その11
よもぎと一緒に、美月の部屋へ訪れた。つもりでいた。
しかし、そこには美月の部屋はなくなっていた。
美月の職場へ行こうと、美月の実家へ行こうと美月の姿はどこにも見つけられなかった。
スマホで電話を掛けても、まるで梨のつぶてと言わんばかりに音信不通だった。
「もう日が暮れるし帰ろうよ。」
よもぎがうんざりしたような口調で言う。
「・・・本当に忘れちゃったのか?美月の事を・・・あんなしつけの悪い奴の存在を?」
目につけば注意してばかりいたアイツを?
問題児中の問題児である美月の事を?
何より、幼馴染なのに?
天野美月を忘れたって言うのか?
「私は知らないけど、蓮がそんなに一生懸命だって言うなら、きっととっても大事な人だったんだって言うのはわかるよ。だけど、ごめんね。」
その「ごめんね」がとてつもなく苦しく感じた。
そんなに胸が痛くなるような言葉を僕は知らない。
そんな風に謝らないでくれよ。
「ね。もう暗くなるし。帰ろう。」
「・・・・・・・。」
焦っていたのか気がつかなかった。
僕は片手で彼女の手を強く握りしめてしまっていた。
痣になってしまうほどに強く。
もしも、あの時一方を選んでいれば、きっと違う結果になっていたんじゃないだろうか・・・。
だから、そう思うと悔しくて堪らない。
だけど、もしもあの時にもう一方を選んでいなかったのなら、きっと今はなかっただろう・・・。
そんなどうしようもない「選択」に僕は子供みたいに癇癪を起こす。
そして、さっきまで抱えていた借りた本が手元から失っていることに、気がついた。
どうしてだろう・・・。
それを見たときに僕は不意にこんな事を思ってしまった。
「きっと僕もまた美月を忘れてしまうんだろう・・・。」っと
頭の上いっぱいに広がっていたはずの琥珀色の夕焼けが少しずつ重たいコバルトブルーに食い殺されていくのを見ながら
僕は堪らなく両目から涙を流すんだ。