見るとそこには元彼氏と…他の女子。
下の学年にものすごく可愛い子がいると噂されている…まさにその子だった。
「…真面目、とか。そんなの関係ないってことでしょ」
それならば、他に好きな子が出来ただけでよかった。真面目しか取り柄がないと知っているからこそ、双葉はその言葉が深く心に刺さったのだった。
陽も完全に落ち、教室に残っていると先生に早く帰れと怒られる。残っていても仕方ないし、どうしようもないことはわかっていたので、双葉は鞄を持ち学校を出る。
真っ暗な道を歩いていると、後ろから誰かにつけられている感覚に襲われる。そういえば、今朝のニュースで通り魔が出たとか言っていたと思いだす双葉。全身に恐怖の震えを感じ、帰り足のスピードを早める。すると後ろをつけてくる足音も同じくスピードをあげる。
ー間違いない、ニュースの通り魔だ…。
冷静さが欠けた双葉は、鞄からスマホを取りだし警察に連絡する。
「あの、今誰かにつ…」
誰かにつけられている、そう伝えたかったが双葉には伝えられなかった。後ろからつけていた通り魔が双葉のスマホを取り上げたのだった。助けを呼ぼうと叫ぼうとするが、叫ぶ前に口を塞がれ…双葉は、胸を刺されたのだった。
ー彼氏には振られるし、刺されるし…今日はいいことないなぁ。
まさかこのまま死んでしまうなんて思っていない双葉は、襲ってくる眠気に抗うことなく落ちていった。
そう、これか『御影双葉』の最後の記憶…。
はじめまして、霧咲蒼と申します。
王道恋愛モノがとても大好きです。
頑張って更新していきますので、よろしくお願いします!