その2
夢を見ていた。
夢の話なんてしたところで、甚だ時間の無駄である事を私は馬鹿なりに分かっているんだけれど、
いや、寧ろ馬鹿だからこそ、分からないからこそ、その話しをするのだろう。
しかも、その見た夢を語るのが私だというからちゃんちゃら可笑しい事この上ない。
そう、私は夢を見た。夢を見ていた。
こんな馬鹿な私が見る夢とは、いったいどんなに破天荒で奇天烈なものなのか
きっと、蓮やよもぎに話したら、例えば困ったように、例えば馬鹿にしたように、いつもみたいに笑い飛ばしているんだろうか?
気がついたら私はそこに居た。
蓮やよもぎ、それに顔見知りのクラスメイト達。
受験勉強の話しだったり、昨日見たテレビ番組の話し、恋愛の話し。
堅苦しい担任教師のお説教から解放された彼等彼女らの中で、まるで水を得た魚のように色々な議題で語り合っている。
だけれど、その中に私は居なかった。
すぐ目の前に居るのに、最初から『私』なんて居なかったみたいに、存在していないように
私は認識されていなかった。
声も届かない、触れることもできない、そして感じる事もできない。
最初はみんなから無視されているのかと思った。
何かみんなに嫌われるような酷い事をしてしまったのかと戸惑った。
そんな怖さに溺れて窒息してしまいそうになった。
意識が朦朧としながら私は逃げ出した。その苦しいばかりの恐怖で朽ち果てる前に駆け出した。
教室を抜け出し、昇降口を飛び出し、駐輪場を通り過ぎて駆け出した。
『なんでみんな、私を見てくれない?』
不安になって口から漏れ出す。
乾いたような酷い声が溢れ出す。
気がつけば、学校からも遠く離れた見慣れないところへ来ていた。
周りはアスファルトだらけで、巨大なビルがまるで絵本に出てくる怪獣のように並んでいた。
人は死に物狂いで走ると、時として信じられないパワーを引き出すものだ。
どっかの本にそう書いてあった。
『酷い顔してるな。ほら、これで顔でも拭けよ』
『あぁ、サンキュ』
蓮からタオルを受け取ると、それで豪快に顔をゴシゴシと擦る。
・・・・・ん?
気がつくと、そのお節介な幼馴染の姿はなかった。
そして、私の目の前には何も映っちゃいないのに、殺風景なスクランブル交差点は、まるで雨に打たれた水管窟のように五月蝿い音を流した。




